「風邪薬を飲むと治りが遅くなる」ってホント?
わざわざ病名を冠した風邪薬なのに、服用することで、かえって治癒が遠ざかることなんてあり得るのでしょうか。だとすれば、一体なんのための薬なのでしょう。身近に感じる風邪薬の用・不要論も含めて、「いつもジェネラルクリニック」の金先生を取材しました。
監修医師:
金 児民(いつもジェネラルクリニック 院長)
韓国にて医師免許取得。アメリカへ留学後、厚生労働省認定を受け日本医師免許取得。東京女子医科大学病院救命救急センター救急医学科へ入局後の2018年、神奈川県相模原市に「いつもジェネラルクリニック」開院。病気の早期発見のためにも、「来院しやすい」環境に努めている。
風邪薬はなんのための薬なのか
編集部
風邪薬の目的って、「諸症状の緩和」ですよね?
金先生
その通りです。風邪薬はあくまで、発熱や咳(せき)、鼻水などの“つらい”諸症状を緩和させることが目的になります。風邪の直接的な原因は、インフルエンザウイルスなどへの感染であり、ウイルスそのものを風邪薬で退治することはできません。
編集部
発熱や咳は、体の防御反応と聞いたことがあります。
金先生
ウイルスは熱に弱いですし、咳には体内に入った異物を排出する役割があります。鼻水にも菌やウイルスを付着させて、それ以上体内に侵入させない効果があります。総じて、ヒトが獲得した防御反応といっていいのではないでしょうか。
編集部
でも、諸症状がつらいから薬に頼ってしまいます。
金先生
今回のご質問が、「風邪薬を飲むか、飲まないか」の二択だとしたら、私の結論としては「飲む」です。職場などでの“周囲の目”もあるでしょうし、なにより症状がつらいですよね。それが風邪薬で楽になるなら、積極的に活用しましょう。ただし、「飲まないほうがいいかもね」という方が、一部にいらっしゃいます。
編集部
薬の飲み合わせや禁忌とかですか?
金先生
それもありますが、出勤や通学といった“行動上の縛り”がなく、十分な休養をすぐに取れる方です。ウイルスは自分の免疫力で退治するので、「かかりはじめの十分な休養」が欠かせません。例えば、未就学児で細菌感染症の恐れがない場合などの風邪薬は、“最低限”でいいと思います。家で寝ていられるなら、寝て治していただきたいですね。
編集部
つまり、風邪薬を飲んで「頑張っちゃっている」から長引くと?
金先生
その傾向はあるでしょう。薬の効能を問うのではなく、生活の中身が反映されますよね。「この程度の風邪では休んでいられない」、「帰りたいんだけど、食事会に付き合おう」など、そういう無理を続けていると風邪が長引きます。風邪薬を飲むと、無理ができる気になるんですよね。
風邪でも医療機関を受診すべきなのか
編集部
ちなみに、ウイルスそのものを退治する薬はないのですか?
金先生
例外を除くと、基本的には「ない」と考えていただいて結構です。通常なら、風邪などのウイルスは、引きはじめから1日から2日の間に“自己免疫によって”死滅しています。ただし、咳や熱などの諸症状は、その後5日間ほど持続します。この「引きはじめ」のタイミングが重要で、持っている体力を“全集中”させるためにも、寝ていていただきたいということです。
編集部
風邪で寝ていると、寝汗をかきますよね?
金先生
ウイルスは熱に弱いので、基礎体温を上げることが有効です。また、風邪を引いても「熱が出にくい方」がいらっしゃいます。そのような方は、なおのこと暖かくして寝るようにしましょう。寝汗に関しては体を冷やしかねないので、下着のこまめな交換に留意してください。また、水分補給も忘れないようにしましょう。
編集部
寝ている間、風邪が肺炎などの重篤な病気に発展することはないのですか?
金先生
難しいのは、今の症状が「本当に風邪によるものなのか」という見極めです。実は違っていて、「扁桃炎(へんとうえん)」や「副鼻腔炎(ふくびくうえん)」を起こしているケースが少なくありません。「おなかの調子が悪い、風邪ですよね?」と言われて調べてみたら、「盲腸」だったこともあります。ですから、勝手に風邪だと思い込まず、受診だけはしていただきたいですね。積極的な治療を要する病気なのに放置していたら、重篤化するかもしれません。
編集部
寝ているか受診するか、結局どうすればいいのでしょうか?
金先生
理想は、「引きはじめ」の軽いうちに受診して、風邪だとわかってから休養です。受診は、「気のせい」くらいのタイミングでもいいと思うんですよね。「大丈夫です、健康です」も立派な診断結果です。仮に風邪でも、正しい生活習慣や食事内容をアドバイスします。ちなみに「風邪にやられないため、焼き肉をガッツリ食べよう」ではないです。「消化に体力を奪われないため、おかゆやうどんにしよう」です。
風邪についての“間違った”あるある
編集部
素人考えで間違っていそうなことって、まだまだありそうですね?
金先生
今回のご質問との関連でいえば、「風邪薬を飲んだから、もう大丈夫」といった誤解でしょうか。風邪の治りは自身の免疫力で決まります。そして、免疫力の元となるのは体力です。ここさえ間違っていなければ、風邪薬を利用するもしないも自由ですし、結果として回復するまでの時間もそんなには変わりません。
編集部
好ましくない生活スタイルがわかったとしても、すでに風邪を引いてしまった場合は?
金先生
仮に「今回の風邪」には間に合わなかったとしても、「次の風邪」で活用できますよね。よく、「風邪を引きやすい体質なんです」などと言う方がいらっしゃいますが、医師としては「それだけ悪い習慣をたくさん抱えているか、別の病気による影響が出ている」と考えます。基本的な事柄だけでもいいので、正しい知識を得ていただきたいです。
編集部
風邪薬の是非ではなく、生活や知識の問題ということですか?
金先生
その通りです。風邪薬は、現代生活にとって欠かせないものでしょう。ただし、風邪を治すためのお薬ではなく、生活に折り合いをつけるためのお薬です。そして、風邪が長引くかどうかを決めるのは、みなさんの行動ということです。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
金先生
本当の風邪であれば、医師の処方したお薬を“飲みきらなくても大丈夫”です。「治った」と感じた時点で、服用をやめてください。他方、医師や薬剤師から「しっかり飲みきってください」という説明を受けたお薬は別です。その場合は、医師の注意を守ってください。なにかわからないことがあったら、お友達に聞かず、専門家に尋ねていただきたいですね。オンライン診療などを積極的に利用してみてはいかがでしょうか。
編集部まとめ
風邪薬そのものが治りを左右するのではなく、服用した後の過ごし方で左右するのでした。つまり、限りある体力というリソースをどこに割くかが問われます。もし、免疫力以外の使い道が多ければ、治りを遅らせるでしょう。消化しにくい食べ物、アルコールの分解、不要な夜更かしなど、余計な負荷を増やしていませんか。「できてしまう、やれてしまうことの弊害」を、この気に考えてみましょう。
風邪に関する症状についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事を参照してください。
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