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「マイクロパルスレーザー」によって広がる眼科治療の可能性とは?

 更新日:2023/03/27

国内での導入事例が多くなってきた黄斑浮腫に対する「マイクロパルスレーザー治療」。新技術は得てして、それまで不可能だった病気の克服に一役買います。はたして、マイクロパルスレーザーも同様なのでしょうか。レーザーによる眼科治療の最新事情を、「イナガキ眼科」の稲垣先生にうかがいました。

稲垣先生

監修医師
稲垣 圭司(イナガキ眼科 院長)

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順天堂大学医学部卒業。聖路加国際病院眼科でフェローを経た後に順天堂大学医学部・大学院医学研究科眼科学修了。聖路加国際病院眼科にて、医局長や副医長などを歴任。2020年、千葉県浦安市に位置する「イナガキ眼科」の院長を父親より継承。レーザーを中心とした「安全で丁寧な手術」に努めている。医学博士。日本眼科学会眼科専門医。日本網膜硝子体学会会員。

従来のレーザー治療に見られた落とし穴

従来のレーザー治療に見られた落とし穴

編集部編集部

黄斑部への眼科のレーザー治療って、積極的な医院とそうでない医院に分かれそうですね。

稲垣先生稲垣先生

黄斑浮腫(おうはんふしゅ)に対するレーザー治療は、糖尿病黄斑浮腫などの黄斑疾患に有効性が認められている一方で、照射した網膜組織を熱で焼くため組織の破壊を伴います。そのため、レーザー後のダメージが黄斑部まで及んでしまうと、術後に視力障害、暗点の出現といった元に戻らない合併症を生じることがあります。そういった背景があり、黄斑疾患に対してレーザー治療はあまり国内では普及せずに、薬物療法が中心となっていると思います。

編集部編集部

「元に戻らない」って、そんなことをしても大丈夫なのですか?

稲垣先生稲垣先生

ヒトはモノを見るとき、網膜の全てを使っているわけではありません。多くは「黄斑(おうはん)」という、ごく一部の網膜領域で見ています。黄斑部を避けて、レーザーした場所の影響で暗点を作らないように、黄斑周辺領域を豆まき状にレーザーを置くイメージですね。

編集部編集部

でも、痛い思いをするレーザーは怖いです。薬で治るなら、そうしたいものですが?

稲垣先生稲垣先生

薬物療法の治療効果は一時的で、定期的に投薬し続ける必要があるため、治療費の問題が生じます。また、黄斑浮腫のような薬物療法のみでは完治しない症例や、薬が効かない症例も一部あり、そのような症例にレーザー治療が効果を発揮する場合があります。第一選択とされる「抗VEGF薬治療(硝子体内注射)」は保険診療で3割負担だとしても、1回約5万5000円かかります。仮に年8回投与すると、合計40万円以上という計算です。

編集部編集部

稲垣先生は、眼科レーザー治療に積極的と聞きました。

稲垣先生稲垣先生

はい。ただし、従来のレーザーとは違った網膜組織を破壊しない「マイクロパルスレーザー」を使用しています。従来のレーザーが“熱湯”だとしたら、マイクロパルスレーザーは“心地よい温泉”という感じでしょうか。組織の変質はさせず、刺激を与えて治すようなイメージですね。抗VEGF薬治療との併用が前提ですが、治療効果を損なわずにトータルの治療費は下げられます。また、症例によっては抗VEGF薬治療との併用をせずマイクロパルスレーザーのみで治療できることもあります。

適応そのものは広がっていないが、より安全になった

適応そのものは広がっていないが、より安全になった

編集部編集部

マイクロパルスレーザーって、どのようなレーザーなのでしょう?

稲垣先生稲垣先生

機関銃のように「断続した照射」が可能なレーザーです。通常のいわゆる「一本調子」のレーザーと比べ、照射時間が大幅に短くなっています。ですから熱量も低く、“心地よい温泉”状態が維持できるわけです。痛みも大幅に抑えられています。

編集部編集部

あまり聞き覚えがありませんが、ここ最近の技術なのでしょうか?

稲垣先生稲垣先生

海外では、30年以上前から用いられてきた機器です。国内でマイクロパルスレーザーが広まってきたのは、ここ10年くらいという印象ですね。日本国内では黄斑浮腫に対する眼科レーザー治療が、視機能に重要な黄斑周囲を照射するため、危険な治療、難しい手術であるというイメージがあり、なかなか普及しなかったのだと思います。患者さん側にしてみても、「目のレーザー治療は痛い」というイメージが染みついてしまっているのだと思います。

編集部編集部

マイクロパルスレーザーが適用されるのはどのような症例でしょうか?

稲垣先生稲垣先生

代表的な症例は3つあります。簡単に言うと、「黄斑のまわりがむくんで、見えに支障をきたしている病気」になります。具体的には、「中心性漿液性脈絡網膜症(ちゅうしんせいしょうえきせいみゃくらくもうまくしょう)」、「糖尿病黄斑浮腫(とうにょうびょうおうはんふしゅ)」、「網膜静脈分枝閉塞症(もうまくじょうみゃくぶんしへいそくしょう)に伴う黄斑浮腫」です。近年では、黄斑疾患以外にも「緑内障」の治療で用いられています。

編集部編集部

これらの症例が、マイクロパルスレーザーの恩恵を受けるようになったと?

稲垣先生稲垣先生

従来のレーザーでも治療はできました。したがって、マイクロパルスレーザーにより「眼科治療の幅が広がった」とまでは言いづらいですね。マイクロパルスレーザーの登場により、「レーザー治療そのものが見直されてきた、積極的に導入する医師が増えてきた」といったところでしょうか。

パターン照射機能を併用し、施術時間を短縮

パターン照射機能を併用し、施術時間を短縮

編集部編集部

治療時間はどうなのでしょう? 威力が弱い分、余計にかかるような気がします。

稲垣先生稲垣先生

実際のところ、時間はそこまで変わりません。従来のレーザーは高出力だったため、“狙いを慎重に定める”時間が必要でした。一方でマイクロパルスレーザーは、一発一発の照射エネルギーは従来のレーザーより小さいですが、密に隙間なくレーザーを照射することで、従来のレーザーと同等の治療効果があることが報告されています。近年では、パターン照射という短時間で連続してレーザーを照射できるシステムがあり、治療時間の短縮が可能になっています。

編集部編集部

機関銃と散弾銃をミックスしたようなイメージでしょうか?

稲垣先生稲垣先生

あえて例えるならそうなります。あらかじめ設定した形で、同時に連続して網膜面上にレーザーをおこなう、散弾銃のようなレーザー照射法を「パターン照射」と呼びます。当院では、黄斑浮腫に対する閾値下レーザーには、「スクエア(四角)パターン照射」を使用しています。四角い格子状で、タテ・ヨコ4本ずつ、合計16本のレーザーが一度に照射できます。レーザー治療において、一つひとつのレーザー間を空けることはとても重要です。もし、レーザー痕(やけどの痕)がつながってしまうと、「大きなレーザー痕」になってしまい、視力障害や暗点の出現などのリスクが生じます。しかし、機関銃のようなマイクロパルス閾値下レーザーは、レーザー後に網膜の破壊を伴いません。パターン照射を用いることによって、レーザーの間を空けずに照射しても、大きなレーザー痕を作る危険がないのです。

編集部編集部

それに、「面」で施術していけば、「点」より効率的ですね?

稲垣先生稲垣先生

通常のレーザーなら、照射箇所を白く濁らせるので、焼いたことがわかります。ところが、マイクロパルスレーザーは変質させないので、「どこを照射したのか、一見しただけではわからない」側面があるのです。そのこともあって、面で把握していったほうが、施術しやすい印象です。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージがあれば。

稲垣先生稲垣先生

繰り返しになりますが、「レーザー治療そのものが見直されてきた、積極的に導入する医師が増えてきた」ことは大きいと思います。組織を焼いて壊さずに「温めて刺激する」だけでも、十分な効果があるということです。薬価が高負担で悩んでいる方や、レーザーによる痛みが気になって前向きになれなかった方は、ぜひこの機に、検討してみてください。

編集部まとめ

結論からすると、従来のレーザーでも適応可能だった症例が、マイクロパルスレーザーにより「安全におこなえるようになった」ということなのでしょう。しかし、導入する医療機関が増えることは、我々患者にとって「受診機会の拡充」につながります。加えて、非破壊ですから、受診の踏み切りもつきやすいのではないでしょうか。とくに、10年以上前の診断で望んだ結果が得られなかった方は、最新事情を精査してみてください。

医院情報

イナガキ眼科

イナガキ眼科
所在地 〒279-0011 千葉県浦安市美浜1丁目9−2浦安ブライトンビル7F
アクセス JR京葉線・武蔵野線「新浦安駅」 徒歩3分

診療科目 眼科

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