今でも年間感染者数1万人以上!? 結核を予防するにはどうしたらいい?
せきとともに血を吐き、やがて死に至ることもある「結核」。みなさんは、この結核が伝染病であることをご存じでしょうか。昔と比べ、比較的話題に上がらなくなってきたこの病気の真相を、「国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所霊長類医科学研究センター」センター長の保富先生に伺いました。
監修医師:
保富 康宏(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所霊長類医科学研究センター センター長)
酪農学園大学獣医畜産学研究科獣医微生物学博士課程修了。ハーバード大学医学部助手、三重大学大学院医学系研究科教授などを経た2007年、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所霊長類医科学研究センター長就任。免疫制御ワクチン分野を設立し、主に免疫反応の調節による疾患制御および病態解明をおこなっている。獣医師、獣医学博士。米国免疫学会、日本ワクチン学会、日本ウイルス学会、日本エイズ学会、日本寄生虫学会、日本免疫学会、日本癌学会、日本獣医学会の各会員。
じつは、3人に1人が結核のキャリア
編集部
かつて「悲劇の代表格」的なイメージのあった結核ですが、現状について教えてください。
保富先生
現在でも世界三大感染症の1つですし、市中で普通に流行しています。ただし、自覚症状のない場合も多く、「知らないうちにかかっていて、感染を広めている人」が、世界の人口のおおよそ3分の1から4分の1を占めていると予想されています。
編集部
そんなに多いのですか! わかっている範囲の感染者や感染率は?
保富先生
厚生労働省がまとめた2018年時の統計によると、新たに結核患者として登録された者の数(新登録結核患者数)は1万5590人で、前年より1199人減少、結核による死亡数は2204人で、前年の2306人に比べ102人減少、人口10万に対する罹患率は「12.3」ポイントとなっています。これらは、あくまで「自覚があって受診した」人の数や割合です。
編集部
結核感染率「12.3」という数字は、世界と比べてどうなのでしょう?
保富先生
先進国の中では「高い」といえます。ちなみにスウェーデンは「4.3」、米国は「5.1」ですね。そこで日本では、2020年末までに「10」ポイント以下を目指す「ストップ結核ジャパンアクションプラン」を実行しています。
編集部
2020年って、もう今年ですが、感染率はどうなのですか?
保富先生
じつは、諸外国からの流入者がネックとなっているようです。同統計によると、外国生まれの新登録結核患者は、前年から137人増加して1667人、新登録結核患者に占める割合は10.7%です。もっとも、新型コロナウイルスによる移動制限で、「たまたま達成できる」可能性が出てきました。感染症への正しい理解も進んだと思われます。
大人の有効な予防法は“なし”、治療薬が効かない場合も
編集部
結核は感染症なんですよね?
保富先生
本来なら最も留意すべき感染症の1つで、飛沫による「空気感染」を起こします。症状としては、せき、たん、発熱などで、重篤化すると、血の混じったたんが出たり、血を吐いたりします。問題なのは、若くて健康なときに症状がなく、高齢になってから発症するパターンですね。
編集部
予防法は確立されているのですか?
保富先生
成人の肺結核を予防するワクチンはありません。また、発症後の投薬が効かなくなってくる多剤耐性結核も散見されています。ただし、お子さんに関しては、予防接種法によって、生後1年以内の「BCG接種」が義務づけられています。BCG接種の効果は10年から15年前後です。
編集部
治療は入院しておこなうのですよね?
保富先生
検査の結果によっては、国や地方自治体による隔離入院勧告の対象になります。社会復帰するまで、半年ぐらいかかる場合もあります。ただし、多剤耐性結核の場合は長期化しますし、死亡例も多く認められます。加えて、ほかの病気との合併症で亡くなる方もいらっしゃいます。
編集部
例えば、どのような合併症でしょうか?
保富先生
HIV感染者の死因の第1位は、免疫力の低下による結核の発症です。これを逆に考えると、「結核さえ封じておけば、HIVで死亡する確率を減らせる」ということになります。現にアメリカは、結核の感染率を低く抑えられているので、HIV患者があんなにいるのに、BCG接種を義務づけていません。
いつ発症してもおかしくない時限スイッチ
編集部
結核ならではの、疫学的な特徴はありますか?
保富先生
体力や年代によって、症状が出たり治まったりすることでしょうか。実のところ、感染直後に発症する割合は5〜10%程度です。残りのうち、将来のどこかで発症する割合も、同じく5%前後。また、いったん治ったのに、高齢になって再発する方も少なくありません。
編集部
冒頭にもありましたが、世界全体を見れば計算上、1世帯に1人の結核感染者がいると?
保富先生
日本ではそうではないですが、症状がなかなか現れないと、感染から受診までの時間は長くなります。仮に受診したとしても、症状が軽くて「結核だと疑われない」ケースも起こりえるでしょう。症状がある程度進行してから「結核だ」と気づくわけです。そしてそれまで、キャリアとして原因菌をばらまいてしまいます。
編集部
ほかにも特徴はありますか?
保富先生
これも厚生労働省のまとめですが、無職臨時日雇者の感染率が高いことですね。福利厚生の網がかかりきっていないからだと思われます。外国からの流入者と、国内の無職臨時日雇者、加えて高齢者も含んだ「ハイリスク者対策」が求められます。
編集部
検査そのものは可能なんですよね?
保富先生
可能ですが、菌の培養による正確な判定は時間がかかります。ただし、数十分でわかる「LAMP(ランプ)法」も普及してきましたので、「ハイリスク者対策」として健康診断に組み入れるような工夫が必要でしょう。
編集部まとめ
保富先生によると、結核の原因は“サイズの大きな”菌なので、マスクでの予防が可能とのこと。ただし、24時間365日装着していないと、本当の意味での予防効果はありません。やはり新型コロナウイルスと同様、発病者を正確に早く発見する仕組みと、自主的な受診の機運が求められるでしょう。風しんやHPVも含めて、総合的な「感染症対策」が必要なのかもしれません。
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