【漫画付き】感染症の死亡原因? 「サイトカインストーム」ってなに?
新型コロナウイルス感染症に関連して耳にする「サイトカインストーム」。かなり急激に重篤化を引き起こすようですが、その正体はなんなのでしょう。ウイルスによる肺炎が急展開し始めるのでしょうか。話題のキーワードについて、解説を「国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所霊長類医科学研究センター」センター長の保富先生にお願いしました。
監修医師:
保富 康宏(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所霊長類医科学研究センター センター長)
酪農学園大学獣医畜産学研究科獣医微生物学博士課程修了。ハーバード大学医学部助手、三重大学大学院医学系研究科教授などを経た2007年、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所霊長類医科学研究センター長就任。免疫制御ワクチン分野を設立し、主に免疫反応の調節による疾患制御および病態解明をおこなっている。獣医師、獣医学博士。米国免疫学会、日本ワクチン学会、日本ウイルス学会、日本エイズ学会、日本寄生虫学会、日本免疫学会、日本癌学会、日本獣医学会の各会員。
ノウハウを知らない“初体験”の興奮
編集部
新型コロナウイルス感染症で「サイトカインストーム」という言葉を耳にしますが、どういった意味なのでしょう?
保富先生
ウイルスなどの病原体を排除しようと、免疫システムが“躍起”になっている状態のことですね。例えば、軍隊なら司令官がいて、状況に応じて「攻撃」や「発砲停止」を命令しています。ところが、誰も「発砲停止」を発令せず、やみくもに「攻撃」している状態が、サイトカインストームです。
編集部
なぜ“躍起”になってしまうのですか?
保富先生
「新しい敵だから」という理由が大きいと考えられています。ヒトの体は、敵と戦うと、“引き際”のようなタイミングを学習します。しかし、新しい敵に対しては、まだ引き際を学習していません。新型ウイルスによくみられるのですが、制御機能そのものが存在していないのです。
編集部
指揮官不在で、全員が突撃モードに入っていると?
保富先生
なにも「突撃」とは限りません。免疫の仕組みを一言でいうと「ネットワーク」になるでしょうか。その中には、指揮役や索敵役、連絡役、抑制役などさまざまな担当がいて、「以前、この敵にこう戦ったら効果があった」という戦法を全体で学習しています。この戦法が、新しい敵にはありません。ネットワークによる連携も、できていない状態です。
編集部
新しい敵、つまり「新しい病気」では、常に起こりえるのでしょうか?
保富先生
起こりえます。わかりやすい例が「はしか」ですね。はしかは「大人のほうが大ごとになる」と言われるのは、サイトカインストームを起こすからです。お子さんの場合ですと、免疫システムそのものが弱いので、仮にサイトカインストームを起こしても大ごとには至りません。また、2回目以降の感染では作戦が学習できているので、上手に戦い、上手に撤収してくれます。
むしろ「理にかなった」仕組みである一面も
編集部
肺はそんなに悪くないのに、「サイトカインストーム」で死亡に至る例って、どれくらいあるのでしょう?
保富先生
報告はあるものの、実数は不明です。なぜかというと、サイトカインストームが起きたかどうかは、体中を調べないとわかりません。亡くなった後では診断がつけられないですし、回復したら死因とはならないからです。
編集部
新型コロナウイルスで治療を受けるとき、その辺は考慮に入れてもらえるのでしょうか?
保富先生
難しい質問ですね。サイトカインストームの対処法は免疫抑制ですから、やり過ぎるとウイルスを増やしてしまいます。現状、どちらのリスクが怖いかといえば、ウイルスを増やしてしまうリスクでしょう。ただし、新型コロナウイルスに有効とされている薬のなかには、ある種の免疫抑制剤が含まれているものもあります。処方するかどうかは、医師の判断によるでしょう。
編集部
サイトカインストームになりそうな人っているのですか?
保富先生
アナフィラキシーやリウマチのような免疫疾患をもっている方に起きやすいかというと、そうとは“言えない”と思います。一方、若い世代の免疫システムは活発なので、サイトカインストームが起き、回復も早いです。高齢者では基本的に免疫系の老化により、非特異的に炎症反応があるので、これを増大させ、悪化させる可能性もあるのです。一方、サイトカインストームは、ある意味で「健康な証」なんですよね。
編集部
「健康な証」ですか? 定められた宿命のように聞こえます。
保富先生
だからこそ、ワクチンで疑似体験をしておく必要があるのです。ワクチンで戦法を学習すれば、サイトカインストームは起こりません。とはいえ、サイトカインストームには、「人間という種を守る」働きもあるかと思います。悪いウイルスがそれ以上伝搬しないよう、個体ごと取り除くイメージです。
サイトカインの暴走は、ウイルスの量と無関係
編集部
勘違いしていました。ワクチンや特効薬が開発されれば、サイトカインストームも治まると?
保富先生
ウイルス感染をお薬で防御できれば、免疫システムの出番はありません。ウイルスが体内に多少は残ったとしても、その程度なら躍起にならないでしょう。その意味でも、確実に効果のあるワクチンが望まれます。
編集部
サイトカインストームとウイルス量の関係はありますか?
保富先生
ウイルス量のピークが発症前であることを考えると、「ウイルス量とサイトカインストームの出現には関連性がない」と言えるでしょう。それに、ウイルス量が比較的多いのは「高齢者」です。他方、サイトカインストームは、免疫システムが元気な若い世代でも発症します。
編集部
「ウイルス量が多い人」=「重篤患者」なのですか?
保富先生
その傾向はありますが、基本的に高齢者はウイルス量が多いことが確認されており、高齢者では重篤化することが多いので、その関係かもしれません。また、人工呼吸器を付けている方でも、そこから回復されるケースがあります。つまり、この病気でたどる予後ルートは依然、不明なのです。ただし、A.I.で予後を判定するシステムが研究されているそうです。そのうち、個々の患者さんのたどるルートと対処法が見えてくるかもしれません。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
保富先生
新型コロナウイルスには「わからない点」がまだまだあります。サイトカインストームを含め、「新しい病気」とはどういうことなのかを、ぜひ、知っておいてください。我々も、いち早く全貌解明できるように、検証を積み重ねているところです。
編集部まとめ
サイトカインストームは、作戦のないまま、抑制役のいないまま、免疫システムが暴れ回っている状態なのでした。そう考えると、ワクチンによる「模擬戦」の重要性が見えてきます。抗体をもつことも大切ですが、作戦と機能するネットワークを体得することも重要でしょう。
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