「レーシック」と「ICL」先端の視力回復術はどちらがよい?
近眼の人にとっては、眼鏡もコンタクトもなしで過ごせるというのは、夢のような話。その夢を叶えてくれるのが視力回復術ですが、最近は「レーシック」に加えて「ICL」という手術法も耳にします。これから受けるならどちらがよいのでしょうか? 視力回復治療専門のクリニックに勤務されていたこともあるたんぽぽ眼科院長の池上正人先生に、それぞれの術式の違いや安全性、選ぶ基準などの疑問に答えていただきました。
監修医師:
池上 正人(たんぽぽ眼科 院長)
秋田大学医学部を卒業後、東京女子医科大学付属第2病院眼科に入局。その後、秋田大学医学部付属病院眼科学教室、平鹿総合病院眼科医長を経て、世界トップクラスのレーシック手術数を誇る品川近視クリニックに勤務。2014年にたんぽぽ眼科院長に就任し、現在に至る。日本眼科学会専門医。日本眼科医会、日本眼循環学会、日本白内障屈折矯正手術学会、ドライアイ研究会、江戸川区医師会の各会所属。
「レーシック」と「ICL」の安全性は
編集部
「レーシック」と「ICL」、先端の視力回復術はどちらがよいでしょうか?
池上先生
どちらがよいかは、その人の目の状態によって異なります。基本的には近視の度が軽ければ「レーシック」、極度の近視の人は「ICL」が適していると思います。レーシックができるクリニックは、ICLもできるところがほとんどですから、それぞれの術式、安全性、コストなどについてしっかり説明を受けてから判断しましょう。
編集部
「レーシック」は以前、集団感染が問題になったことがありましたが、安全面は大丈夫なのでしょうか?
池上先生
たしかに手術を受けた患者さんが、次々と角膜炎を起こした事件がありました。ただあの事件は、手術自体に問題があったわけではなく、衛生管理に問題があったことが原因でした。
編集部
ただ、どちらも目に”メス”を入れる手術。どちらが安全なんでしょう?
池上先生
どちらも安全度の高い手術ですが、眼科手術全体の安全度でいうと、眼球の表面に近いほど安全で、奥にいくほど感染のリスクや必要とされる技術が高くなります。そういう意味では、レーシックは角膜レベルの手術のため安全性が高い手術といえます。一方のICLは、もう少し目の奥の手術(眼内の手術)になるので、比べると安全性のレベルがやや下がります。
「レーシック」の手術法とメリット・デメリット
編集部
そもそもどのような手術法なんでしょうか?
池上先生
レーシックは、簡単にいうと角膜を削って近視・遠視・乱視を矯正する手術です。近視の場合、角膜を平らに削ることで、凹レンズのような状態にして、近視を矯正するんです。削りますから、元の状態には戻らない不可逆性の手術法です。
編集部
ということは、1回しかできないのでしょうか?
池上先生
1回しかできない人もいれば、数回できる人もいます。何回できるかは、その人の角膜の厚みと近視の度合いによって決まります。角膜の厚さは皮膚と一緒で、薄い人もいれば分厚い人もいます。また、近視の度が強いほど多く削る必要があるため、角膜が厚く、度が低ければ、何回か削れる可能性があります。一方、角膜が薄くて度が強いと1回が限度です。なかには、1回もできない方もいらっしゃいます。そういう方は、ICLが向いています。
「ICL」の手術法とメリット・デメリット
編集部
どんな手術なんでしょうか?
池上先生
薄い矯正用レンズを眼内に固定する手術で、固定したレンズは、取り外すことができます(可逆性)。それが、レーシックと一番異なる点です。手術法(有水晶体眼内レンズ)は、厳密には2種類あります。レンズを虹彩上に固定する方法(前房レンズ)と、虹彩と水晶体との間に固定する方法(後房レンズ)があり、こちらをICL(Inplantable Collamer Lenz)といいます。虹彩に固定するほうは、乗せただけではレンズがずれてしまうので、レンズの端を虹彩にひっかける手術をします。こちらは、角膜内皮という再生しない細胞に近いため、内皮細胞を傷つけないよう、また虹彩を傷つけないよう習熟した技術が求められます。
編集部
後房レンズは虹彩と水晶体との間に固定するんですね
池上先生
はい。後房レンズ(ICL)は、角膜内皮細胞を傷つけるリスクはありませんが、水晶体に近いので、白内障になるリスクが発生する可能性があります。レンズに折りたたみ式のものを使用します。小さい切開口からレンズを入れて中でレンズを膨らませることができるため、最小限の切開で手術が可能です。そのため縫う必要もなく、乱視発生や感染症のリスクは低いといえます。
編集部
後房レンズは、最小限の切開で手術ができるのが魅力的ですね
池上先生
ただし、後房レンズは特注で作るためコストが高いというデメリットがあります。どの方法を選ぶかは、その人の目の形状やサイズ、またはコストなどによって、医師にそれぞれの手術のメリット・デメリットを確認したうえで決定しましょう。
視力回復術の選ぶ基準と注意点
編集部
どちらも一長一短あって迷ってしまいますが、選ぶ基準はありますか?
池上先生
最初に、近視の度合いが軽い人はレーシック、極度の近視の人にはICLがよいとお話しましたが、極度の近視の目安はマイナス8~10度以上です。ただし、ガイドラインは年々変わるため、最終的にどちらの手術法にするかは、眼科で相談ください。ちなみに、いずれの手術も保険対象外です。
編集部
「レーシック」は、術後10年ぐらいすると元に戻ると聞いたことがありますが
池上先生
それは間違いですね。中には近視の度が進んで、視力が元に戻ったように感じる方はいらっしゃいますけどね。眼鏡をしていても、近視が進行して度が変わる人はいます。それと一緒で、近視を矯正しても、さらに進行すると再び近視になるわけです。私は実際、多くの患者さんを診てきましたが、効果が全く元に戻ったと聞いたことはありません。うちのクリニックにも、10年前に施術をしたという方が何人もいらっしゃいますが、みなさん今でも快適にすごしていらっしゃいます。ただ、強度の近視の場合は、施術後に視力の低下しやすい傾向があり、そういう方にはICLが向いていると言えます。
編集部
老眼でも受けられますか?
池上先生
受けることはできます。ただ、近視を矯正することで、隠れていた老眼が表に出てきてしまうことがあります。老眼は、加齢によってピント調整がしにくくなることで近くのものが見えにくくなる現象ですが、近視の人は、近くのほうにピントが合っているため、老眼に気づきにくいのです。手術によって眼が若返るわけではありませんから、40歳以上の方は要注意です。ただし、最近では、遠近両用対応も導入が始まっています。
編集部
40歳以上だと、近視が治っても老眼で見えにくくなる可能性があるわけですね
池上先生
患者さんにはそのリスクを事前に説明したうえで手術を受けていただくのですが、いざ本当に老眼が出てきたときに「こんなはずじゃなかった」とショックを受ける方もいらっしゃいます。ですから、40歳以上で老眼の可能性がある方は、老眼が出てくるリスクを承知した上で受けるか、手術をあきらめるかをよく考えて選択してください。
編集部まとめ
視力回復術を受ける場合、軽い近視の場合は「レーシック」が基本で、極度の近視の場合は「ICL」がよいということを、今回初めて知りました。大きな違いは次の3つでした。
【レーシック】
・角膜を削って近視を矯正する手術で、元に戻せない
・ICLに比較して安全性が高い
・ICLより安価
【ICL】
・薄い矯正用レンズを眼内に固定する手術で、レンズを外して元に戻すことができる
・レーシックより安全性は低い(眼内の手術という意味で)
・レーシックより高額
ただし、どちらもメリットデメリットがあるため、手術を受ける前には、専門の医師に相談して、手術の内容をしっかり理解する必要があることがよくわかりました。また、40歳以上で老眼の可能性がある場合は、近視を矯正することで、気づかなかった老眼が出てくることがあると知って驚きました。視力回復術を受けるなら、できれば若いうちがよいということですね。
医院情報
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診療科目 | 一般眼科・小児眼科 |