もの忘れ外来でできることって?認知症の早期発見と対処のために
年齢を重ねると記憶力が低下し、もの忘れが増えるのは仕方のないことです。ですがそうした様子に、本人はもちろん、周りの家族も心配になることでしょう。高齢の家族を見て、「もしかして認知症なのでは?」と思ったとき、あなたならどうしますか?
「どこに相談したらいいのかわからない」と感じるのではないでしょうか。そのような人のため、病院などの医療機関に設置されている「もの忘れ外来」について紹介します。
監修医師:
田頭 秀悟(たがしゅうオンラインクリニック)
目次 -INDEX-
もの忘れ外来とは
もの忘れ外来と聞いて、ぴんとこない人も少なくないでしょう。ここでは、もの忘れ外来でどのような診察を行うかなどを中心に紹介します。
「もの忘れ」が何によるものなのかを判断する外来診療
もの忘れ外来とは、「そのもの忘れが何を原因にして起こっているのか」を診断する外来診療です。
加齢によって記憶力が低下し、もの忘れが増えるのはある意味当然のこと。程度の差はあれど、人間として避けようのない問題です。しかしもの忘れの原因は、純粋な加齢だけとは限りません。その最たるものとして挙げられるのが、認知症です。
認知症とは、脳の病気や障害によって記憶能力や判断力が低下し、日常生活に支障が出る状態を指します。一般的には、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症(ピック病)の4つのタイプに分けられます。それぞれの特徴は、以下の通りです。
・アルツハイマー型認知症
脳内で異常なタンパク質(βアミロイド)が蓄積し、健康な神経細胞が破壊され、脳が徐々に萎縮していく病気です。 初期段階では、短期記憶の障害が主な特徴として見られます。
・脳血管性認知症
動脈硬化が原因となって起こる脳梗塞などが、認知症を引き起こします。病変の位置により、手足の麻痺や言葉のつっかえなど、多種多様な身体的症状が出現します。
・レビー小体型認知症
このタイプの認知症では、記憶障害以外にも幻覚や身体の硬直などの症状が出現しやすいです。また、日によって意識がはっきりしたりぼんやりしたりと、症状が大きく変動することも特徴的です。
・前頭側頭葉変性症
盗癖や無銭飲食など、反社会的な行動を特徴とする認知症です。言葉の意味やものの名前が言えないなど失語が見られることはありますが、記憶は保持されるため、認知症とは診断されず、精神病と誤診されることもあります。
内閣府の「平成29年度版高齢社会白書」 によれば、2012年の時点では65歳以上の高齢者の約7人に1人が認知症でした。その数は増え続けており、2025年には約5人に1人が認知症になると推定されています。
つまり認知症は誰にでもなる可能性があり、認知症に悩む人の数は増加傾向にあると言えます。しかも人によって認知症のタイプも症状の出方も多種多様。おまけにその日の体調や気分によって症状が良くなったり悪くなったりと、グラデーションがあるのも特徴です。素人目に「認知症かそうでないただのもの忘れか」を判断するのは、非常に難しいといえるでしょう。
このような課題に対処するために、認知症と加齢による一般的なもの忘れを見分ける診断が、もの忘れ外来で行われています。
では、加齢によるもの忘れと、認知症によるもの忘れの違いは何でしょうか。それぞれの特徴を比較してみましょう。
加齢による自然なもの忘れ
まずは、加齢によるもの忘れについてです。もの忘れの原因となるのは、脳の生理的な老化。朝に食べたメニューを忘れるなど、体験の一部を忘れてしまうのが特徴です。
もの忘れをしている自覚はあり、日常生活への支障は大きくありません。探し物についても、一生懸命記憶をたどるなど努力すれば、見つけることも可能です。新しいことを学んだり覚えたりといった、学習能力も維持されています。病状はゆっくり進行します。
認知症によるもの忘れ
一方、認知症によるもの忘れはどうでしょうか。
認知症の原因は、脳の神経細胞の変性や脱落です。体験したことそのものを忘れてしまうのが特徴で、よくある例を挙げると、「食事したこと自体を忘れる」状態に陥ります。
また、自覚のない状態でもの忘れを繰り返すことがあり、それが原因で問題が生じた場合、誤って他人の責任にすることがあります。探し物を見つけられない、新しいことを覚えられない、身近な人の顔や名前を忘れるなど、日常生活への支障も大きくなります。
病状の進行には個人差がありますが、速く進行するケースもあります。
・MCI(軽度認知障害)とは
ここまでは加齢によるもの忘れと認知症の2パターンのみを紹介しました。しかしそれ以外にも、もの忘れのパターンは存在します。とくに注目されているのが、MCI(軽度認知障害)です。
MCIは認知症になる一歩手前の段階を指す症状で、記憶力や判断力、行動能力などの認知機能の低下が見られる状態です。しかし、日常生活に大きな影響を及ぼすほどではありません。
MCIと診断された場合、12%の人が1年以内に、そして50%の人が5年以内に認知症に進行するという研究結果があります。認知症の前兆とも言えるMCIですが、65歳以上の高齢者の4分の1、つまり約400万人がMCIであると推定されています。
この段階で適切な対策を講じることで、認知機能の回復や認知症の発症防止が期待できることが、近年の研究で明らかになっています。
もの忘れの外来診療は認知症専門医が行う
もの忘れ外来の診療は、どのような医師によって行われるかを紹介します。
神経内科や精神科、段階に応じて臨床心理士
認知症の専門医はここ10年ほどでじわりじわりと増えており、主には、神経内科や精神科の医師が担当することが多いです。包括的な対応を求められるため、もの忘れの度合いや精神的な状態などに応じて臨床心理士やソーシャルワーカーが対応する場合もあります。
もの忘れ外来によっては、医師と心理士がチームを組んで、患者の状態や希望、環境に応じてきめ細やかなサポートを行う場合もあります。
初診の際は、すぐに医師の診察がある場合や、まず心理士やソーシャルワーカーによるヒアリングがある場合など、病院によってさまざまです。介護保険制度の利用の仕方など、症状を診る以外のサポートを受けられる場合もあります。
大きい総合病院に併設されていることが多い
もの忘れ外来は、通常、総合病院などの比較的大規模な医療機関に設置されています。多くは事前予約制を採用しているため、注意しましょう。また、総合病院併設の場合は、かかりつけ医の紹介状を必須としているケースが多いです。もの忘れについて心配事があれば、まずはかかりつけ医に相談してみると良いでしょう。
もの忘れ(認知症)の治療は早期に始めることが大切です。「あれ?」と思ったら、いち早く医療機関に相談することをおすすめします。
もの忘れ外来で行われる検査
もの忘れ外来では、実際にどのような検査が行われているのかを紹介します。
問診
まず、患者の状態を知るために問診からスタートします。今困っていることは何か、いつ頃から言動に違和感を覚えたか、具体的にどのような言動が見られるか、などです。
また、これまでの病歴や今現在の健康状態についても確認します。例えば頭に怪我をしたことがある場合、その外傷が原因で認知症を引き起こしている可能性があるからです。そういったことを含め、細やかな問診を行います。
神経心理学検査
知的機能や認知機能、記憶力や実行機能などを確認するための質問をし、その反応による脳の働きをチェックします。具体的には、今日の日付を尋ねたり、簡単な計算問題を解いてもらったりします。
脳画像検査
MRIやCTなどの画像検査を実施します。脳の海馬の萎縮や、脳出血・脳梗塞などの脳血管障害の有無、脳の血流量を調べます。
血液検査
いわゆる生活習慣病と認知症には相関性があります。そのため、その関連性を探るために血液検査が行われます。また、認知症と似ているがそうでない病気や症状と比較するためにも、血液検査は有効です。
レントゲン検査
血液検査同様に、レントゲン検査を行うことで「認知症でない病気」を見つけることができます。
このように、もの忘れ外来で行う検査は多岐にわたります。患者の性質上、家族が付き添って受診することも多いです。仮に仕事を休んで付き添う場合などは、「どれくらい時間がかかるのか」が気になることでしょう。
結論としてはケースバイケースとなり、一概には言えません。症状や検査内容によって要する時間や日数は変わります。1日で済むこともあるかもしれませんし、数回にわたって通院する必要があることもあります。
こうしたことを含め、気になる点は事前に確認したり、受診の際に医師と相談したりすることも大切です。
もの忘れ外来での検査費用
はじめてもの忘れ外来に行こうとする人の気になるポイントは、やはり費用でしょう。どのような検査をするか、検査やその他の処置がどの程度行われるのかなども、病院の方針などによって費用はだいぶ変わります。
そのためあくまで一例となりますが、もの忘れ外来で一通りの検査を行った場合、保険適用の3割負担で4~7万円、1割負担で1~2万円が相場と言われています。
具体的な内訳は、以下の通りです。
・認知機能テスト(神経心理学的検査):700円~2800円
・CT検査:1万5000円~2万円
・APOE遺伝子検査:1万5000円~2万5000円
・MCIスクリーニング検査:1万5000円~2万5000円
・MRI検査:1万5000円~3万円
・SPECT検査:8万円~10万円
・合計:14万円~20万円
他にも、問診と神経心理検査のみであれば1000円、CT検査のみで5000円で行うなど、受診する病院によってもかなり幅があります。加えて、認知症の検査費用以外にも、治療費や介護費用がかかる場合もあります。
認知症は、完治が難しい症状なので、治療は長期間継続することがほとんどです。経済的な負担は、決して軽いとは言えません。
ですが、「もの忘れ外来を受診すると費用がかかるから」と先延ばしにするのはおすすめできません。なぜなら、症状が進行すればそのぶん費用負担も大きくなるからです。結果的に、早期発見・早期治療することで、長い目で見れば費用がかからずに済む場合が多いのです。
もの忘れ外来で認知症が分かったら
もの忘れ外来で認知症がわかったら、投薬やリハビリ、生活療法などを用いて治療を行います。残念ながら、認知症に対する根本的な治療方法はありません。そのため、治療の目的は完治ではなく、病状の進行を遅らせることです。それぞれどういった治療が行われるのか見ていきましょう。
投薬治療
治療には主に、抗認知症薬と向精神薬が使用されます。抗認知症薬は認知症の進行を遅らせるという目的で処方される薬です。
また向精神薬は、行動や心理的な症状(周辺症状)が激しい場合に用いられます。例えば、患者が興奮して暴れるときや、意欲が低下して食事を摂らないときなど、日常生活に支障をきたす行動や心理的な症状が見られる場合に処方されます。
リハビリ治療
リハビリ治療にはさまざまな種類があります。例えば、身体を動かすような運動や手先を使う作業療法、書き取りや計算を行う脳トレなどが代表的です。症状や好みに合わせて、患者に合ったリハビリを選択・実行することが大切です。
認知症は完治が難しい症状です。しかし早期に対処することにより、進行を遅らせることはできます。また、早期に認知症だと認識できれば、その後の備えも可能になるでしょう。もし認知症が進行しても、周囲の人の手助けがあれば、今までの暮らしを継続することもできます。
決して焦ったり過剰に不安になったりせず、「避けることはできないから、長く付き合っていく」そういった意識を持つことが大切です。
まとめ
認知症患者は増加傾向にあり、誰もがなる可能性があります。完治が難しい症状で、且つ完全に予防することもできませんが、早期に発見できれば、認知症の症状に対して備えることができます。
記憶が失われる、できないことが増えていく。そうした未来を見据えて、自分がどう生きていきたいか、何ができるかを判断できるうちに考え、準備することが大切です。
そのための力になってくれるのが、もの忘れ外来です。少しでも気になることがあれば、ぜひ早めに相談に足を運んでみてください。
参考文献