うつ病の薬とは? | 抗うつ薬の分類・特徴・効果・副作用を詳しく解説
気持ちが落ち込んで、前向きになれないような1日が続くのは誰にでも起こりうることです。
そして落ち込んだ気持ちは、一般的には時間とともにポジティブな気持ちへと切り替わっていきます。
しかし、数週間経っても1日中気持ちが落ち込んでしまう場合、もしかするとうつ病になっている可能性があるかもしれません。
うつ病は日本でも約15人に1人の割合で、人生に1回はうつ病を発症するといわれている程、身近な病気となっています。
ありふれた病気ですが、早期発見と適切な治療を受けることが大切です。
うつ病を発症すると、どのように治療していくのか不安を感じる方も多いでしょう。うつ病の治療に使われる薬の種類や効果を紹介します。
監修医師:
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
目次 -INDEX-
うつ病の薬とは
うつ病は精神を安定させたり、ポジティブな気持ちにしてくれる脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンが減ってしまうことで発症する心の病気です。
うつ病といっても、症状には個人差があるだけでなく、複数の症状が現れることが一般的です。
1日中憂鬱な気持ちになったり、何をしても楽しくないと感じたりすることはうつ病の初期症状になります。
この2つの症状以外にも、下記から3つ以上当てはまる症状があれば、うつ病を発症している可能性があります。
- 眠れない、またはたくさん寝ても眠たい
- すぐにイライラする
- 食欲不振になる
- 何をしてもやる気が起きず、疲れやすい
- 頭痛やめまい、吐き気などがある
- 集中力がなく、決断できない
- 自分が無価値に思える
- 消えてしまいたい、いなければよかったと思ってしまう
症状や状態に応じて薬が処方されることがあります。一体どのような薬が処方されるのか、みていきましょう。
抗うつ薬
抗うつ薬とは、うつ病をはじめとする気分障害を発症した際に処方される精神科の薬です。うつ病以外にも、抗うつ薬が処方される場合があります。
- 不安障害(パニック障害・社交不安障害など)
- 社交不安障害 (SAD)
- 心的外傷後ストレス障害 (PTSD)
- 強迫性障害
あくまでもうつ病の場合は、脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンが減り、バランスが崩れると起こる病気です。バランスが崩れているため、感情の起伏が激しくなります。
脳内のバランスを、元の状態に戻していく作用が効果的なのが抗うつ薬です。
抗不安薬
抗不安薬は精神安定剤とも呼ばれる薬で、大きな不安に耐えられず苦しんでいる方には有用な薬となります。
副作用として、精神依存や身体依存があるため注意が必要です。
気分安定薬
気分安定薬をうつ病に使用する場合は、主に双極性障害など持続的な感情の起伏を特徴とする気分障害の治療に使用される精神科の薬です。
気分安定薬に含まれるリチウム・バルプロ酸ナトリウム・ラモトリギンは、優れた感情調節効果をもっています。
なお、リチウムは抗うつ薬のみで寛解に至らなかった、難治性うつの方の増強療法として一般的に追加で処方されることのある薬剤です。
抗精神病薬
抗精神病薬の主な作用は、脳を興奮状態にさせるドーパミンの遮断です。脳を落ち着かせることで、抗不安薬では取り除けない極度の不安感やうつ状態、不眠の対処薬としても使用されます。
うつ病への治療に関して、抗精神病薬はあくまで抗うつ薬との併用という位置づけになります。使用する際は、医師と相談しましょう。
睡眠薬
うつ病でよくみられる症状が、眠れなくなったり寝ても寝ても眠たくなったりする睡眠不足です。 睡眠は、精神と体の疲労を回復するための大切な役割をもっています。
睡眠不足になるとうつ病の症状が重くなることもあるため、睡眠薬が使用されるケースが多いです。睡眠薬には、緊張や不安を和らげて寝つきをよくするなどの働きがあります。
しかし、睡眠薬による転倒事故が報告されており、使用には時間や場所など注意が必要です。もし睡眠薬を処方された場合には、医師の指示にしたがってください。
抗うつ薬の分類
先述では、うつ病の薬の大まかなグループを紹介しました。ここからは、よくうつ病の薬として処方される抗うつ薬の分類や性能をお伝えします。
抗うつ薬は5種類に分類されるので、性能を理解しておきましょう。カウンセリングを受けたうえで、処方される際にもご自分に合った薬が見つけやすくなるでしょう。
SSRI
SSRIとは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬のことを指します。主に、脳内の神経伝達物質であるセロトニンに反応する薬です。
セロトニンは心のバランスだけでなく、依存性や衝動的な行動を抑える働きをします。脳内のセロトニンが不足すると、さまざまな症状が現れます。
- 不安やイラつき
- 落ち着つかなくなる
- 抑うつ
このような症状を防ぐために、脳内にあるセロトニンの量を調節し、神経伝達物質のバランスを改善する働きをもたらすのがSSRIです。
SNRI
SNRIは、セロトニンとノルアドレナリン再取り込み阻害薬です。SNRIとSSRIの効果は一長一短で、症状や経過に応じて使い分けられます。
通常は、脳内のシナプスという部位を通ると神経伝達物質が放出され、受容体と結合して情報が伝達される仕組みです。
しかし、うつ病を発症した場合はセロトニンとノルアドレナリンが減り、情報がうまく伝達されません。
放出されたセロトニンとノルアドレナリンの一部はシナプスに吸収されて効果が消えますが、この吸収をSNRIで阻害して神経伝達物質を増やすことができるのです。
増やした神経伝達物質の働きを強くすることで、セロトニンやノルアドレナリンが吸収されて効果が消えないようにします。
そうすると、セロトニンとノルアドレナリンが神経の間隙に長くい続けるため、正常な感情の情報を次の神経へ伝えやすくなります。
ですが、SNRIを使用すると嘔気や腹部膨満感などの腹部症状がみられることもあります。
NaSSA
NaSSAは、ノルアドレナリン作動性と特異的セロトニン作動性を促して分泌量を増やす薬です。
SSRIとSNRIは分泌されたセロトニンとノルアドレナリンの吸収を防いで濃度を高くしていますが、NaSSAはセロトニンとノルアドレナリンそのものの分泌量を増やします。
さらにNaSSAは、人間の本能的な部分となる覚醒や食欲に大きく関わるヒスタミンという物質を防ぐ働きが強いのも特徴です。
覚醒や食欲の部分に影響するため、NaSSAを服用すると眠気が強くなったり食欲が増したりする場合があります。そのため、不眠症にもよく使用される薬です。
三環系抗うつ薬
三環系抗うつ薬は、抗うつ薬のなかでも治療に使われてきた歴史が長い薬になります。そのため、薬剤の特徴がはっきりとわかっているものが多いのがメリットです。
しかし、近年はSSRIとSNRIなどの新規抗うつ薬の登場により、第一選択薬剤となることは減ってきています。
三環系抗うつ薬は副作用が大きく、眠気やふらつきなどが生じることがデメリットになります。
四環系抗うつ薬
四環系抗うつ薬は、三環系抗うつ薬と同じレベルの効果を発揮し、三環系抗うつ薬の安全性を改善するために作られた抗うつ薬になります。
三環系抗うつ薬と同様に副作用が強く、痙攣を引き起こす可能性があります。
近年では新しく処方されることはかなり少なく、新規抗うつ薬の処方が一般的です。
抗うつ薬の特徴
うつ病を発症する原因は、脳内で分泌されるセロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンなどの総称であるモノアミンが不足することです。
モノアミンの不足を補うために開発された薬が、抗うつ薬になります。
うつ病を改善するために、モノアミンの分泌量をコントロールする抗うつ薬を使用する流れが一般的です。
しかし、うつ病を発症したからといって必ずしも抗うつ薬を使う必要はありません。
さまざまな種類をもつ抗うつ薬の特徴を踏まえて使用しなければ、抗うつ薬の効果は発揮されなくなります。
さらに、抗うつ薬の効果よりも先に副作用が現れる場合があることも事実です。
抗うつ薬はあくまでもうつ病を改善するための1つの方法であり、環境を整えることやストレスを減少させるなど根本的な治療と併用したうえの使用が大切になります。
抗うつ薬の効果は?
抗うつ薬は、うつ病自体を治してくれる万能薬ではありません。うつ病の症状を軽減する役割をもっています。
心の負担を軽くしてくれる点では、抗うつ薬は効果的です。
抗うつ薬をさらに効果的に使用するためには、心療治療やうつ病改善のための環境を整えることを併用して行う必要があります。
また、うつ病をはじめとする気分障害にはさまざまな症状があり、抗うつ薬にも種類と相性があります。抗うつ薬を適切に処方することで、しっかりと効果を感じることができるでしょう。
抗うつ薬の副作用
これまで抗うつ薬について紹介しました。ここからは、抗うつ薬を使用するにあたって注意してほしい副作用を4つお伝えします。
なお、副作用は使用する抗うつ薬によって異なります。抗うつ薬を使用すると4つの副作用すべてが出るわけではないため、事前に使用する抗うつ薬の副作用を把握しておきましょう。
吐き気
どのような薬でも副作用としてみられるのが、吐き気です。もちろん抗うつ薬も例外なく、使用する人によっては吐き気の症状がでる場合があります。
この吐き気の原因は、もともと胃腸にあったセロトニンの受容体を抗うつ薬によって刺激してしまうことで生じる副作用です。
特に、選択的にセロトニンへ作用するSSRIを使用した際に多くみられます。しかし、一般的にはSSRIを継続的に使用すると、吐き気は自然と起こらなくなることが多いです。
下痢
抗うつ薬のSSRIを使用した場合に多くみられる副作用が下痢になります。この下痢の副作用は、セロトニンの血中濃度の急激な上昇が原因です。
吐き気や下痢の症状に対しては、胃薬や整腸剤などによる対症療法が行われることもあります。
体重増加
体重増加が起こりうるのは、NaSSAを使用した場合です。
NaSSAはヒスタミンをブロックさせる働きをもっているため、体をリラックスさせて代謝まで抑えられてしまうのです。
ヒスタミンには食欲を抑える働きがあるため、NaSSAを使用すると食欲が上がるだけでなく、代謝も落ちることから体重が増加しやすくなります。
そのため、女性はこの副作用を嫌がる方が多いようです。体重が増えることを恐れて、薬の使用をやめてしまうなど問題となっています。
眠気
抗うつ薬にはセロトニンやヒスタミンをブロックする働きがあるため、眠気を感じるものが多い傾向にあります。セロトニンもヒスタミンも体を起こす働きに関係している物質です。
そのため、抗うつ薬によって体を起こす働きが弱くなり眠気を感じやすくなるのです。しかし、SSRIやSNRIの抗うつ薬を使用すると不眠になることがあります。
うつ病の薬の適切な飲み方
抗うつ薬のメリットとデメリットをご紹介しました。一体どのように抗うつ薬を使用すればよいのかも解説します。
規則正しく服用する
処方されたうつ病の薬は規則正しく服用しましょう。
医師は患者さんの重症度によって薬物療法の方針を決めています。そのため、自己判断で服用のペースを変えたり中止したりするのはリスクがあります。
なお、抗うつ薬の効果を上げるためには、心を休められる環境を整えることが大切です。さらに、心のケアも必要となります。
医師の指示どおりに服用する
抗うつ薬を使用する際は、医師の指示に従いましょう。抗うつ薬の効果が薄いと感じる場合は、心療治療や心を休められる環境を整えることを優先するのがおすすめです。
それでも抗うつ薬の効果が感じられないときは、医師に相談しましょう。
自己判断で服用をやめない
抗うつ薬の副作用でも少し触れていますが、副作用の影響で体重が増えることを恐れて自己判断で抗うつ薬の使用をやめるのはリスクがあります。
副作用で気になることがある場合は、医師に相談しましょう。
まとめ
うつ病は日本でも約15人に1人の割合で、人生に1回はうつ病を発症するといわれている程、身近な病気となっています。
心の病気ともいわれているため発見や治療が難しい面もありますが、早期発見と適切な治療を受けることが大変大切です。
気持ちが落ち込んで、前向きになれないような1日が数週間以上続く場合は、もしかするとうつ病になっているかもしれません。
まずは気分が上がらず心がしんどいと感じたら、病院へ受診しましょう。
参考文献
- うつ病|厚生労働省
- 抗うつ薬はどの様にうつ病に効果をもたらすか?― SSRIとNaSSAの比較 ―
- ベンゾジアゼピン系薬の長期使用患者における スボレキサントの導入に関する後方視的調査
- 抗うつ薬を使いこなす
- 抗精神病薬による錐体外路障害の発現予測と セロトニン神経に着目した回避法の検討
- 睡眠薬の分類における転倒率調査
- 持続性知覚性姿勢誘発めまい (Persistent Postural―Perceptual Dizziness : PPPD) に対する抗うつ薬の効果について
- 抗うつ剤の種類・特徴とその限界
- 抗コリン薬
- 井上猛先生に「抗うつ薬とうつ病の治療法」を訊く|公益社団法人 日本精神神経学会