「貧血」を引き起こすと氷が食べたくなるのはどうして?【医師監修】

疲れやすさやめまいといった症状だけでなく、無性に氷を食べたくなるという一見不思議な行動が、実は鉄欠乏性貧血のサインである可能性があります。氷食症と呼ばれるこの症状は、医学的に「異食症」の一種として認識されており、鉄欠乏性貧血に特徴的な症状の一つです。本記事では、氷食症が起こるメカニズムや頻度、鉄欠乏性貧血に伴う様々な症状について解説します。早期に気づくことで、適切な対処につなげることができます。

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
鉄欠乏性貧血と氷食症の関係
鉄欠乏性貧血の患者さんの一部に見られる氷食症は、医学的に「異食症」の一種として認識されています。氷食症とは、氷を無性に欲して大量に食べてしまう状態を指し、鉄欠乏性貧血に特徴的な症状の一つです。
氷食症が起こるメカニズム
氷食症のメカニズムについては完全には解明されていませんが、いくつかの仮説が提唱されています。体内の鉄が不足すると、脳内の神経伝達物質であるドーパミンの代謝に影響が及ぶ可能性が指摘されていますが、その機序はなお不明です。ドーパミンは報酬系や快感に関わる物質であり、その機能が低下することで異常な食行動が引き起こされる可能性があります。
また、鉄欠乏により口腔内や咽頭部に炎症や知覚異常が生じ、氷の冷たさによってその不快感が一時的に緩和されるという説もあります。実際に、鉄欠乏性貧血の患者さんの中には、舌の痛みや口内炎を訴える方も少なくありません。氷を噛むことで口腔内の炎症による不快感が軽減され、それが繰り返されることで習慣化してしまうのです。
さらに、鉄不足による慢性的な疲労感や倦怠感が、冷たい刺激によって一時的に覚醒感をもたらすという側面も指摘されています。氷を食べることで得られる刺激が、脳の活性化や気分転換につながり、それが無意識のうちに求められるようになるというわけです。
氷食症の頻度と特徴
鉄欠乏性貧血の患者さんのうち、氷食症を呈する割合は報告によって異なり、ばらつきも大きいですが、一部の研究では20〜30%程度とされています。氷食症の特徴としては、1日に製氷皿1〜2トレイ分以上の氷を食べてしまう、氷がないと落ち着かない、無意識のうちに氷を求めてしまうといった行動が挙げられます。
氷食症は本人も周囲も気づきにくい症状です。単なる嗜好や習慣と思われがちで、貧血との関連性を認識していない方が大半です。しかし、氷食症が続くことで歯のエナメル質が削れたり、知覚過敏が進行したりするリスクもあります。さらに、氷を大量に摂取することで体温が下がり、消化器官の機能低下を招く可能性も指摘されています。
氷食症が見られる場合、背景に鉄欠乏性貧血が存在する可能性を念頭に置き、血液検査を受けることが推奨されます。報告により頻度は幅がありますが、適切な鉄補充療法を行うことで、多くの場合、氷食症は自然に改善することが知られています。
氷食症を伴う鉄欠乏性貧血の症状
鉄欠乏性貧血では、氷食症以外にもさまざまな症状が現れます。これらの症状を正しく理解することで、早期発見と適切な対処につなげることができます。
全身症状と生活への影響
鉄欠乏性貧血の代表的な症状としては、疲れやすさ、倦怠感、息切れ、動悸などが挙げられます。これらは赤血球中のヘモグロビンが減少し、全身への酸素供給が不足することで生じます。階段を上るだけで息が切れる、少し歩いただけで疲れてしまう、朝起きるのがつらいといった症状は、日常生活の質を大きく低下させます。
さらに、頭痛やめまい、立ちくらみといった症状も頻繁に見られます。脳への酸素供給が不十分になることで、集中力の低下や記憶力の減退を感じる方もいます。仕事や学業においてパフォーマンスが落ち、本人も原因がわからずに悩んでしまうケースも少なくありません。
貧血が進行すると、顔色が悪くなる、唇や爪が白っぽくなるといった外見的な変化も現れます。周囲から「顔色が悪い」と指摘されて初めて気づく方もいます。これらの症状は徐々に進行するため、自覚しにくいのが特徴です。
鉄欠乏特有の症状
鉄欠乏性貧血では、貧血そのものによる症状に加えて、鉄不足に起因する特有の症状も見られます。爪が薄くなり、反り返るように変形する「さじ状爪」や、口角炎、舌炎といった口腔内の症状がその例です。
また、髪が抜けやすくなる、肌が乾燥しやすくなるといった美容面での悩みを抱える方もいます。これらは鉄が細胞の新陳代謝に関わっているためで、特に女性では深刻な悩みとなることがあります。
嚥下障害を伴う場合もあります。食道の粘膜が萎縮することで、食べ物が飲み込みにくくなる「プランマー・ビンソン症候群」と呼ばれる状態です。この症候群は食道がんのリスク因子としても知られており、注意が必要です。
氷食症を含むこれらの症状が複数見られる場合は、速やかに医療機関を受診し、血液検査を受けることが重要です。早期に発見し適切な治療を開始することで、症状の改善が期待できます。
まとめ
鉄欠乏性貧血は疲労感や息切れといった一般的な症状に加え、氷を食べたくなる氷食症という特徴的なサインを伴うことがあります。血液検査による数値の確認、食事による鉄補給、必要に応じた鉄剤の使用が治療の柱となります。しかし、背景に出血性疾患や吸収障害が隠れているケースもあるため、自己判断せず医療機関を受診し、原因を明らかにすることが大切です。適切な診断と治療により、症状は改善し氷食症も自然に消失することが期待されます。気になる症状があれば、早めに内科や血液内科を受診し、専門医に相談しましょう。