PTSDと適応障害との違いをご存知ですか? ハラスメントが「トラウマ」に変わる境界線【医師解説】

重度のハラスメントは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を引き起こす可能性があります。PTSDは、強烈なストレス体験後に生じる精神疾患であり、再体験症状や回避症状といった特有の症状パターンを示します。ここでは、PTSDの主要な症状群や発症時期、経過の特徴について説明し、早期発見と適切な治療介入の重要性についても触れていきます。

監修医師:
伊藤 有毅(柏メンタルクリニック)
精神科(心療内科),精神神経科,心療内科。
保有免許・資格
医師免許、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医
心的外傷後ストレス障害(PTSD)とその特徴
重度のハラスメントは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を引き起こす可能性があります。PTSDは、強烈なストレス体験後に生じる精神疾患であり、特有の症状パターンを示します。なお、PTSDは診断上「強いトラウマ体験(生命の危険、重い暴力、性的被害など)」が前提となります。ハラスメントが深刻であっても、出来事の性質によってはPTSDではなく、適応障害やうつ病・不安障害として診断されることがあります。一方で、暴行や性的ハラスメント、強い恐怖を伴う脅迫などがある場合はPTSDの可能性もあります。
PTSDの主要な症状群
PTSDには、再体験症状、回避症状、認知と気分の陰性変化、覚醒度と反応性の変化という4つの主要な症状群があります。再体験症状では、ハラスメントの場面がフラッシュバックのように繰り返し思い出され、悪夢として現れることもあります。関連する刺激に接すると、強い心理的苦痛や身体反応が生じます。
回避症状では、ハラスメントに関連する思考や感情を避けようとし、場所や人物、状況を回避する行動が見られます。認知と気分の変化としては、出来事の重要な部分を思い出せない、自分や他者、世界に対する否定的な信念、持続的な陰性感情、興味や活動の減退などが挙げられます。覚醒度の変化では、イライラしやすい、無謀な行動、過度の警戒心、驚愕反応の亢進、集中困難、睡眠障害などが現れます。
発症時期と経過の特徴
PTSDは、トラウマ体験から数週間から数ヶ月後に発症することが一般的ですが、場合によっては6ヶ月以上経過してから症状が現れることもあります。症状は自然に軽快する場合もありますが、適切な治療を受けなければ慢性化し、長期間にわたって生活の質を低下させる可能性があります。治療としては、認知行動療法や眼球運動による脱感作と再処理法(EMDR)などの心理療法が有効とされています。
PTSDの症状が疑われる場合には、精神科や心療内科での専門的な評価と治療が必要です。早期に適切な治療を開始することで、症状の改善と機能回復が期待できます。周囲の理解とサポートも回復において重要な役割を果たします。
まとめ
ハラスメントは単なる人間関係のトラブルではなく、心身の健康に深刻な影響を及ぼし、さまざまな病気を引き起こす可能性があります。不安や抑うつ、睡眠障害、消化器症状といった初期症状を放置すると、うつ病や適応障害、PTSDといった精神疾患に進展し、長期的には慢性疾患のリスクも高まります。労災認定の基準も整備されており、適切な証拠と手続きによって補償を受けることが可能です。早期の記録作成、相談窓口の活用、医療機関での受診が回復への第一歩となります。症状が続く場合には、ためらわず専門機関に相談し、適切な支援を受けることをおすすめします。


