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「日本住血吸虫症」を撲滅するためにどんな対策が行われた?【医師監修】

 公開日:2026/03/23
日本国内における撲滅の歴史的背景

日本国内における撲滅の歴史的背景
かつて日本国内の複数の地域で深刻な健康問題として存在していた日本住血吸虫症は、長年にわたる官民一体の取り組みにより撲滅されました。山梨県の甲府盆地や広島県の片山地方などで多くの患者さんが発生していましたが、総合的な対策の実施により新規感染はほぼ根絶されています。ここでは流行地域における疫学的状況と撲滅に至った対策について解説します。

小幡 史明

監修医師
小幡 史明(医師)

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自治医科大学医学部卒業 / 現在は医療法人静可会三加茂田中病院、医療法人在宅会 みんなのクリニック勤務 / 専門は総合診療科、腎臓内科、感染症科

日本国内における撲滅の歴史的背景

日本住血吸虫症は、かつて日本国内の複数の地域で深刻な健康問題として存在していました。しかし、長年にわたる官民一体の取り組みにより、国内での新規感染はほぼ根絶されました。

流行地域における疫学的状況

日本住血吸虫症が最も深刻だったのは山梨県の甲府盆地でした。この地域では江戸時代から「地方病」として知られ、原因不明の病気として恐れられていました。明治時代になって寄生虫感染症であることが判明しましたが、有効な対策がなく、昭和初期まで多くの患者さんが発生し続けました。
広島県の片山地方でも重症例が多く報告され、急性期の症状は「片山熱」と呼ばれました。この地域では水田が広がり、ミヤイリガイが多数生息する環境が整っていたため、農作業に従事する方々の感染が後を絶ちませんでした。福岡県の筑後川流域や佐賀県の一部地域でも流行が見られました。
これらの地域では、感染による労働力の低下が地域経済にも大きな影響を与えていました。若年層の感染も多く、就学や就職にも支障をきたしていました。感染への恐怖から、流行地域出身者への偏見や差別も存在したという悲しい歴史もあります。

撲滅に至った総合的な対策

日本国内での撲滅成功の背景には、複数の対策が総合的に実施されたことがあります。第一に、ミヤイリガイの生息地の環境改善が大規模に行われました。水田のコンクリート化、用水路の整備、排水路の改修により、貝が生息できる環境を減らしていきました。殺貝剤の散布も効果的に実施されました。
第二に、衛生設備の整備が進められました。水洗トイレの普及や下水処理施設の建設により、人の糞便が直接水系に流入することがなくなりました。これにより感染サイクルが断たれ、新規感染が大幅に減少しました。農村部でも公衆衛生の向上が図られ、生活環境が改善されました。
第三に、住民への啓発活動と健診体制の確立が重要な役割を果たしました。地域住民に感染経路や予防法を教育し、検便による早期発見と治療を推進しました。学校教育でも予防の重要性が教えられ、子どもたちの意識向上にもつながりました。これらの努力が実を結び、1996年には山梨県で新規感染者ゼロが達成され、事実上の国内撲滅が宣言されました。山梨県などの旧主要流行地では1996年に感染終息が宣言され、その後国内での新規感染は報告されていません。(こちらはあくまでも山梨県という旧主要流行地に限定された宣言となります。)

まとめ

日本住血吸虫症は、かつて日本国内で多くの方を苦しめた寄生虫感染症ですが、現在では官民一体の取り組みにより国内での撲滅に成功しました。しかし海外の流行地域では依然として感染リスクが存在します。症状や感染経路、治療法についての正確な知識を持ち、海外渡航時には適切な予防対策を実践することが重要です。流行地域を訪れる際は淡水との接触を避け、帰国後は健康状態に注意を払い、必要に応じて医療機関を受診しましょう。

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