甲状腺がんで多い「乳頭がん」は進行に何年かかる?原因や予後などの特徴を解説【医師監修】

乳頭がんは甲状腺がんの中で頻度が高く、全体の約80〜90%を占めます。成長が緩やかで予後が比較的良好とされていますが、リンパ節転移を起こしやすいという特徴もあります。ここでは乳頭がんの発生メカニズムや分子的特徴、進行パターンについて詳しく説明し、この疾患の本質を理解していただきます。

監修医師:
上田 洋行(医師)
大阪大学医学部卒業
住友病院、大阪大学医学部附属病院にて勤務
専門は糖尿病・内分泌・代謝内科
【資格】
・日本専門医機構認定内科専門医
・日本糖尿病学会糖尿病専門医
・内分泌代謝・糖尿病内科領域専門医
乳頭がんの特徴と性質
乳頭がんは甲状腺がんの中で頻度が高く、全体の約80〜90%を占めます。その名称は顕微鏡で見たときの細胞の形状に由来しており、乳房の乳頭とは関係ありません。乳頭がんの特徴について詳しく説明します。
乳頭がんの発生メカニズムと分子的特徴
乳頭がんは、甲状腺の濾胞上皮細胞から発生します。この細胞は甲状腺ホルモンを産生する役割を持ちますが、遺伝子変異により制御が失われると、がん化に至ります。特にBRAF遺伝子やRET/PTC遺伝子の変異(変異や遺伝子の並び方が変わってしまう)が高頻度に認められています。
BRAF V600E変異は、乳頭がんの約40〜60%に見られる代表的な遺伝子異常です。この変異を持つがんは、やや悪性度が高く、リンパ節転移を起こしやすい傾向があるとされています。一方で、RET/PTC遺伝子再配列を持つがんは、比較的予後が良好とされています。
放射線被曝は乳頭がんの明確なリスク因子です。特に小児期の頭頸部への放射線照射は、数十年後の甲状腺がん発症リスクを高めることが知られています。チェルノブイリ原発事故後に小児甲状腺がんが増加したことは、この関連を示す重要な疫学的証拠となっています。ただし、すべての乳頭がんが放射線被曝と関連しているわけではなく、多くは原因不明です。
乳頭がんの進行パターンと転移様式
乳頭がんは成長が緩やかで、数年から十数年かけて徐々に大きくなることが一般的です。腫瘍が1cm以下の微小がんの状態で長期間留まることも珍しくありません。このため、生涯にわたって症状を起こさず、他の原因で亡くなった方の剖検で偶然発見されることもあります。
リンパ節転移を起こしやすいことが特徴で、特に頸部のリンパ節に転移します。転移があっても生命予後に与える影響は限定的とされていますが、再発リスクは高まるため、手術では必要に応じてリンパ節郭清が行われます。
血行性転移(遠隔転移)は比較的まれですが、起こる場合は肺や骨への転移が多く見られます。遠隔転移がある場合でも、放射性ヨウ素治療が有効なことが多く、長期的な管理が可能です。乳頭がんの予後が良好である理由の一つは、転移病巣に対しても治療選択肢があることです。ただし、個々の状況により経過は異なるため、定期的な経過観察が重要です。
まとめ
甲状腺がんは、早期に発見し適切な治療を受けることで、多くの方が良好な予後を得られる疾患です。症状が少ないため見逃されやすい一方で、定期的な健診や自己チェックにより早期発見が可能です。
特に女性では発症率が高く、ライフステージに応じた注意が必要でしょう。首にしこりを感じたり、声の変化が続いたりする場合は、早めに内科や耳鼻咽喉科、内分泌外来などを受診することをおすすめします。
分化型甲状腺がん、特に乳頭がんは進行が緩やかで、適切な治療により長期的な管理が可能な場合が多いとされています。ただし、個々の状況により経過は異なるため、専門医による適切な診断と治療計画が重要です。
生存率は全体として高い水準にありますが、年齢、病期、組織型などの要因により変動します。未分化がんや進行した髄様がんでは予後が厳しい場合もあるため、早期発見の重要性は変わりません。
甲状腺がんに関する不安や疑問がある場合は、専門医に相談することで、個々の状況に応じた適切な情報とサポートを得ることができます。定期的な検査と自己チェックを習慣化し、早期発見・早期治療につなげることが、安心して日常生活を続けるための第一歩となります。