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食事も睡眠も不要になる… 「覚醒剤」が引き起こす身体ボロボロの末路とは

 公開日:2025/12/19
覚醒剤の主な作用—中枢神経への影響とそのメカニズム

覚醒剤が体内に入ると、脳の神経伝達物質に直接働きかけ、数分から数十分という短時間で劇的な変化を引き起こします。特にドーパミンやノルアドレナリンといった物質の異常な放出により、強烈な多幸感や過度な覚醒状態が生じます。ここでは、覚醒剤が脳内でどのような作用を及ぼすのか、そのメカニズムと急性期に現れる症状について詳しく解説します。

杉山 太一

監修医師
杉山 太一(医師)

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【経歴】
東京大学整形外科学教室
社会保険中央総合病院 整形外科
立正校正病院 整形外科
東京大学医学部附属病院 精神科
国立精神神経センターレジデント
東京大学医学部 精神科教室助手
葛飾橋病院精神科
ゆうメンタルクリニック 池袋院院長
葛飾橋病院(東京都葛飾区) 副院長
ワシン坂病院精神科(神奈川県横浜市) 勤務

【専門・資格・所属】
精神科・整形外科

精神保健指定医
日本精神神経学会 精神科専門医

覚醒剤の主な作用—中枢神経への影響とそのメカニズム

覚醒剤は脳の働きを急激に変化させる薬物で、その影響は数分〜数十分という短時間で現れます。特に脳内の中枢神経系に働きかけることで、神経伝達物質に大きな変化を引き起こします。ここでは、覚醒剤が脳内でどのように作用するのか、そしてその結果どのような症状が現れるのかを詳しく見ていきます。

脳内の神経伝達物質への直接的な作用

覚醒剤が体内に取り込まれると、脳内でドーパミンやノルアドレナリン(ノルアドレナリンの前駆体がドーパミンである)といった神経伝達物質の放出を促進し、同時にそれらの再取り込みを阻害します。ドーパミンは快感や報酬系に関わる物質であり、動物の本能的な生殖や食行動に関係している物質ですが、これが急速に脳内で通常よりも圧倒的に大量放出されることで、強烈な多幸感や高揚感が生じます。感覚が鋭敏に研ぎ澄まされることで、箸が落ちても大笑いしてしまう中2病と言われるドーパミン過多な思春期の状態がさらに強化された、何でも可笑しくて仕方がない多幸感の状態になります。このメカニズムによって、使用者は一時的に疲労感が消失し、過度な覚醒状態や、高揚感が持続する超人になったような万能感を得ることになります。
ノルアドレナリンのは、覚醒時の闘争か逃避かの緊迫した状況のサバイバルモードにて優位に分泌されるホルモンであり、交感神経系を刺激し、心拍数の増加や血圧の上昇、体温の上昇といった身体的な変化を引き起こします。これらの変化は、使用直後から数時間にわたって持続することがあります。闘争や逃避の極限状態では、火事場の馬鹿力を出すため一時的には必要なのですが長時間覚醒剤により喚起され続けると、身体に大きな負担をかける要因となります。

急性期に現れる覚醒・興奮作用

覚醒剤を使用した直後には、急性期の作用として顕著な過剰覚醒状態が現れることがあります。具体的には、眠気が完全に消失し、注意力や集中力が一気に飛躍的に高まったように感じられます。また、疲労感がなくなり、身体活動が異常に活発になる傾向が見られます。
しかし、これらの作用は脳の正常な機能ではなく過度にフラッシュされた大量のドーパミンがもたらした脳の異常な過覚醒と興奮がもたらした結果であり、持続可能な状態ではありません。時間とともに効果は急激に減弱し、しかも同じ効果を得るためにはさらに多くの覚せい剤が必要になります。急性期にはドーパミンがもたらす躁的な万能感がもたらす、多弁になる、落ち着きがなくなる、攻撃性が増すといった脳が興奮状態になったために起きる行動の変化も認められます。ドーパミンのもたらす快楽、万能感に支配され、交感神経が異常な亢進をもたらすため、食欲が減退し、消化管の蠕動運動が低下し、睡眠欲求さえ著しく低下するため、使用を続けることで食べ物を摂取することが二の次になり全く食事に興味関心がなくなります。低栄養状態が続き、食物ではなくドーパミンそのもの、薬物そのものだけを求めるようになるため、身体的な消耗が進行していきます。また、興奮状態の脳神経で起きたグルタミン酸放出による脳のニューロンの損傷の修復も睡眠状態が不十分なため十分な回復ができなくなります。覚醒剤の作用は使用直後の急性期だけでなく、一度使うとその時に得られた高揚気分や万能感の記憶が強烈でありすぎるがゆえに、繰り返し使用するようになります。そのため、長期的な影響も蓄積されていくことになります。短期的な作用と長期的な作用を理解することは、その危険性を正しく認識するためにとても重要です。

まとめ

覚醒剤は心身に深刻な影響を及ぼす違法薬物であり、使用によって取り返しのつかない結果を招く危険性があります。しかし、依存症は適切な治療と支援によって回復可能な状態です。本記事で解説した覚醒剤の作用、身体的・精神的影響、依存性のメカニズムを正しく理解し、問題に直面した際には速やかに専門機関へ相談することが大切です。

この記事の監修医師

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