男性機能はどうなる? 「前立腺がん」全摘除術の合併症と後悔しないための予備知識

前立腺がんが前立腺内にとどまっている段階では、根治を目指して手術療法が選択されることがあります。開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術など、複数の術式が存在し、それぞれ侵襲の程度や回復期間に違いがあります。術後の経過や起こりうる合併症について理解しておくことは、治療後の生活を見据えるうえで大切です。

監修医師:
新村 浩明(ときわ会 常磐病院)
いわき市医師会副会長
いわき市病院協議会副理事
【経歴】
平成5年 富山大学医学部卒
平成5年 東京女子医科大学泌尿器科入局
平成17年9月 ときわ会 いわき泌尿器科病院
平成23年6月 ときわ会 常磐病院(福島県いわき市)
平成27年9月 ときわ会 常磐病院 院長就任
【資格】
日本泌尿器科学会 専門医・指導医
日本透析医学会 専門医・指導医
日本臨床腎移植学会 認定医
日本核医学会 PET核医学認定医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
日本泌尿器内視鏡学会 泌尿器腹腔鏡技術認定医
日本内視鏡外科学会 技術認定医
目次 -INDEX-
手術療法の詳細と実際の流れ
手術療法は、前立腺がんが前立腺内にとどまっている段階で根治を目指すために行われる治療法の一つです。開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術などの選択肢があり、それぞれ特徴が異なります。
前立腺全摘除術の種類
前立腺全摘除術には、主に開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術の3つの方法があります。
開腹手術は、下腹部を切開して前立腺を摘出する過去に行われていた方法で、前立腺は恥骨の裏に位置するため視野が悪く、そのため出血量が多くなり、輸血が必要となる可能性があります。また、傷口が大きい分、術後の痛みが続きやすく、回復までに時間がかかる傾向があります。腹腔鏡手術は、小さな穴を数か所開けて内視鏡を挿入し、モニターを見ながら行う方法で、傷が小さく回復が早い傾向があります。また、入院期間が短縮されやすく、日常生活への復帰が早いとされています。一方で手術操作の難易度が高く、手術時間が長い傾向があり、医師には高度な技術が求められます。ロボット支援手術は、精密なロボットアームを操作して行う手術で、ロボットアームは人の手よりも細かな動きが可能で、揺れが少なく安定しているため、上記の手術に比べ神経や血管を傷つけにくいといわれています。そのため、尿失禁や男性機能に関わる神経を温存にも有利で、術後の生活の質につながる点で大きなメリットがあります。
いずれの方法も、前立腺と精嚢を摘出し、膀胱と尿道をつなぎ直す手順は共通していますが、侵襲の程度や回復期間に違いがあります。患者さんの状態や医療機関の設備、医師の技術によって適した方法が選ばれるため、事前に十分な説明を受け、納得したうえで選択することが重要です。
手術後の経過と注意点
手術後は、数日から1週間程度の入院が必要となり、前立腺と尿道をつなぎ直した部分を安定させる尿道カテーテルを挿入された状態で過ごします。カテーテルは膀胱がきちんと機能しているか確認しながら、通常1週間前後で抜去され、その後は自力での排尿が可能になります。術後に起こりやすい合併症としては、尿失禁や男性機能の低下が知られており、特に尿失禁は多くの方が経験されます。前立腺のすぐ近くには尿をコントロールする筋肉や神経があり、手術の影響で一時的に排尿をうまく調整できなくなることがあるためです。術後しばらくは尿漏れの症状が続くことがありますが、多くの患者さんは数か月かけて徐々に改善します。特に骨盤底筋と呼ばれる筋肉のトレーニングは、尿失禁の改善に役立ちます。最初は意識しにくい筋肉ですが、専門の理学療法士や看護師の指導を受けることで、自宅でも無理なく継続できるようになります。改善には個人差がありますが、半年から1年ほどの期間をかけて症状が軽くなるケースが多いとされています。
もう一つの大きな問題は男性機能の低下です。これは性機能を支える神経が前立腺のすぐ横を通っているため、手術の際に刺激を受けやすいことが原因です。神経温存手術が行われた場合でも、機能の回復には時間がかかることがあり、薬物療法や補助器具の使用が検討されることもあります。術後は定期的にPSA値を測定し、再発の有無を確認することが重要です。経過観察の期間や頻度は個々の状況によって異なるため、医師の指示に従うことが大切です。
まとめ
前立腺がんの診断を受けた際には、誰もが不安を感じるものです。しかし、早期に発見し適切な治療を受ければ、良好な経過をたどることができるがんの一つでもあります。治療法は多岐にわたり、手術療法、放射線療法、ホルモン療法など、患者さんの状態や希望に応じた選択が可能です。
費用面では、高額療養費制度や医療費控除、民間保険を活用することで、経済的な負担を軽減できます。前立腺がんは初期症状に乏しいため、定期的なPSA検査による早期発見が何よりも重要です。不安や疑問があれば、泌尿器科の専門の医師に相談し、納得のいく治療を選ぶことが大切です。ご自身の身体と向き合いながら、医師や医療スタッフと協力して、より良い治療と生活を目指していきましょう。

