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更年期障害の診断と治療開始の目安 問診、ホルモン検査、HRTの選択肢

 公開日:2025/12/12
更年期障害の診断と治療開始の目安:問診、ホルモン検査、HRTの選択肢

更年期障害の診断では、症状の確認とホルモン検査が重要な役割を果たします。症状は他の疾患と重なることもあるため、正確な診断が適切な治療の第一歩となります。本記事では、問診や血液検査の内容、他疾患との鑑別方法について説明します。また受診を検討すべき症状のサインや、婦人科や更年期外来で受けられるサポート内容も解説します。早めの受診が、その後の回復を大きく左右する可能性があります。

月花 瑶子

監修医師
月花 瑶子(医師)

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【経歴】
杉山産婦人科 
東京都渋谷区 杉山クリニックSHIBUYA 勤務

【資格】 
産婦人科専門医
生殖医療専門医

更年期障害の診断方法

更年期障害かどうかを判断するためには、症状の確認と検査が必要です。症状は他の疾患と重なることもあるため、正確な診断が適切な治療の第一歩となります。ここでは、診断の流れと検査内容について説明します。

問診と症状評価の重要性

更年期障害の診断では、まず医師による詳しい問診が行われます。現在の症状の種類や程度、いつから始まったか、日常生活への影響、月経の状況、過去の病歴や生活習慣などを丁寧に確認します。これらの情報は、更年期障害の診断だけでなく、他の疾患を除外するためにも重要です。

更年期症状の種類と重症度を客観的に評価するため、簡易更年期指数(SMI)などのスコアリングシステムを用いることもあります。点数化することで、症状の全体像を把握し、治療の必要性や方針を判断する材料になります。

問診では、精神症状についても詳しく聞かれることがあります。抑うつ気分や不安感、睡眠障害などは、更年期障害と精神疾患の両方で見られる症状であり、鑑別が必要です。また日常生活や仕事、人間関係にどのように影響しているかを伝えることも大切です。症状の重症度は数値だけでは測れない部分もあり、患者さん自身がどう感じているかが治療方針を決める重要な要素となります。

ホルモン検査と他疾患の除外

必要に応じて、血液検査によるホルモン値の測定が行われることがあります。エストロゲンの分泌量を反映するエストラジオール(E2)や、卵胞刺激ホルモン(FSH)の値を測定します。更年期にはE2が低下し、FSHが上昇する傾向が見られます。ただし、ホルモン値は日によって変動するため、一度の検査結果だけで診断が確定するわけではありません。症状とホルモン値を総合的に判断することが重要です。

また更年期障害と似た症状を示す疾患を除外することも大切です。甲状腺機能異常、貧血、糖尿病、心疾患、精神疾患などは、更年期症状と重なる症状を引き起こします。そのため、甲状腺ホルモンや血糖値、貧血の有無などを調べる血液検査が行われることもあります。動悸やめまいが強い場合は、心電図や血圧測定を行い、ほかの原因がないかを確認します。診断には時間がかかることもありますが、丁寧な評価が効果的な治療につながります。

更年期障害の治療を始めるタイミングと受診の目安

更年期の症状は、軽い不調から始まることもあれば、ある日を境に強く現れることもあります。我慢できるから、まだ病院に行くほどではないと感じる方も多いですが、早めの受診がその後の回復に大きく左右します。ここでは、治療を検討すべきサインと、婦人科や更年期外来で受けられるサポート内容について解説します。

受診を検討すべき症状のサイン

更年期の不調は多くの女性に起こる自然な変化ですが、年齢のせいと我慢を続けると、心身の負担が大きくなりやすいものです。たとえばホットフラッシュや発汗、動悸が頻繁に起こる場合、または気分の落ち込みや不安が強く、夜の眠りが浅い状態が続くときは、治療を検討するサインといえます。疲労感が抜けずに仕事や家事に影響が出ている、月経の乱れが急に増えた、あるいは閉経が近づいていると感じるときも、早めに医師へ相談するのが望ましいでしょう。

軽い症状であっても放置すると自律神経の乱れが進み、めまいや不眠、抑うつなど別の症状を引き起こすこともあります。早めに受診することで、症状の進行を防ぐことができるでしょう。

婦人科・更年期外来でできること

婦人科や更年期外来では、問診や血液検査を通してホルモンバランスや体調の変化を詳しく調べ、症状の程度や生活背景に合わせた治療方針を提案してもらえます。ホルモン補充療法(HRT)をはじめ、漢方薬や非ホルモン治療、生活習慣の見直しなど、複数の選択肢を組み合わせながら無理なく改善を目指すことができます。

最近では、更年期外来を専門的に設ける医療機関も増えており、心と身体の両面からサポートを受けられます。更年期の不調は個人差が大きいため、ひとりで抱え込まず、信頼できる医師とともに自分に合った治療法を探していくことが、より快適な日常を取り戻す第一歩です。

更年期障害のホルモン補充療法(HRT)

ホルモン補充療法(HRT)は、更年期障害の代表的な治療法です。不足したエストロゲンを補うことで、多くの症状の改善が期待できます。ここでは、HRTの仕組みと効果について詳しく解説します。

HRTの仕組みと適応症

ホルモン補充療法(HRT)は、減少したエストロゲンを薬剤によって補充する治療法です。内服薬、貼付剤(パッチ)、塗布剤(ジェル)など、さまざまな投与方法があります。子宮を摘出していない方には、子宮内膜の増殖を防ぐためにプロゲステロン(黄体ホルモン)も併用されます。

HRTは、ホットフラッシュや発汗などの血管運動神経症状に高い効果を示します。治療開始から数週間で症状の軽減を実感する方が多いです。また腟の乾燥や性交痛、泌尿器症状の改善にも役立ち、骨密度の低下の抑制や骨粗鬆症の予防にも有効とされています。

症状が日常生活に支障をきたしている方や、45歳未満で閉経を迎えた方に、骨や心血管系の健康を守るため、特に推奨されることがあります。ただし、乳がんや子宮体がんの既往がある方、血栓症のリスクが高い方、重度の肝機能障害がある方は注意が必要です。使用期間や量は医師と相談しながら決定する必要があります。

HRTの効果と注意すべき副作用

HRTには、ホットフラッシュ(のぼせ・ほてり)や発汗の頻度・強さの軽減、睡眠の質の改善、気分の安定、抑うつ症状の緩和など、多様な効果が期待できます。皮膚や粘膜の潤いが戻ることで、乾燥症状が和らぐほか、関節痛や筋肉痛が改善するケースもあります。

長期的な効果として特に重要なのが、骨密度の維持です。HRTは骨吸収を抑制し、骨量の減少を防ぐため、骨粗鬆症やそれに伴う骨折リスクの低減に役立ちます。また、閉経後10年未満かつ60歳未満で治療を開始した場合は、心血管疾患(CVD)リスクが低下する可能性が示されており、「ウィンドウ・オブ・オポチュニティ(治療開始の適切な時期)」の概念が重視されています。一方で、閉経後10年以上経過してからの開始や60歳以上での開始は、CVDリスクが上昇する可能性があるため注意が必要です。

副作用としては、治療開始初期に乳房の張り・痛み、不正出血、吐き気などがみられることがありますが、多くは継続するうちに軽減します。ただし、HRTのリスクは開始年齢、使用期間、投与経路(経口か経皮か)、プロゲステロンの併用の有無などによって大きく異なります。特に長期使用の場合には、乳がんや血栓症のリスクが増加する可能性が指摘されており、リスクが高い群では慎重な判断が求められます。

そのため、HRTを安全に続けるためには、定期的な乳がん検診や血液検査を受けながら、医師と相談して自身に合った投与方法・期間を選ぶことが重要です。

更年期障害の非ホルモン治療法

HRTが適さない方や、ホルモン療法以外の選択肢を希望する方には、非ホルモン治療があります。薬物療法だけでなく、生活習慣の改善も症状緩和に役立ちます。ここでは、非ホルモン治療の選択肢について説明します。

抗うつ薬やその他の薬物療法

非ホルモン治療として、特定の抗うつ薬が用いられることがあります。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)は、低用量での使用によって、ホットフラッシュの軽減や精神症状の改善に効果があることが報告されています。ホルモン療法に比べて効果は穏やかですが、乳がんの既往がある方や血栓症のリスクが高い方にも使用できる利点があります。

また血圧を調整する薬剤がホットフラッシュに有効な場合もあります。骨密度の低下が心配な方には、ビタミンDやカルシウムのサプリメント、骨粗鬆症治療薬が用いられることもあります。薬物療法を選択する際には、症状はもちろん、ほかに服用している薬との相互作用や既往症も考慮し、複数の治療を組み合わせることで、より良い効果が得られるでしょう。

生活習慣の改善とセルフケア

薬物療法と並行して、生活習慣の見直しも症状の軽減に大きく役立ちます。規則正しい睡眠やバランスの取れた食事、適度な運動は、更年期症状の緩和だけでなく、全身の健康維持にも欠かせません。

運動は、ウォーキングやヨガ、水泳などの有酸素運動に加え、筋力トレーニングを取り入れることで、筋肉量の減少を防ぎ、関節や骨への負担を軽減できます。週に3回以上、30分を目安に行うといいでしょう。食事では、大豆製品に含まれるイソフラボンが、エストロゲンに似た働きを持つため、豆腐や納豆、豆乳などを日常的に取り入れることで、症状の軽減に役立つ可能性があります。また、カルシウムやビタミンDも十分に摂取し、骨の健康を保つことも大切です。

ストレス管理も欠かせません。深呼吸や瞑想、趣味の時間などで心を休ませ、同じ悩みを持つ人と話すことで前向きな気持ちを取り戻せるでしょう。

更年期障害に用いられる漢方薬

漢方薬は体質や症状に合わせて処方され、更年期障害の幅広い不調を穏やかに和らげる治療方法です。ここでは、代表的な漢方薬とその特徴について解説します。

代表的な漢方薬とその効能

更年期障害でよく用いられる漢方薬にはいくつかあります。

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は、冷えやすく貧血傾向があり、疲れやすい方に適しています。血行やホルモンバランスを整える働きがあるとされ、月経不順やめまい、頭痛などにも用いられます。

加味逍遙散(かみしょうようさん)は、イライラや不安感、抑うつ気分など精神症状が強い方に適しています。自律神経の調整作用があり、ホットフラッシュや不眠にも効果があるとされています。更年期障害の幅広い症状に対応できるため、よく処方される漢方薬のひとつです。

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)は、血の巡りが悪く、のぼせやほてり、肩こり、頭痛などがある方に用いられます。瘀血(おけつ)と呼ばれる血液の滞りをよくする働きがあります。体力のある方に適しているとされています。

これらの漢方薬は、保険適用で処方されることが多く、体質や症状の詳細な評価に基づいて行われるため、専門の医師や漢方に詳しい医師に相談することが望ましいです。

漢方薬の選び方と注意点

漢方薬は、自身の体質と症状に合ったものを選ぶことが重要です。同じ更年期障害でも、冷えがある方と熱がこもる方では、適した漢方薬が異なります。漢方薬は副作用が少ないとされていますが、体質に合わないものを服用すると、かえって症状が悪化したり、胃腸障害や発疹などが現れたりすることがあります。ほかの薬との相互作用や特定の成分にアレルギーがある場合もあるため、服用前に医師や薬剤師に相談することが大切です。

効果の現れ方も個人差が大きく、数週間で現れる方もいれば、数ヶ月継続して初めて実感する方もいます。即効性を期待するよりも、体質を根本から整えるという考え方で、継続して服用することが推奨されます。

漢方薬は、ホルモン療法などの複数の治療法と併用することも可能なので、自分に合った治療法を見つけるためにも、医師と相談しながら無理なく続けていきましょう。

まとめ

更年期障害は、女性のライフステージにおいて避けて通れない時期ですが、適切な知識と対応により、症状を軽減し生活の質を保つことが可能です。症状の始まる時期や現れ方には個人差がありますが、早期に気づき、専門の医師に相談することが重要です。ホルモン補充療法、薬物療法、漢方薬など、多様な治療選択肢があるため、自身の体質や希望に合った方法を選ぶことができます。症状を我慢せず、医療機関で相談し、前向きに更年期を乗り越えていきましょう。

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