「サプリメントの正しい役割」をご存じですか? 脳や心血管への影響を医師に聞く

日々の食事で不足しがちな栄養素を補うサプリメントは、健康維持の心強い味方です。本記事では、サプリメントの基本的な役割から、青魚に多く含まれるDHAとEPAの体内での働き、そして効果的な選び方や摂取方法まで、専門的な視点から詳しく解説します。適切な知識を持つことで、ご自身に合ったサプリメント選びが可能となるでしょう。

監修医師:
濱木 珠恵(ナビタスクリニック新宿)
北海道大学医学部を卒業後、国立国際医療センターにて研修。
虎の門病院、国立がんセンター中央病院で造血幹細胞移植の臨床研究に従事。都立府中病院、都立墨東病院での血液疾患診療を経て、2012年にナビタスクリニック東中野院長、2016年よりナビタスクリニック新宿院長に就任。
貧血外来や女性内科などで女性の健康をサポート。
【専門・資格・所属】
血液内科、貧血、女性内科、内科一般
日本血液学会 専門医
日本内科学会 認定医
目次 -INDEX-
サプリメントの基本的な効果と役割
サプリメントは、日常の食事では不足しがちな栄養素を補うための製品です。適切な知識を持つことで、健康な身体づくりをサポートする心強い味方として活用できます。
栄養補助としてのサプリメントの位置づけ
サプリメントは薬ではなく、あくまでも栄養補助食品です。病気を治療する目的ではなく、日々の健康維持や栄養バランスの調整を目的としています。大切なのは、まず食事・睡眠・運動などの基本的な生活習慣を整え、その上で不足分を補う手段として活用することです。
現代の食生活では、加工食品の利用や食事の偏りにより、必要な栄養素を十分に摂取できないケースが少なくありません。厚生労働省の調査によると、日本の方の多くが特定のビタミンやミネラルの摂取量が不足している傾向があります。特に、ビタミンDやカルシウム、鉄分などは、通常の食事だけでは推奨量を満たすことが難しい栄養素です。こうした足りない部分にサプリメントを活用することで、効率的に栄養素を補うことができます。
ただし、サプリメントに頼りすぎることは望ましくありません。野菜や果物、魚介類、肉類、穀物など、バランスの取れた食事から栄養を摂取することで、身体に必要な栄養素を総合的に取り入れることができます。
期待できる健康効果の範囲
サプリメントから期待できる効果は、栄養素の種類によって異なります。たとえば、抗酸化作用を持つビタミンCやビタミンEは、細胞の老化を防ぐ働きが、カルシウムやビタミンDは、骨の健康維持、特に骨密度の維持をサポートしてくれます。
ビタミンB群はエネルギー代謝を助け、疲労感や集中力の低下を防ぐ働きがあります。オメガ3脂肪酸であるDHAやEPAは、血液の流れや脳の働きに関係する成分として注目されています。
ただし、サプリメントの効果には個人差があります。同じ栄養素を摂取しても、体質や生活習慣、年齢などによって、その実感の現れ方は異なります。また、短期間で劇的な変化を期待するのではなく、継続的に摂取しながら、体調の変化をみていくことが大切です。
サプリメントは、あくまでも健康的な生活習慣を支える補助的な役割を果たすものであり、それ単体で劇的な変化をもたらすものではありません。バランスのとれた食事、十分な睡眠、適度な運動といった基本的な健康習慣を大切にしながら、サプリメントを上手に活用することが望ましいでしょう。
サプリメントの効果を正しく理解するために
サプリメントの効果を適切に判断するためには、科学的な根拠に基づいた情報を理解することが大切です。信頼できるデータを参考にすることで、より効果的なサプリメント選びが可能となります。
科学的根拠と効果の評価方法
サプリメントの有用性には、臨床研究や疫学調査などの研究によって確認されます。これらの研究では、特定の栄養素を摂取したグループと摂取しなかったグループを比較し、健康状態の変化を統計的に分析します。信頼できる研究結果は、複数の独立した研究機関で再現されたデータです。
一般的な研究の流れは、まず試験管や動物実験で栄養素の基本的な働きを調べ、次に少数の被験者を対象とした予備的な研究が行われ、安全性や用量が検討されます。最終的には、多数の被験者を対象とした大規模な臨床試験により、実際の効果を検証します。
ただし、サプリメントの効果を判断する際には、複数の信頼できる情報源を参照することが重要です。公的機関が発表する報告書や、専門家による査読を経た学術論文などが、信頼性の高い情報源といえるでしょう。一方で、特定の商品を宣伝する目的で作成された情報には、偏りがある可能性があるため、慎重に扱う必要があります。
摂取量と安全性の考慮点
サプリメントを利用する際には、適切な摂取量を守ることが重要です。多くの栄養素には、推奨される摂取量の範囲が設定されています。この範囲内での摂取であれば、安全性が高いと考えられていますが、過剰に摂取すると健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
たとえば、脂溶性ビタミンであるビタミンAやビタミンDは、体内に蓄積されやすく、過剰摂取すると中毒症状を引き起こすことがあります。一方、水溶性ビタミンであるビタミンCやビタミンB群は、尿として排出されやすいため、比較的安全性が高いとされていますが、大量に摂取すると、胃腸の不調などの症状が現れることがあります。
鉄分や亜鉛などのミネラルも、適切な摂取量の管理が必要です。特に複数のサプリメントを併用している場合は、特定の栄養素が重複して過剰摂取になってしまうことがあるため、成分表示を確認しましょう。
また製品の品質も重要です。信頼できるメーカーの製品を選び、製造過程や品質管理体制が明確なものを選びましょう。持病がある方や妊娠中・授乳中の方は、サプリメントを使用する前に医師に相談することが望ましいです。
DHAサプリメントの働きと健康への影響
DHA(ドコサヘキサエン酸)は、青魚に多く含まれるオメガ3脂肪酸の一種です。体内ではほとんど作ることができないため、食事やサプリメントから摂取する必要があります。
DHAの生理学的機能
DHAは、脳や神経組織、目の網膜などに多く存在し、細胞膜の柔軟性を保ち、神経の伝達をスムーズにする働きがあります。脳の脂質成分のおよそ10%から20%を占めるほど大切な成分で、学習能力や記憶力といった認知機能に関係していると言われています。特に、発達期の子どもや高齢者の脳の健康維持に役立つとされています。
また網膜の視細胞にも多く含まれており、視覚機能との関連も注目されています。妊娠中や授乳中の母親が十分なDHAを摂取することで、胎児や乳児の視覚発達をサポートできるという報告もされています。
さらにDHAは、抗炎症作用を持つとされ、体内の炎症反応を調整する働きがあり、慢性的な炎症状態の改善に役立つ可能性があります。ただし、この作用については、さらなる研究が必要な段階といえるでしょう。
DHAサプリメントの選び方と摂取方法
DHAサプリメントを選ぶ際には、含有量と品質を確認しましょう。製品によってDHAの含有量は大きく異なります。「一般的に、研究ではEPAとDHAを合わせて1g程度の摂取が用いられることがありますが、明確な“DHAだけの推奨量”は定められていません。目的や体格によって適量が異なるため、製品の表示量や医療専門家の助言を参考にしましょう。
原料は魚油由来のものが一般的ですが、藻類から抽出されたDHAも存在します。魚油由来の製品は、魚特有の臭いが気になる場合があるため、カプセルの加工方法や脱臭処理の有無を確認するといいでしょう。
DHAは酸化しやすい性質があるため、開封後は冷暗所で保管し、賞味期限内に使い切りましょう。また、ビタミンEなどの酸化防止剤が配合されている製品を選ぶことで、品質の劣化を防ぐことができます。
摂取のタイミングは、脂質を含む食事と一緒に摂ることで、吸収が促進されるといわれています。また、継続的に摂取することで、体内のDHA濃度を適切なレベルに維持できるため、毎日の習慣にすることが大切です。
DHA摂取における注意点と期待される効果
DHAサプリメントは、多くの方が安全に利用できる栄養補助食品ですが、適切な使用方法と注意点を理解しておくことが大切です。
摂取時の具体的な注意事項
DHAは血液をサラサラにする作用があるため、抗凝固薬や抗血小板薬を服用している方は、医師に相談してから使用しましょう。これらの薬との併用により、出血しやすくなる可能性があるためです。手術を予定している場合も、一定期間前から摂取を中止するよう指示されることがあります。
また魚介類にアレルギーがある方は、注意が必要です。アレルギー症状が現れる可能性があるため、藻類由来の製品を選択するか、医師に相談しましょう。また、製品によっては、魚以外の成分(ゼラチンなど)も含まれているため、原材料表示を確認することが重要です。
DHAサプリメントの過剰摂取は、胃腸の不調や吐き気、下痢などの症状が現れることがあります。推奨量を守り、何か体調に変化があればすぐに使用を中止しましょう。妊娠中や授乳中の方は、水銀などの有害物質が含まれていない高品質な製品を選ぶことが大切です。妊娠中のDHA摂取は胎児の発達に良い影響を与える可能性がありますが、安全性を重視した選択が必要です。
期待される健康効果と研究動向
DHAは、主に心臓・脳・精神の健康を支える栄養素として研究が進められています。
心血管系の健康維持に関しては、血液中の中性脂肪を下げる作用や、血圧への影響、心筋梗塞や動脈硬化のリスクを減らす可能性が報告されています。
高齢者を対象とした研究では、認知機能の維持に役立つとする報告もあります。一部の研究ではDHAの摂取が記憶力の低下を緩やかにする可能性があるとされていますが、まだ研究段階にあります。
さらに、DHAは気分や精神状態への影響も研究されています。DHAが脳内の神経伝達物質の働きをサポートするため、うつ症状や不安の改善に役立つのではないかと考えられています。
そのほか、炎症を抑える作用があることから、関節炎などの慢性的な炎症疾患への応用も検討されています。基礎研究レベルでは前向きな結果が出ていますが、臨床的な証明にはさらなる検証が必要です。今後の研究成果が待たれる段階といえるでしょう。
まとめ
本記事で紹介したDHA、EPA、亜鉛、ビタミンCは、それぞれ異なる働きを持ち、私たちの健康維持に貢献する栄養素です。ご自身の生活状況や健康目標に合わせて、適切なサプリメントを選択し、正しい方法で利用することが大切です。製品選びの際には、含有量や品質、原材料を確認し、推奨される摂取量を守ることも重要です。
サプリメントは、適切に使用することで健康維持の強い味方となります。しかし基本となるのは、バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠といった生活習慣です。これらの土台のうえに、必要に応じてサプリメントを活用することで、より効果的な健康管理が可能になるでしょう。