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「うつ病」の家族や友人を支えるために。知っておきたいサポート方法と治療の選択肢【医師解説】

 公開日:2025/12/02
うつ病の家族や友人を支えるために。知っておきたいサポート方法と治療の選択肢

大切な人がうつ病かもしれないと感じたとき、どのように寄り添い、サポートすればよいのでしょうか。 本記事では、家族や周囲の方ができる具体的な声かけや受診の促し方から、医療機関での診断プロセス、抗うつ薬や心理療法といった主な治療法まで解説します。正しい知識が、ご本人とあなたを支える力になります。

三浦 暁彦

監修医師
三浦 暁彦(医師)

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【経歴】
2018年富山大学医学部医学科卒業。慶應大学病院、国立病院機構久里浜医療センター、国立国際医療研究センター国府台病院等で研鑽を積む。自身が不登校、うつ病となった経験から、誰でも気軽にかかれる医療を目指して2023年6月に「おおかみこころのクリニック」を開院。医師偏在等の精神科医療の問題点を克服するため、遠隔診療の研究にも従事し、2025年9月にAIを用いたオンライン診療所「ココフィー」をリリース。著書「脱うつのトリセツ」
【資格】
日本精神神経学会 専門医

家族や周囲ができるサポートとチェックポイント

うつ病の患者さん本人が自身の状態に気づきにくいこともあるため、家族や周囲の方が変化に気づき、適切なサポートを提供することが重要です。ここでは、周囲の方が注意すべきポイントについて解説します。

行動や様子の変化を察知する

家族や同僚など身近な方は、患者さん本人も気づいていない変化に気づくことができる立場にあります。以前と比べて表情が乏しくなった、笑顔が減った、口数が少なくなった、といった変化は重要なサインです。 生活パターンの変化も見逃せません。いつもより早く起きている、逆に起きられなくなっている、食事の量が明らかに変わった、身だしなみに気を使わなくなった、などの変化があれば注意が必要でしょう。仕事や学業のパフォーマンスが低下している、約束を忘れることが増えた、といった点も気づきのポイントになります。 大切なのは、これらの変化を非難するのではなく、心配している気持ちを伝えることです。 ただし、本人が話したがらない場合に無理に聞き出そうとすることは避けるべきです。話す準備ができるまで待つ姿勢も大切であり、いつでも話を聞く準備があることを伝えておくと良いでしょう。

適切な声かけと受診への促し方

うつ病の可能性がある方への接し方には配慮が必要です。「頑張れ」「気の持ちようだ」といった言葉は、かえって本人を追い詰めることになりかねません。まずは話を聴き、苦しみを理解しようとする姿勢が大切です。 受診を促す際は、押しつけるのではなく、選択肢の一つとして提案する形が望ましいでしょう。「一度専門家に相談してみたら、何か良い方法が見つかるかもしれないよ」「身体の症状もあるようだから、診てもらった方が良いのではないかな」といった声かけが効果的です。 必要に応じて、受診に同行することを申し出るのも良いでしょう。予約の手配や医療機関の情報収集など、実務的なサポートを提供することで、受診へのハードルを下げることができます。ただし、本人の意思を尊重し、無理強いはしないことが重要です。本人が受診を拒否する場合は、まず家族だけが相談に行くという方法もあります。 周囲の方ができるサポートには限界もあります。専門的な治療が必要な状態では、医療機関との連携が不可欠です。家族自身も心理的な負担を抱えることがあるため、必要に応じて家族向けの相談支援を利用することも検討してください。

医療機関でのうつ病診断プロセス

うつ病の診断は、専門的な知識を持つ医師による詳細な評価に基づいて行われます。ここでは、医療機関を受診した際の診断の流れについて説明します。適切な診断を受けることで、効果的な治療計画を立てることができるでしょう。

問診と症状の詳細な評価

医療機関でのうつ病診断は、まず詳しい問診から始まります。医師は現在の症状について、いつから始まったか、どのような状況で悪化するか、日常生活への影響はどの程度かなどを丁寧に聞き取ります。症状の種類、持続期間、重症度を総合的に評価していきます。 過去の病歴や治療歴、家族にうつ病や精神疾患の既往がある方がいるかなども確認されます。現在服用している薬やサプリメントについても報告する必要があります。生活環境やストレス要因、大きな出来事なども診断の参考情報となります。 診断基準としては、国際的基準に基づいて、症状のパターンや持続期間、機能障害の程度などが評価されます。うつ病と診断されるには、一定数以上の症状が2週間以上継続していることが条件となります。

鑑別診断と身体疾患の除外

うつ病の診断において重要なのが、類似した症状を示すほかの疾患との区別です。双極性障害(躁うつ病)、不安障害、適応障害、パーソナリティ障害など、ほかの精神疾患との鑑別が行われます。また、認知症の初期症状として抑うつ状態が現れることもあるため、特に高齢の患者さんでは注意深い評価が必要です。 身体疾患が原因で抑うつ症状が出現することもあるため、身体的な検査も重要です。甲状腺機能異常、貧血、ビタミンB12欠乏、脳の器質的疾患などが除外されます。そのため、血液検査や必要に応じて画像検査が行われることもあります。 薬剤の副作用として抑うつ症状が現れることもあるため、服用中の薬についても慎重に評価されます。ステロイド薬、一部の降圧薬、経口避妊薬などが影響する場合があります。 このような多面的な評価を経て、うつ病という診断が確定されます。診断が確定すれば、患者さんの状態に応じた治療計画が立てられることになるでしょう。診断には時間がかかることもあり、複数回の診察を経て確定されることもあります。

診断後の重症度評価と治療方針の決定

うつ病と診断された後は、症状の重症度を評価し、それに応じた治療方針が決定されます。個々の患者さんの状態や生活状況に合わせた個別的なアプローチが重要です。

軽症・中等症・重症の分類基準

うつ病の重症度は、症状の数や程度、日常生活への影響の大きさによって分類されます。軽症のうつ病では、症状は存在するものの、日常生活や社会生活は何とか維持できている状態です。仕事や家事は通常より努力が必要ですが、継続できています。 中等症では、症状がより顕著になり、日常生活に明らかな支障が出ています。仕事の能率が著しく低下する、家事ができなくなる、対人関係に問題が生じるなどの状態が見られます。休職や休学を検討する必要が出てくる段階です。 重症のうつ病では、日常生活の基本的な活動さえも困難になります。起床や食事、入浴といった基本的な行動が取れなくなることもあります。自殺念慮が強い場合や、精神病症状(妄想や幻覚)を伴う場合も重症に分類されます。入院治療が必要となることもあるでしょう。 重症度の評価は、治療開始後も定期的に行われます。症状の改善や悪化を客観的に把握することで、治療方針の調整が可能になります。患者さん自身の主観的な評価と、医師による客観的な評価の両方が重要です。

個別化された治療計画の立案

重症度の評価に基づいて、患者さん一人ひとりに適した治療計画が立てられます。 治療計画を立てる際には、患者さんの年齢、性別、妊娠の可能性、合併症の有無、過去の治療反応なども考慮されます。仕事や学業の状況、家庭環境、サポート体制なども重要な要素です。患者さん本人の希望や価値観も尊重されます。 治療の目標は、症状の軽減だけでなく、社会機能の回復、再発予防も含まれます。短期的な目標と長期的な目標を設定し、段階的に治療を進めていくことが一般的です。定期的な評価を行いながら、必要に応じて治療計画を修正していきます。 治療には時間がかかることが多く、効果が現れるまでに数週間から数ヶ月を要することもあります。焦らず、医師と協力しながら治療を継続することが回復への道となるでしょう。

うつ病の主な治療法と選択肢

うつ病の治療には、薬物療法、心理療法、そのほかの治療法など、複数の選択肢があります。多くの場合、これらを組み合わせることで効果的な治療が可能になります。ここでは、代表的な治療法について解説します。

抗うつ薬による薬物療法の実際

薬物療法では、主に抗うつ薬が使用されます。現在、一般的に使用されるのはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)とSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)です。これらの薬は脳内の神経伝達物質のバランスを調整し、抑うつ症状を改善することが期待されます。 抗うつ薬の効果が現れるまでには、通常2週間から4週間程度かかります。すぐに効果が出ないからといって、自己判断で服用を中止することは避けるべきです。十分な効果を得るためには、医師の指示通りに継続して服用することが重要です。 副作用として、吐き気、眠気、口の渇き、便秘などが現れることがあります。多くの副作用は服用開始後の数週間で軽減していくことが報告されています。副作用が強い場合や持続する場合は、医師に相談することで薬の変更や用量調整が行われます。 薬物療法は、症状が改善した後も一定期間継続することが推奨されます。再発予防のため、症状が消失してからも6ヶ月〜1年程度は服用を続けることが一般的です。服用の中止も、医師の指導のもとで徐々に減量していく必要があります。急な中止は離脱症状を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。

認知行動療法などの心理療法

心理療法は、対話を通じて心の問題に取り組む治療法です。うつ病に対して有効性が確認されているのが認知行動療法(CBT)です。認知行動療法では、否定的な思考パターンを特定し、より現実的でバランスの取れた考え方に修正していきます。 具体的には、無意識に浮かぶ否定的な考えや、極端な思考や非現実的な思い込みを修正し、現実的な視点に修正していく治療法です。セッションは通常週1回程度、数ヶ月にわたって行われます。 ほかの心理療法としては、対人関係療法(IPT)も効果が認められています。これは、重要な対人関係の問題に焦点を当て、関係性の改善を通じてうつ症状の軽減を目指すものです。喪失や役割の変化、対人関係の葛藤などが扱われます。 心理療法の効果には個人差があり、すべての方に同じように効果があるわけではありません。また、重症の場合や急性期には、まず薬物療法で症状を安定させてから心理療法を開始することもあります。治療者との相性も重要な要素であり、信頼関係を築けることが治療効果に影響します。

まとめ

うつ病は適切な治療により回復可能な疾患です。初期症状に気づいたら早めに専門医を受診し、診断を受けることが大切です。重症化した場合でも、諦めずに治療を続けることで、多くの方が元の生活を取り戻しています。症状が気になる場合は、ためらわずに精神科や心療内科を受診することをおすすめします。

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