「糖尿病」を発症するとどんな「運動療法」が推奨されるかご存知ですか?【医師監修】

糖尿病治療における運動療法は、薬に頼りすぎない健康管理の要です。血糖コントロールの安定、体重の維持、動脈硬化の予防など、多面的な効果が得られます。安全に行うためには、運動の種類・時間・強度を正しく理解することが重要です。実践しやすい運動法と注意点を紹介します。

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
糖尿病患者さんにおける運動療法の実際
糖尿病の治療において、運動療法は食事療法、薬物療法とともに三本柱の一つとされています。適切な運動習慣の確立は、血糖コントロールだけでなく、体重管理や心血管リスクの低減にも直結します。
推奨される運動の種類と頻度
糖尿病患者さんに推奨される運動は、有酸素運動と筋力トレーニングの組み合わせです。有酸素運動は、週150分以上を目標とし、1回あたり30分以上、週5日程度実施することが理想的です。運動強度は、中強度(最大心拍数の50〜70%程度)が基本となり、日常生活では速歩きやサイクリングが該当します。
筋力トレーニングは、週2〜3回、主要な筋群を対象に実施します。スクワット、腕立て伏せ、ダンベル運動などが効果的であり、筋肉量の維持と基礎代謝の向上を図ります。運動の実施タイミングは、食後1〜2時間が推奨されます。この時間帯は血糖値が高くなるため、運動による血糖低下効果が発揮されやすくなります。ただし、個々の血糖値の変動パターンや使用している薬剤によって、運動のタイミングを調整する必要があります。
安全に運動を行うための注意点
糖尿病患者さんが運動を行う際には、低血糖、高血糖、心血管イベント、足のトラブルなどのリスクに注意が必要です。インスリンや血糖降下薬を使用している方は、運動中や運動後に低血糖が起こりやすいため、血糖値のモニタリングと補食の準備が重要です。運動前の血糖値が100mg/dL以下の場合は、補食を摂取してから運動を開始します。
逆に、血糖値が250mg/dL以上で尿中ケトン体が陽性の場合は、運動を避け、医師に相談する必要があります。この状態で運動すると、血糖値がさらに上昇する危険性があります。また、足に潰瘍や感染がある場合、網膜症が進行している場合、心血管疾患の既往がある場合などは、運動内容を制限する必要があります。運動開始前には、医師による総合的な評価を受け、個々の状態に応じた運動プログラムを立てることが推奨されます。
まとめ
運動習慣は、メタボリックシンドローム、糖尿病、高血圧、フレイルといった幅広い健康課題に対して、予防と改善の両面で効果を発揮する可能性があります。適切な運動は、身体の生理機能を向上させ、疾病リスクを低減し、生活の質を高める可能性があります。ただし、効果の現れ方には個人差があり、年齢や健康状態、遺伝的要因によっても異なります。
年齢や健康状態に応じた運動プログラムを、医師や専門家と相談しながら開始し、無理なく継続することが重要です。運動習慣の確立は、健康寿命の延伸と自立した生活の維持につながる、効果的な手段の一つといえます。運動を始める前には、医師による総合的な評価を受け、安全に実施できる運動の種類や強度を確認することが推奨されます。
参考文献