「運動習慣」があると体の何を高めてくれるかご存知ですか?【医師監修】

定期的な運動は、心肺機能や免疫機能の向上だけでなく、精神的な安定にもつながります。体を動かすことで血流が促進され、酸素や栄養が全身に行き渡るほか、ストレスの軽減や睡眠の質の改善効果も期待できます。身体と心の両面から健康を支える運動習慣の力を詳しく見ていきましょう。

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
運動習慣がもたらす全身的な健康効果
運動習慣の確立は、特定の疾患予防にとどまらず、全身の健康状態を底上げする効果があります。心肺機能の向上、免疫力の強化、精神的な安定など、多岐にわたる恩恵が科学的に実証されています。
心肺機能と持久力の向上
定期的な有酸素運動は、心臓の収縮力を高め、1回の拍動で送り出せる血液量(1回拍出量)を増加させます。その結果、安静時の心拍数が低下し、心臓への負担が軽減されます。また、肺の換気効率が向上し、酸素を取り込む能力(最大酸素摂取量)が高まることで、日常動作や階段昇降などが楽に感じられるようになります。
多くの疫学研究で、運動習慣がある方は、同年代の非活動的な方と比較して、心肺持久力が高い傾向にあります。この持久力は、心血管疾患の発症リスクと強く関連しており、持久力が高いほど総死亡率が低いという大規模研究の結果も報告されています。心肺機能の向上は、生活の質(QOL)を高めるだけでなく、将来的な疾病リスクを低減する重要な要素となります。ただし、効果が実感できるまでの期間や程度は個人差が大きく、数週間から数ヶ月の継続が必要とされています。
免疫機能の調整と精神面への影響
適度な運動は、免疫細胞の活性を高め、感染症への抵抗力を向上させることが知られています。一方で、過度な高強度運動は一時的に免疫機能を低下させる可能性があるため、強度と頻度のバランスが重要です。運動習慣がある方は、風邪やインフルエンザなどの上気道感染症の罹患率が低いという報告もあります。
精神面では、運動がストレスホルモン(コルチゾール)の分泌を調整し、幸福感に関わる神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン)の産生を促します。これにより、不安感や抑うつ症状が軽減され、睡眠の質も向上する可能性があります。運動習慣は、薬物療法と並行して、軽度から中等度のうつ病や不安障害の補助的治療としても位置づけられており、精神的な健康を保つうえで欠かせない要素となっています。ただし、運動だけで精神的な問題が解決するわけではなく、必要に応じて専門医への相談が推奨されます。
まとめ
運動習慣は、メタボリックシンドローム、糖尿病、高血圧、フレイルといった幅広い健康課題に対して、予防と改善の両面で効果を発揮する可能性があります。適切な運動は、身体の生理機能を向上させ、疾病リスクを低減し、生活の質を高める可能性があります。ただし、効果の現れ方には個人差があり、年齢や健康状態、遺伝的要因によっても異なります。
年齢や健康状態に応じた運動プログラムを、医師や専門家と相談しながら開始し、無理なく継続することが重要です。運動習慣の確立は、健康寿命の延伸と自立した生活の維持につながる、効果的な手段の一つといえます。運動を始める前には、医師による総合的な評価を受け、安全に実施できる運動の種類や強度を確認することが推奨されます。
参考文献