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「タバコ」が及ぼす急性作用と慢性作用のメカニズムとそのリスクとは? 【医師解説】

 公開日:2025/11/17
タバコが及ぼす急性作用と慢性作用

喫煙による身体への影響は、吸った直後に現れる急性作用と、長年の喫煙により蓄積される慢性作用に分けられます。急性作用では心拍数や血圧の変化など一時的な生理反応が起こり、慢性作用では臓器の機能低下や疾患発症につながります。両者のメカニズムを理解することで、喫煙がもたらすリスクの全体像が見えてきます。

松本 学

監修医師
松本 学(きだ呼吸器・リハビリクリニック)

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兵庫医科大学医学部卒業 。専門は呼吸器外科・内科・呼吸器リハビリテーション科。現在は「きだ呼吸器・リハビリクリニック」院長。日本外科学会専門医。日本医師会認定産業医。

タバコが及ぼす急性作用と慢性作用

タバコの影響は、喫煙直後に現れる急性作用と、長期的な喫煙によって蓄積される慢性作用に大別されます。両者を理解することで、喫煙がもたらすリスクの全体像を把握できます。

喫煙直後に現れる身体反応

喫煙直後には、ニコチンの薬理作用により複数の生理的変化が起こります。まず、心拍数が1分間あたり10〜20拍程度増加し、血圧も収縮期で10〜15mmHg程度上昇します。これは交感神経系の活性化によるもので、身体が軽度のストレス状態に置かれることを意味します。

また、末梢血管の収縮により皮膚温が低下し、手足の冷えを感じることがあります。気管支では一時的な拡張が起こる一方で、繊維毛の運動が抑制され、異物排出機能が低下します。消化器系では胃酸分泌が促進され、空腹時の喫煙では胃粘膜への刺激が強まります。

さらに、ニコチンは代謝を亢進させるため、エネルギー消費量がわずかに増加します。これが喫煙者の体重が比較的低めに維持される一因とされていますが、この効果は健康リスクを相殺するものではありません。こうした急性反応は通常30分から1時間程度で減衰しますが、繰り返される喫煙によって身体は常に変動状態にさらされることになります。

長期喫煙による身体への蓄積的影響

長期的な喫煙は、身体のほぼすべての臓器に影響を及ぼします。特に呼吸器系では、慢性閉塞性肺疾患(COPD)のリスクが著しく高まります。喫煙者がCOPDを発症する確率は非喫煙者の4〜6倍とされ、1日の喫煙本数が多いほど、また喫煙期間が長いほどリスクは増大します。

循環器系では、動脈硬化が進行しやすくなり、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まります。喫煙者の心筋梗塞発症リスクは非喫煙者の約2〜3倍、脳卒中リスクは約1.5〜2倍です。これは血管内皮の損傷、血小板凝集の促進、悪玉コレステロールの酸化など、複数のメカニズムが関与しています。

さらに、がんの発症リスクも顕著に上昇します。肺がんのリスクは喫煙本数と期間に比例し、1日20本を20年間吸い続けた場合(20パックイヤー)、非喫煙者と比べて10〜20倍に達します。また、口腔がん、喉頭がん、食道がん、膀胱がん、膵臓がんなど、多数のがんでリスク増加が確認されています。

まとめ

タバコの影響は身体、精神、社会生活の広範囲に及び、その多くは深刻かつ不可逆的です。しかし、禁煙によって得られる健康改善効果は明確で、禁煙開始から時間経過とともに段階的にリスクが低下します。禁煙が困難に感じられる場合でも、医療機関での専門的なサポートを活用することで成功率は大きく向上します。自身の健康と生活の質の向上のため、禁煙を検討されている方は、呼吸器内科や禁煙外来への相談をおすすめします。

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