前立腺肥大症の治療は症状の程度により選択されます。軽度から中等度の症状に対してはまず薬物療法が検討され、α1遮断薬や5α還元酵素阻害薬が使用されます。これらの薬剤は効果的ですが、めまいや性機能への影響などの副作用が生じる可能性もあります。薬物療法の効果を引き出すためには、水分摂取のタイミング調整など生活習慣の改善も重要です。
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長崎大学医学部医学科 卒業 / 九州大学 泌尿器科 臨床助教を経て現在は医療法人 薬院ひ尿器科医院 勤務 / 専門は泌尿器科
前立腺肥大症の薬物療法と副作用
前立腺肥大症の治療は症状の程度により選択されます。軽度から中等度の症状に対しては、まず薬物療法が検討されます。
主要な薬物療法の種類と効果
α1遮断薬にはタムスロシン、シロドシン、ナフトピジルなどがあります。効果は比較的早期に現れ、服用開始から数日から数週間で症状の軽減が実感されることが多いです。副作用としては、血圧低下によるめまいやふらつき、鼻閉、精子を出すことへの障害などが報告されています。特に起立時のめまいは高齢者で注意が必要であり、服薬開始時は慎重に経過を観察します。
5α還元酵素阻害薬は前立腺を縮小させる効果があります。デュタステリドとフィナステリドが代表的な薬剤で、ジヒドロテストステロンの産生を抑制することで前立腺組織を縮小させます。効果が現れるまでに3ヶ月から6ヶ月程度を要しますが、長期的な症状改善と前立腺サイズの縮小が期待できます。
5α還元酵素阻害薬の副作用としては、性欲減退、男性機能の低下、精子を出すことへの障害、女性化乳房などが報告されています。これらの副作用の発現頻度は数%から10%程度とされていますが、個人差があります。多くの場合、服薬を中止することで改善しますが、一部の方では症状が持続することもあります。
両薬剤を併用する場合もあります。α1遮断薬と5α還元酵素阻害薬の併用療法は、中等度から重度の症状を持ち、前立腺が比較的大きい方に対して有効性が示されています。併用により単剤よりも症状改善効果が高まり、疾患進行のリスクも低減されることが臨床試験で確認されています。
生活習慣の改善と併用療法
抗コリン薬やβ3作動薬は、過活動膀胱の症状を併発している場合に追加されることがあります。これらは膀胱の過敏性を抑制し、頻尿や尿意切迫感を改善します。ただし、抗コリン薬は残尿を増加させる可能性があるため、残尿量が多い方には慎重に使用されます。定期的な残尿測定により安全性を確認しながら治療が継続されます。
薬物療法の効果を引き出すためには、生活習慣の改善も重要です。水分摂取のタイミングを調整し、就寝前2時間から3時間は水分摂取を控えることで夜間頻尿を軽減できます。ただし、日中の適切な水分摂取は尿路感染の予防に必要であり、極端な水分制限は避けるべきです。
カフェインやアルコールなどの膀胱刺激物質を控えることも症状改善に役立ちます。これらは利尿作用と膀胱刺激作用を持ち、頻尿や尿意切迫感を悪化させる可能性があります。特に夕方以降のカフェイン摂取は夜間頻尿の原因となりやすいため、注意が必要です。
骨盤底筋体操も補助的な治療法として推奨されています。骨盤底筋を強化することで、尿道括約筋の機能が向上し、排尿コントロールが改善される可能性があります。体操の方法は医療機関で指導を受けることができ、継続的な実施により効果が期待されます。
まとめ
前立腺肥大症は加齢に伴い多くの男性が経験する疾患ですが、適切な知識と早期の対処により、生活の質を維持することが可能です。排尿症状や性機能への影響は、個人の生活に深刻な影響を及ぼす可能性がありますが、現代医療では薬物療法から低侵襲手術まで多様な選択肢が用意されています。症状に気づいた段階で泌尿器科を受診し、専門医と相談しながら適切な治療方針を立てることをおすすめします。定期的な検診により早期発見・早期治療につなげることが、健康な生活を維持する鍵となります。