前立腺肥大症の診断は、問診、身体診察、各種検査を組み合わせて行われます。直腸診や血液検査、経腹的超音波検査により前立腺の状態を評価し、尿流測定検査で排尿の勢いやパターンを客観的に測定します。前立腺がんや過活動膀胱など類似した症状を示す疾患との鑑別も重要で、正確な診断により適切な治療方針が決定されます。
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長崎大学医学部医学科 卒業 / 九州大学 泌尿器科 臨床助教を経て現在は医療法人 薬院ひ尿器科医院 勤務 / 専門は泌尿器科
前立腺肥大症の診断プロセスと検査
前立腺肥大症の診断は、問診、身体診察、各種検査を組み合わせて行われます。
基本的な検査と評価方法
直腸診は前立腺の大きさ、硬さ、表面の状態を評価する基本的な検査です。医師が直腸から指を挿入し、前立腺を触診することで、前立腺肥大の有無や、がんを疑わせる硬い部分がないかを確認します。この検査により得られる情報は、その後の治療方針の決定に重要な役割を果たします。
血液検査では前立腺特異抗原という指標を測定します。これは前立腺から産生されるタンパク質で、前立腺肥大症や前立腺がんで上昇します。前立腺特異抗原が上昇している場合は、前立腺がんの可能性を考慮し、追加の精密検査が必要となることがあります。基準値は一般的に4.0ng/ml以下とされていますが、年齢により判断基準は調整されます。
経腹的超音波検査は、前立腺のサイズを正確に測定するために用いられます。下腹部から超音波を当てることで、前立腺の体積を計算し、肥大の程度を評価します。正常な前立腺の体積は20ml程度ですが、前立腺肥大症では30ml以上に増大することが一般的です。同時に残尿量も測定され、膀胱機能の評価に役立ちます。
尿流測定検査は、排尿の勢いや排尿パターンを客観的に評価する検査です。専用の機器で排尿し、1秒あたりの最大尿流量や平均尿流量、排尿時間などを測定します。
一般的に、青壮年期の健常な男性では最大尿流量が15ml/秒以上で、前立腺肥大症では10ml/秒以下に低下するケースが多く見られます。しかし、加齢に伴う尿道や膀胱の機能の変化によって50歳以降では最大尿流量がやや低下する傾向があるため、年齢を考慮して総合的に評価することが大切です。
精密検査と他疾患との鑑別
膀胱鏡検査は、内視鏡を尿道から挿入し、尿道や膀胱内部を直接観察する検査です。前立腺による尿道の圧迫の程度、膀胱内の状態、膀胱結石の有無などを確認できます。特に手術を検討する場合や、他の疾患との鑑別が必要な場合に実施されます。現在は細径の軟性内視鏡が使用されることが多く、検査に伴う不快感は軽減されています。
前立腺肥大症と類似した症状を示す疾患は多数あり、正確な鑑別診断が重要です。前立腺がんは前立腺特異抗原の測定や直腸診で疑われた場合、前立腺生検により確定診断されます。前立腺がんは初期には症状がないことが多いですが、進行すると排尿障害を引き起こすため、注意深い評価が必要です。
過活動膀胱は頻尿や尿意切迫感を主症状とし、前立腺肥大症と重複することがあります。過活動膀胱では膀胱の過敏性が主な原因であり、抗コリン薬やβ3作動薬による治療が有効です。問診や尿流測定の結果から、前立腺肥大症との併存や鑑別が判断されます。
神経因性膀胱は糖尿病や脊髄疾患により膀胱の神経支配が障害される状態で、排尿障害を引き起こします。糖尿病の既往歴や神経学的症状の有無が鑑別の手がかりとなります。また、尿路感染症や膀胱結石も類似した症状を示すため、尿検査や画像検査により総合的に判断されます。
まとめ
前立腺肥大症は加齢に伴い多くの男性が経験する疾患ですが、適切な知識と早期の対処により、生活の質を維持することが可能です。排尿症状や性機能への影響は、個人の生活に深刻な影響を及ぼす可能性がありますが、現代医療では薬物療法から低侵襲手術まで多様な選択肢が用意されています。症状に気づいた段階で泌尿器科を受診し、専門医と相談しながら適切な治療方針を立てることをおすすめします。定期的な検診により早期発見・早期治療につなげることが、健康な生活を維持する鍵となります。