手術後の経過は術式により異なりますが、一般的には数日間の尿道カテーテル留置が必要です。手術直後から数週間は尿に血液が混じることがあり、精子が膀胱内に逆流する現象が高い確率で発生します。排尿機能の完全な回復には数週間から数ヶ月を要することがありますが、長期的な症状改善効果は高く、定期的なフォローアップにより適切な管理が可能です。
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長崎大学医学部医学科 卒業 / 九州大学 泌尿器科 臨床助教を経て現在は医療法人 薬院ひ尿器科医院 勤務 / 専門は泌尿器科
手術後の経過と合併症への対応
手術後の経過は術式により異なりますが、一般的には数日間の尿道カテーテル留置が必要です。
手術に伴う主な合併症と対処
手術直後から数週間は、尿に血液が混じることがあります。これは手術部位の治癒過程で生じる正常な反応ですが、大量の出血や血の塊が多数混じる場合は医師に連絡する必要があります。水分を十分に摂取し、安静を保つことで徐々に改善します。
経尿道的前立腺切除術で最も一般的な合併症は、精子が膀胱内に逆流する現象です。手術により膀胱頸部の機能が変化し、精子を出すときに精子が膀胱内へ流れ込むようになります。発生頻度は約60%から80%と高く、妊娠を希望する場合は事前に十分な説明と対応策の検討が必要です。
尿失禁は通常一時的なものですが、数%の方で持続することがあります。特に腹圧をかけた時に尿が漏れる腹圧性尿失禁が生じやすく、骨盤底筋体操により改善が期待されます。重度の場合は追加治療が必要となることもありますが、多くは数ヶ月以内に改善します。
男性機能への影響は、経尿道的手術では比較的少ないとされていますが、完全に回避できるわけではありません。神経や血管への影響、心理的要因などが複合的に作用します。術前に男性機能の低下があった場合、手術により改善することは少なく、むしろ維持または軽度悪化する可能性があることを理解しておく必要があります。
長期的な予後と生活管理
排尿機能の完全な回復には数週間から数ヶ月を要することがあります。手術により前立腺組織が除去されても、膀胱機能の回復には時間がかかります。徐々に排尿回数が減少し、尿の勢いが安定してきます。焦らず段階的な回復を待つことが重要です。
手術による症状改善効果は長期的に維持されることが多いですが、前立腺組織は再び増殖する可能性があります。経尿道的前立腺切除術後の再手術率は、10年間で約5%から10%程度とされています。ただし、これは初回手術の切除範囲や前立腺の残存組織量により異なります。
定期的なフォローアップにより、症状の再燃や合併症の早期発見が可能となります。通常は術後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、その後は年1回程度の受診が推奨されます。前立腺特異抗原の測定、残尿測定、症状スコアの評価などにより、治療効果の持続性が確認されます。
手術後も生活習慣の管理は重要です。適切な体重維持、定期的な運動、バランスの取れた食事により、前立腺の健康を維持し、症状の再発リスクを低減できます。また、他の疾患による排尿障害の可能性もあるため、新たな症状が出現した場合は速やかに医師に相談することが勧められます。
まとめ
前立腺肥大症は加齢に伴い多くの男性が経験する疾患ですが、適切な知識と早期の対処により、生活の質を維持することが可能です。排尿症状や性機能への影響は、個人の生活に深刻な影響を及ぼす可能性がありますが、現代医療では薬物療法から低侵襲手術まで多様な選択肢が用意されています。症状に気づいた段階で泌尿器科を受診し、専門医と相談しながら適切な治療方針を立てることをおすすめします。定期的な検診により早期発見・早期治療につなげることが、健康な生活を維持する鍵となります。