前立腺肥大症は性機能に複雑な影響を与えることが知られています。性行為そのものが症状を悪化させることは少なく、むしろ適度な性生活が前立腺の健康維持に役立つ可能性も指摘されています。一方で治療による性機能への影響も考慮する必要があり、パートナーとのコミュニケーションを大切にしながら無理のない範囲で性生活を維持することが望ましいでしょう。
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長崎大学医学部医学科 卒業 / 九州大学 泌尿器科 臨床助教を経て現在は医療法人 薬院ひ尿器科医院 勤務 / 専門は泌尿器科
前立腺肥大症が性機能に与える影響
前立腺肥大症は性機能に複雑な影響を与えることが知られています。
性行為と前立腺肥大症の直接的な関係
性行為そのものが前立腺肥大症を悪化させる直接的な原因にはなりません。むしろ適度な性生活は前立腺の健康維持に役立つ可能性があるという報告もあります。前立腺液の定期的な排出は前立腺内の停滞を防ぎ、炎症のリスクを軽減する可能性が指摘されているのです。
性機能に関する症状としては、精子量の減少や痛み、男性機能の低下などが挙げられます。これらは前立腺肥大症そのものによる場合もあれば、併存する疾患や心理的要因が関与していることもあります。
性行為の頻度と前立腺肥大症の進行には、明確な因果関係は確認されていません。一部の研究では、定期的に精子を出すことが前立腺がんのリスクを低減する可能性が示唆されていますが、前立腺肥大症については同様の結論は得られていないのが現状です。
前立腺液は定期的に排出されることで、前立腺内環境の健全性が保たれるとされています。むしろ、排尿障害や性機能障害による精神的ストレスの方が、生活の質に大きな影響を及ぼします。パートナーとのコミュニケーションを大切にしながら、無理のない範囲で性生活を維持することが望ましいでしょう。
治療が性機能に及ぼす影響と対策
前立腺肥大症の治療は、性機能にさまざまな影響を与える可能性があります。薬物療法で使用されるα1遮断薬は、精子を出すことへの障害を引き起こすことがあります。特に精子が膀胱内に逆流する現象が知られており、これにより精子を出す感覚が減少したり、精子が出なくなったりすることがあります。
5α還元酵素阻害薬は、男性ホルモンであるジヒドロテストステロンの産生を抑制することで前立腺を縮小させますが、一部の方では性欲減退や男性機能の低下が報告されています。これらの副作用は服薬を中止することで改善することが多いですが、継続的な症状がある場合は医師に相談することが大切です。
手術療法においても、性機能への影響は考慮すべき点です。経尿道的前立腺切除術では、精子の逆流が高い確率で発生します。一方、男性機能については多くの場合保たれますが、手術の範囲や個人差により影響の程度は異なります。治療を選択する際には、これらのリスクと症状改善の効果を総合的に判断する必要があります。
まとめ
前立腺肥大症は加齢に伴い多くの男性が経験する疾患ですが、適切な知識と早期の対処により、生活の質を維持することが可能です。排尿症状や性機能への影響は、個人の生活に深刻な影響を及ぼす可能性がありますが、現代医療では薬物療法から低侵襲手術まで多様な選択肢が用意されています。症状に気づいた段階で泌尿器科を受診し、専門医と相談しながら適切な治療方針を立てることをおすすめします。定期的な検診により早期発見・早期治療につなげることが、健康な生活を維持する鍵となります。