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「大動脈解離の死亡率」が時間とともに急上昇する理由をご存じですか?【医師監修】

 公開日:2025/11/23

大動脈解離の予後は、解離のタイプや発症からの経過時間、合併症の有無など、複数の要因によって大きく変わります。時間との勝負となるこの病態では、早期発見と迅速な専門的治療が生存率を大きく向上させます。また、基礎疾患や年齢といった患者さんの背景因子も、治療成績に影響を与える重要な要素です。ここでは、予後を左右する主要な因子について説明します。

井筒 琢磨

監修医師
井筒 琢磨(医師)

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江戸川病院所属。専門領域分類は内科(糖尿病内科、腎臓内科)
2014年 宮城県仙台市立病院 医局
2016年 宮城県仙台市立病院 循環器内科
2019年 社会福祉法人仁生社江戸川病院 糖尿病・代謝・腎臓内科
所属学会:日本内科学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本不整脈心電図学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心エコー学会

大動脈解離の致死率と予後を左右する因子

大動脈解離の予後は、解離のタイプ、発症からの時間、合併症の有無、治療の迅速さなど、さまざまな因子によって大きく左右されます。

発症後の時間経過と死亡率の関係

大動脈解離、特にA型解離は時間との勝負です。治療を受けない場合、A型大動脈解離では発症後48時間で約半数が死亡するとされます。一方、適切な治療を受けた場合の院内死亡率は10〜20%程度に低下しています。

一方、B型解離は初期段階ではA型に比べて比較的安定していることが多く、適切な降圧管理などの内科的治療で経過観察が可能な場合もあります。ただし、解離が進行して臓器虚血や破裂の危険が高まった場合には、緊急の外科的介入が必要となります。いずれのタイプでも、早期発見と専門施設での迅速な対応が、生存率を大きく向上させる鍵となります。

合併症の有無が予後に与える影響

大動脈解離の予後は、合併症の有無によって大きく異なります。心タンポナーデ、大動脈弁閉鎖不全症、冠動脈閉塞、脳梗塞、腸管壊死といった重篤な合併症を伴う場合、死亡率は著しく上昇します。特に心タンポナーデは緊急ドレナージが必要であり、処置が遅れると救命が困難になります。

また、高齢者や基礎疾患を持つ方、腎機能障害のある方では、手術のリスクが高くなり、術後の回復も遅れる傾向があります。一方、若年で合併症のない場合、適切なタイミングで手術や血管内治療が行われれば、良好な予後が期待できます。治療後の長期予後も、残存する大動脈病変の管理や血圧コントロールの質によって大きく左右されます。

まとめ

大動脈解離は、突然発症し致命的な経過をたどる可能性のある緊急性の高い血管疾患です。激烈な胸背部痛という特徴的な症状を理解し、前兆のサインを見逃さないこと、高血圧や動脈硬化といった原因因子を適切に管理すること、そして急死のリスクと再発の可能性を認識したうえで治療後も継続的に経過を観察することが、生命予後を改善するために極めて重要です。

本記事で解説したように、大動脈解離は発症後の時間経過が予後を大きく左右するため、突然の激しい痛みが生じた際には直ちに救急車を要請することが必要です。また、リスク因子をお持ちの方は、定期的な循環器内科の受診と、日常的な血圧管理を心がけてください。治療後も長期にわたる厳格な血圧コントロールと定期的な画像検査による監視が、再発予防のために不可欠です。

この病態についての正確な知識を持つことで、ご自身やご家族の健康を守る一助となれば幸いです。気になる症状がある場合や、リスク因子について不安がある場合には、専門の医師にご相談されることをお勧めします。

この記事の監修医師

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