「大動脈解離のリスクが高い人」の特徴をご存じですか? 生活習慣で分かる危険サインを医師に聞く

特定の遺伝性疾患や日常の生活習慣は、大動脈解離の発症リスクを大きく高める要因となります。先天的な血管壁の脆弱性を持つ方や、血管に負担をかける行動パターンを持つ方は、特に注意が必要です。こうした危険因子を正しく認識し、適切に管理することが予防の第一歩となります。ここでは、大動脈解離と関連する疾患や生活習慣について説明します。

監修医師:
井筒 琢磨(医師)
2014年 宮城県仙台市立病院 医局
2016年 宮城県仙台市立病院 循環器内科
2019年 社会福祉法人仁生社江戸川病院 糖尿病・代謝・腎臓内科
所属学会:日本内科学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本不整脈心電図学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心エコー学会
大動脈解離を引き起こす疾患と生活習慣
特定の遺伝性疾患や生活習慣も、大動脈解離と深く関連しています。これらの要因を理解し、適切に対処することが予防につながります。
マルファン症候群などの遺伝性結合組織疾患
マルファン症候群は、結合組織を構成するフィブリリンという蛋白質の遺伝子異常によって起こる疾患です。この疾患では、大動脈壁の構造が生まれつき脆弱であり、若年でも大動脈解離や大動脈瘤を発症するリスクが高くなります。マルファン症候群の患者さんでは、定期的な画像検査による大動脈径の監視と、予防的な手術の検討が重要です。
同様に、エーラス・ダンロス症候群やロイス・ディーツ症候群といった遺伝性結合組織疾患も、大動脈解離のリスクを高めます。これらの疾患では、コラーゲンや弾性線維の異常により血管壁の強度が低下しています。家族歴にこうした疾患や若年での大動脈疾患がある場合には、遺伝カウンセリングや専門の医師による評価を受けることが推奨されます。
喫煙、ストレス、急激な血圧上昇を伴う行動
喫煙は動脈硬化を促進し、血管壁の弾力性を低下させるとともに、血圧を上昇させる作用があります。喫煙者は非喫煙者に比べて大動脈解離のリスクが高いことが知られており、禁煙は予防の基本となります。また、慢性的なストレスも血圧上昇や交感神経の活性化を通じて、大動脈壁への負荷を増大させます。
急激な血圧上昇を引き起こす行動も危険因子です。重量物の持ち上げ、激しい運動、怒りや興奮といった感情の高ぶり、排便時の強いいきみなどは、一時的に血圧を大きく上昇させます。こうした瞬間的な圧力の急上昇が、脆弱化した大動脈壁に亀裂を生じさせる引き金となる可能性があります。リスクの高い方は、こうした行動を避け、日常生活での血圧変動を少なくする工夫が求められます。
まとめ
大動脈解離は、突然発症し致命的な経過をたどる可能性のある緊急性の高い血管疾患です。激烈な胸背部痛という特徴的な症状を理解し、前兆のサインを見逃さないこと、高血圧や動脈硬化といった原因因子を適切に管理すること、そして急死のリスクと再発の可能性を認識したうえで治療後も継続的に経過を観察することが、生命予後を改善するために極めて重要です。
本記事で解説したように、大動脈解離は発症後の時間経過が予後を大きく左右するため、突然の激しい痛みが生じた際には直ちに救急車を要請することが必要です。また、リスク因子をお持ちの方は、定期的な循環器内科の受診と、日常的な血圧管理を心がけてください。治療後も長期にわたる厳格な血圧コントロールと定期的な画像検査による監視が、再発予防のために不可欠です。
この病態についての正確な知識を持つことで、ご自身やご家族の健康を守る一助となれば幸いです。気になる症状がある場合や、リスク因子について不安がある場合には、専門の医師にご相談されることをお勧めします。
参考文献