「大動脈解離」のリスクが急上昇する理由とは 高血圧と加齢が危険なワケを医師に聞く

大動脈解離は、血管壁が脆弱化した状態に物理的なストレスが加わることで発症します。この病態の背景にある複数の要因を理解することは、予防と早期介入において重要な意味を持ちます。高血圧や動脈硬化といった生活習慣に関連する要因が、長い時間をかけて大動脈壁にダメージを蓄積させていきます。ここでは、大動脈解離を引き起こす主要な原因について詳しく解説します。

監修医師:
井筒 琢磨(医師)
2014年 宮城県仙台市立病院 医局
2016年 宮城県仙台市立病院 循環器内科
2019年 社会福祉法人仁生社江戸川病院 糖尿病・代謝・腎臓内科
所属学会:日本内科学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本不整脈心電図学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心エコー学会
大動脈解離の原因―血管壁の脆弱化と物理的負荷
大動脈解離は、大動脈壁の脆弱化と、そこに加わる物理的ストレスが組み合わさることで発症します。原因を理解することは、予防と早期発見の手がかりとなります。
高血圧が大動脈壁に与える持続的なダメージ
大動脈解離の重要な原因の一つは高血圧です。高血圧状態が長期間続くと、大動脈壁には持続的に高い圧力がかかり続けます。この慢性的な負荷によって、大動脈壁を構成する中膜と呼ばれる層が徐々に変性し、弾性線維や平滑筋細胞が損傷を受けます。この過程は「嚢胞性中膜壊死」と呼ばれ、大動脈壁の強度と弾力性を低下させます。
血圧が高い状態では、心臓の拍動ごとに大動脈壁に繰り返し強い衝撃が加わります。特に収縮期血圧が高いほど、大動脈壁にかかる機械的ストレスは大きくなります。この反復する負荷が蓄積すると、大動脈内膜に亀裂が生じ、高圧の血流が中膜内に侵入して解離が進行します。高血圧の管理が不十分な方、特に血圧の変動が大きい方では、解離のリスクがさらに高まります。
動脈硬化と加齢による血管壁の変化
動脈硬化は、血管壁に脂質やカルシウムが沈着し、血管の弾力性が失われて硬くなる変化です。この状態では、血管壁が正常な拍動に伴う伸縮に適切に対応できなくなり、壁構造にかかるストレスが増大します。特に、粥状動脈硬化によって内膜が肥厚し潰瘍化すると、その部分が解離の起点となることがあります。
加齢も大動脈解離の重要な危険因子です。年齢とともに大動脈壁の弾性線維は減少し、コラーゲン線維が増加します。これにより血管壁は硬くなり、衝撃を吸収する能力が低下します。60歳以上では解離の発症頻度が高くなり、特に70歳代から80歳代にかけて発症のピークが見られます。高齢者では複数のリスク因子が重なることが多く、より注意深い管理が必要です。
まとめ
大動脈解離は、突然発症し致命的な経過をたどる可能性のある緊急性の高い血管疾患です。激烈な胸背部痛という特徴的な症状を理解し、前兆のサインを見逃さないこと、高血圧や動脈硬化といった原因因子を適切に管理すること、そして急死のリスクと再発の可能性を認識したうえで治療後も継続的に経過を観察することが、生命予後を改善するために極めて重要です。
本記事で解説したように、大動脈解離は発症後の時間経過が予後を大きく左右するため、突然の激しい痛みが生じた際には直ちに救急車を要請することが必要です。また、リスク因子をお持ちの方は、定期的な循環器内科の受診と、日常的な血圧管理を心がけてください。治療後も長期にわたる厳格な血圧コントロールと定期的な画像検査による監視が、再発予防のために不可欠です。
この病態についての正確な知識を持つことで、ご自身やご家族の健康を守る一助となれば幸いです。気になる症状がある場合や、リスク因子について不安がある場合には、専門の医師にご相談されることをお勧めします。
参考文献