「大動脈解離の前兆」を医師に聞く 40〜50代が見逃しやすい危険サインとは

大動脈解離の前兆となる症状は多様であり、見極めには注意深い観察が必要です。特にリスクの高い方は、日常的な身体の変化に敏感になることが求められます。どのような症状が現れたときに医療機関を受診すべきか、その判断基準を理解しておくことで、早期発見と迅速な治療につなげることができます。ここでは、前兆を見極める具体的なポイントを説明します。

監修医師:
井筒 琢磨(医師)
2014年 宮城県仙台市立病院 医局
2016年 宮城県仙台市立病院 循環器内科
2019年 社会福祉法人仁生社江戸川病院 糖尿病・代謝・腎臓内科
所属学会:日本内科学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本不整脈心電図学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心エコー学会
大動脈解離の前兆を見極めるポイント
大動脈解離の前兆を正確に見極めるためには、リスク因子を持つ方が注意すべき身体のサインや、医療機関を受診すべきタイミングを理解しておく必要があります。
リスクの高い方が注意すべき身体の変化
高血圧、動脈硬化、マルファン症候群などの結合組織疾患を持つ方は、大動脈解離のリスクが高いため、日常的に身体の変化に注意を払う必要があります。普段と異なる胸部や背部の違和感、説明のつかない痛みや不快感が続く場合には、軽視せず医療機関への相談を検討すべきです。
また、激しい運動や重い物を持ち上げるといった身体的負荷の後に、胸部や背部に違和感が残る場合も注意が必要です。こうした行為は血圧を急激に上昇させ、大動脈壁に強いストレスをかけるため、脆弱化した大動脈壁に亀裂を生じさせる引き金となる可能性があります。さらに、家族歴として大動脈解離や大動脈瘤の既往がある方は、遺伝的な血管壁の脆弱性を持つ可能性が高く、より慎重な経過観察が求められます。
受診を急ぐべき症状と判断基準
前兆と思われる症状が現れた場合、どのタイミングで医療機関を受診すべきか判断に迷うことがあります。基本的には、突然の激しい胸痛や背部痛、説明のつかない強い痛みが出現した場合には、直ちに救急車を要請すべきです。大動脈解離は時間との勝負であり、数時間の遅れが生命予後を大きく左右します。
一方、軽度の違和感や鈍痛が数日続く場合でも、リスク因子を持つ方は循環器内科への受診を検討すべきです。特に、血圧の急激な変動、左右の血圧差、脈拍の不整、めまいや失神といった症状が伴う場合には、早急な検査が必要です。胸部CT検査や経食道心エコー検査などの画像診断によって、大動脈の状態を正確に評価することができます。
まとめ
大動脈解離は、突然発症し致命的な経過をたどる可能性のある緊急性の高い血管疾患です。激烈な胸背部痛という特徴的な症状を理解し、前兆のサインを見逃さないこと、高血圧や動脈硬化といった原因因子を適切に管理すること、そして急死のリスクと再発の可能性を認識したうえで治療後も継続的に経過を観察することが、生命予後を改善するために極めて重要です。
本記事で解説したように、大動脈解離は発症後の時間経過が予後を大きく左右するため、突然の激しい痛みが生じた際には直ちに救急車を要請することが必要です。また、リスク因子をお持ちの方は、定期的な循環器内科の受診と、日常的な血圧管理を心がけてください。治療後も長期にわたる厳格な血圧コントロールと定期的な画像検査による監視が、再発予防のために不可欠です。
この病態についての正確な知識を持つことで、ご自身やご家族の健康を守る一助となれば幸いです。気になる症状がある場合や、リスク因子について不安がある場合には、専門の医師にご相談されることをお勧めします。
参考文献