「大動脈解離の典型症状」を医師が解説 胸痛タイプと背部痛タイプの違い

大動脈解離は発生部位によって異なる臨床像を示し、それぞれに特徴的な症状パターンがあります。解離のタイプによって治療方針も大きく異なるため、症状の違いを理解することは適切な対応につながります。また、さまざまな合併症が引き起こす多彩な症状を知ることで、病態の進行を早期に察知できます。ここでは、解離のタイプ別の症状と合併症について説明します。

監修医師:
井筒 琢磨(医師)
2014年 宮城県仙台市立病院 医局
2016年 宮城県仙台市立病院 循環器内科
2019年 社会福祉法人仁生社江戸川病院 糖尿病・代謝・腎臓内科
所属学会:日本内科学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本不整脈心電図学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本心エコー学会
大動脈解離の典型的な症状パターン
解離が発生した部位や進展の範囲によって、大動脈解離の症状は多様な様相を呈します。解離のタイプ別に症状の特徴を理解することで、より正確な病態把握が可能になります。
スタンフォードA型とB型の症状の違い
大動脈解離は、解離が心臓に近い上行大動脈に及ぶか否かで、スタンフォードA型とB型に分類されます。A型は上行大動脈に解離が及ぶタイプで、胸部の前面や頸部に痛みを感じることが多く、心タンポナーデや大動脈弁閉鎖不全症といった致命的な合併症を起こしやすい特徴があります。緊急手術が必要となる場合がほとんどです。
一方、B型は上行大動脈には解離が及ばず、下行大動脈から始まるタイプです。背中や腰部の痛みが主体となり、A型に比べると初期段階では比較的安定していることが多く、まずは降圧療法などの内科的治療が選択されます。ただし、解離が進行して臓器虚血や破裂の危険が高まった場合には、外科的治療や血管内治療が必要になります。
合併症による多彩な症状
大動脈解離は、さまざまな合併症を引き起こし、それに伴って多様な症状が現れます。心タンポナーデは、解離が心臓を包む心膜腔内に破裂することで起こり、急激な血圧低下やショック状態を呈します。大動脈弁閉鎖不全症が生じると、心不全の症状として息切れや呼吸困難が出現します。
臓器虚血の症状も重要です。腸管虚血では激しい腹痛と下痢や血便が、腎虚血では乏尿や無尿が、四肢虚血では激しい痛みと冷感が認められます。これらの症状は解離の進展や分枝血管の閉塞によって生じるため、時間とともに新たな症状が追加されていくことがあります。また、まれに声がかすれる嗄声が生じることがありますが、これは解離によって神経が圧迫されるために起こります。
まとめ
大動脈解離は、突然発症し致命的な経過をたどる可能性のある緊急性の高い血管疾患です。激烈な胸背部痛という特徴的な症状を理解し、前兆のサインを見逃さないこと、高血圧や動脈硬化といった原因因子を適切に管理すること、そして急死のリスクと再発の可能性を認識したうえで治療後も継続的に経過を観察することが、生命予後を改善するために極めて重要です。
本記事で解説したように、大動脈解離は発症後の時間経過が予後を大きく左右するため、突然の激しい痛みが生じた際には直ちに救急車を要請することが必要です。また、リスク因子をお持ちの方は、定期的な循環器内科の受診と、日常的な血圧管理を心がけてください。治療後も長期にわたる厳格な血圧コントロールと定期的な画像検査による監視が、再発予防のために不可欠です。
この病態についての正確な知識を持つことで、ご自身やご家族の健康を守る一助となれば幸いです。気になる症状がある場合や、リスク因子について不安がある場合には、専門の医師にご相談されることをお勧めします。
参考文献