オーバードーズは身体だけでなく、精神面にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。気分障害や不安症状の悪化、自己評価の低下、対人関係の障害など、心理的な問題が複雑に絡み合います。ここでは、オーバードーズによって生じる精神的・心理的な変化について詳しく見ていきます。
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福井大学医学部卒業。血清蛋白質と精神疾患の関係について研究をおこなう。日本精神科学会専門医。
オーバードーズが引き起こす精神的・心理的影響
オーバードーズは身体だけでなく、精神面にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。ここでは、精神的・心理的な変化について見ていきます。
気分障害と不安症状の悪化
オーバードーズを行う方の多くは、もともと何らかの精神的な問題を抱えていることが少なくありません。うつ状態や不安症状を和らげようとして薬物を過量摂取するケースがありますが、実際には症状を悪化させる悪循環に陥る場合があります。薬物の作用が切れると、反動として抑うつ感や不安感が増強し、さらに薬物に頼るという負のスパイラルが形成されることがあります。
特に睡眠薬や抗不安薬の乱用は、長期的には不安障害やパニック障害の症状を増悪させることが知られています。これらの薬物は一時的に不安を軽減しますが、身体が薬物に適応すると、同じ効果を得るためにより多くの量が必要になる場合があります。また、薬物が体内から排出される際には離脱症状として強い不安や焦燥感が現れ、患者さんを苦しめることがあります。
うつ病を患っている方がオーバードーズを繰り返すと、治療効果が得られにくくなることもあります。薬物乱用によって脳内の神経伝達物質のバランスが乱れ、抗うつ薬などの正規の治療薬が効きにくくなる可能性があります。また、オーバードーズ行為そのものが自傷行為の一形態であり、自殺念慮の表れであることも少なくありません。このような場合は、速やかに精神科や心療内科などの専門医療機関を受診し、適切な治療と支援を受けることが重要です。
自己評価の低下と社会機能の障害
オーバードーズを繰り返すことで、自己評価や自尊心が低下していくことがあります。薬物に依存している自分を責め、罪悪感や無力感を抱くようになります。しかし、やめたいと思っても自分の意志だけではコントロールできず、さらに自己評価が下がるという悪循環が生じる場合があります。
対人関係にも大きな影響が及ぶ場合があります。薬物乱用の事実を隠すために嘘をついたり、家族や友人から距離を置いたりするようになることがあります。学校や職場での欠席・欠勤が増え、成績や業務成績が低下する場合もあります。周囲からの信頼を失い、孤立感が深まることで、さらに薬物に依存するという悪循環に陥ることがあります。
また、オーバードーズの後遺症として認知機能が低下すると、日常生活の遂行能力も低下する場合があります。物事を計画したり、複数の作業を同時にこなしたり、適切な判断を下したりすることが困難になることがあります。これらの障害は学業や就労の継続を困難にし、経済的な問題や生活の質の低下につながる可能性があります。社会的な役割を果たせなくなることで、さらに自己評価が低下し、精神的な苦痛が増すという負の連鎖が形成される場合があります。
まとめ
オーバードーズは市販薬や処方薬を過量摂取する行為で、身体・精神の両面に深刻な影響を及ぼす可能性があります。治療には身体管理、離脱症状への対応、認知行動療法などの心理社会的アプローチが必要です。精神保健福祉センターや依存症外来など、専門的な相談先を活用し、早期に適切な支援を受けることが回復への鍵となります。
オーバードーズに関する悩みや不安がある場合は、一人で抱え込まず、医療機関や相談窓口に連絡してください。適切な支援を受けることで、回復への道を歩むことができます。