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「くも膜下出血」の前兆を見逃さないために…発生部位を知る重要性とは【医師監修】

 公開日:2025/11/29
くも膜下出血が発生する場所の解剖学的構造

くも膜下出血を正しく理解するには、脳を保護する膜の構造と血管の配置を知ることが不可欠です。脳の表面には複数の膜が重なっており、その間にある空間で出血が起こります。ここでは脳を守る三層構造や血管が集まる部位、出血が広がるメカニズムについて詳しく解説します。

伊藤 たえ

監修医師
伊藤 たえ(医師)

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浜松医科大学医学部卒業。浜松医科大学医学部附属病院初期研修。東京都の総合病院脳神経外科、菅原脳神経外科クリニックなどを経て赤坂パークビル脳神経外科 菅原クリニック東京脳ドックの院長に就任。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医、日本脳ドック学会認定医。

くも膜下出血が発生する場所の解剖学的構造

くも膜下出血の発生部位を理解するには、脳を覆う髄膜構造と血管の位置関係を知ることが欠かせません。脳は複数の膜によって保護されており、その間にある空間で出血が生じます。

脳を保護する三層構造とくも膜下腔

脳は3枚の膜(硬膜・くも膜・軟膜)で守られています。このうち、くも膜と軟膜の間のすき間(くも膜下腔)には、脳へ血液を送る重要な血管が通っています。この血管が破れると、くも膜下出血が起こります。特に、脳の底にある血管のつなぎ目「ウィリス動脈輪(脳の動脈が集まる場所)」では血流の圧力がかかりやすく、動脈瘤ができやすいと知られています。

この空間には脳に血液を供給する主要な動脈が走行しており、これらの血管が何らかの原因で破れると血液がくも膜下腔に流れ込みます。脳脊髄液は本来無色透明ですが、出血によって血液が混入すると髄液が赤く染まり、脳全体を取り囲むように広がっていく特徴があります。この広がり方は、くも膜下出血の症状の多様性や重症度に大きく影響する要因となります。

出血が起こりやすい血管の位置と特徴

くも膜下出血の原因として考えられるものの中で、脳動脈瘤の破裂が大きな割合を占めています。動脈瘤ができやすい部位には一定の傾向があり、脳の底部には「ウィリス動脈輪」と呼ばれる血管の輪が存在します。これは左右の内頸動脈と椎骨脳底動脈系が合流する場所であり、この動脈輪を構成する血管やそこから分岐する部分は血流の衝突や乱流が生じやすく、血管壁への負担が大きくなります。

具体的には前交通動脈、内頸動脈と後交通動脈の分岐部、中大脳動脈の分岐部などが動脈瘤のできやすい部位として知られています。これらの部位は脳底部のくも膜下腔に位置しており、動脈瘤が破裂すると大量の血液が脳の底部から頭頂部へ向かって広がっていきます。出血の広がり方は重力や脳脊髄液の流れによって影響を受け、頭蓋内全体に及ぶこともあります。

出血の広がりが脳に与える影響

くも膜下腔に流れ込んだ血液は脳脊髄液の循環経路に沿って拡散し、脳表面全体を覆うように広がります。出血量が多い場合には脳と頭蓋骨の間の空間を埋め尽くし、脳実質を圧迫する要因となることがあります。出血後に血液が脳の表面に広がると、血液の成分が血管を刺激して血管が強く縮むことがあります(脳血管攣縮)。この状態になると脳の血流が悪くなり、脳梗塞を起こすこともあります。また、血のかたまりが脳内の水(脳脊髄液)の流れを妨げると、脳が腫れる「水頭症」という合併症を起こすこともあります。

このように、くも膜下腔という限られた空間での出血は、単に血液が溜まるだけでなく、脳全体の機能に広範な影響を及ぼす病態と言えます。

まとめ

くも膜下出血は突然発症する重篤な疾患であり、激しい頭痛、めまい、意識障害といった症状が特徴的です。痛みの性質や発症様式、随伴症状を正しく理解することで、早期発見と迅速な治療開始が可能になります。警告頭痛やいつもと異なる頭痛、めまいを伴う強い頭痛を経験した際には、躊躇せず脳神経外科や神経内科を受診し、専門の医師の診察と画像検査を受けることが大切です。

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