「橋本病」は「何を補充する治療」が行われる?【医師監修】

橋本病による甲状腺機能低下症の治療は、甲状腺ホルモン補充療法が中心となります。不足したホルモンを適切に補うことで、疲労感やむくみといった症状の改善が期待できます。治療開始から用量調整、服用時の注意点まで、薬物療法の基本的な考え方と日常生活での留意点を詳しく解説します。

監修医師:
濵﨑 秀崇(医師)
目次 -INDEX-
橋本病の薬物療法
橋本病の治療は主に甲状腺ホルモン補充療法が中心となります。甲状腺機能低下を補うことで、症状の改善と生活の質の向上が期待できます。
甲状腺ホルモン補充療法の基本
甲状腺機能低下症を伴う橋本病では、不足している甲状腺ホルモンを補充する治療が行われます。一般的に使用される薬剤はレボチロキシンナトリウムで、これは身体内で作られる甲状腺ホルモンのT4と同じ構造を持つ合成ホルモン製剤です。
治療は少量から開始し、血液検査の結果を見ながら徐々に用量を調整していきます。急激にホルモンを補充すると、心臓に負担がかかる可能性があるため、特に高齢者や心疾患のある方では慎重に増量します。
レボチロキシンは朝食前の空腹時あるいは就寝前に服用することが推奨されます。食事と一緒に服用すると吸収が低下する可能性があるためです。また、鉄剤やカルシウム剤、一部の胃薬などと同時に服用すると吸収が妨げられることがあるため、これらの薬とは時間をずらして服用する必要があります。
適切な用量が決定されるまでには数ヶ月かかることもあります。用量が決まった後も、定期的な血液検査により甲状腺機能をモニタリングし、必要に応じて用量を調整します。
治療効果と日常生活での注意点
甲状腺ホルモン補充療法により、多くの方で症状の改善が見られます。疲労感やむくみ、便秘といった症状は治療開始後数週間から数ヶ月で徐々に軽減していきます。認知機能や気分の改善にはやや時間がかかることもありますが、適切な治療により正常な状態に近づいていくことが期待できます。
治療効果を得るためには、薬を毎日規則正しく服用することが重要です。飲み忘れが続くと症状が再び悪化する可能性があります。旅行や出張の際にも薬を携帯し、服用を継続することが大切です。
副作用は適切な用量であればほとんど見られませんが、過剰投与になると動悸、発汗、体重減少、イライラ感、不眠といった甲状腺中毒症状が現れることがあります。
妊娠を希望する女性や妊娠中の女性では、胎児の正常な発育のために適切な甲状腺ホルモン値を維持することが特に重要です。妊娠初期には必要量が増加するため、妊娠が判明したら早めに主治医に相談し、用量調整を受けることが推奨されます。
まとめ
橋本病は適切な診断と治療により、日常生活への支障を最小限に抑えることができます。疲労感やむくみといった症状が続く場合や、家族に甲状腺疾患の方がいる場合には、甲状腺機能の検査を受けることが推奨されます。早期発見と継続的な治療により、良好な生活の質を維持できる疾患です。気になる症状がある方は、内科や内分泌内科を受診されることをおすすめします。
参考文献
- 日本甲状腺学会「甲状腺疾患診断ガイドライン」
- 日本内分泌学会「橋本病(慢性甲状腺炎)
- Familial risks between Graves disease and Hashimoto thyroiditis and other autoimmune diseases in the population of Sweden
- Minerals: An Untapped Remedy for Autoimmune Hypothyroidism?
- Cancer Risk in Hashimoto’s Thyroiditis: a Systematic Review and Meta-Analysis