心不全の人が「水分・塩分を控えたほうがいい」本当の理由とは? 医師解説

心不全の患者は、水分や塩分を摂りすぎないよう注意されますが、一体なぜ気をつけなければいけないのでしょうか。今回は、心不全と水分や塩分が、どのように関係しているのかについて、「おくやまクリニック」の奥山先生に解説していただきました。

監修医師:
奥山 裕司(おくやまクリニック)
編集部
心不全の患者は、水分や塩分の摂りすぎに注意した方がいいと聞きます。なぜですか?
奥山先生
水分や塩分を摂りすぎると肺に負担がかかり、心不全が悪化するからです。心臓と肺は、密に関係しています。そもそも、心不全とは心臓のポンプ機能が低下して、全身へ十分な血液を送り出せない、あるいは送り出せているが“かなり無理をしている”状態を指します。心不全には心臓の収縮機能が落ちるタイプと拡張機能が落ちるタイプがあり、そのうち前者のタイプは弱ったバネをイメージするとわかりやすいと思います。
編集部
もう少し詳しく教えてください。
奥山先生
バネが強ければ、少し伸ばしただけでも力が出ますが、弱ってくると思い切りバネを引き伸ばさなければ力が出ません。これを心臓に置き換えると、心臓を大きく引き伸ばさないと全身へ血液が送れないということになります。心臓を大きく引き伸ばすには、血液など体内の液体成分を増やさなければいけません。つまり、心不全の心臓にとっては体内の水分が多ければ多いほど、心臓を大きく引き伸ばして多くの血液を送り出すことにつながるのです。
編集部
それがなぜ、肺にとって負担になるのですか?
奥山先生
肺は蜂の巣のような構造になっており、肺の静脈や動脈が蜂の巣の仕切りの部分を通っています。体内の血液の量が増えると、特に肺の静脈にかかる圧力が上がります。すると仕切りの部分に液体成分が漏れ出てきます。仕切りが水浸しのような状態になるわけです。蜂の巣の空洞の部分に入ってくる酸素と血管の距離が離れるため、酸素を取り込みにくくなります。また、肺は水分量が増え、しなやかに膨らみにくくなるので、息苦しく感じるようになります。結局、体内の水分量を必要以上に増やさないようにして、肺を水浸しにしないことが必要なのです。
編集部
塩分の摂りすぎが体内の水分量を増やすのはなぜですか?
奥山先生
食塩には水分を保持する作用があるため、塩分を摂りすぎると体内に水分量が増えます。体内の水分量が増えるということは血液量も増えるということであり、肺から左心房へ戻ってくる静脈の圧力も上昇します。そのため、先ほど説明したような仕組みで肺などに負担をかけるわけです。もちろん体内の水分量が減りすぎると、弱った心臓では全身が必要とする血液を送り出せなくなり、血圧低下や尿量減少、全身倦怠感などが発生してしまいます。
編集部
水分の摂りすぎも、同じように血圧を上昇させるのですか?
奥山先生
はい。水分を多く摂取すると体内の水分量が増えて、先ほどと同様に肺から心臓へ戻る静脈の血圧が上昇します。塩分をたくさん摂っていると、腎臓からの水分排泄も円滑におこなわれなくなるため、肺が水浸しになりやくなり、心不全を悪化させてしまうのです。
※この記事はMedical DOCにて<「心不全」を悪化させる“9つの原因”はご存じですか? 水分・塩分制限が必要な理由も医師が解説!>と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。