「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を改善する生活習慣」をご存知ですか?【医師解説】
お酒を飲まない人にも発症する肝臓疾患「NASH」。治療では食事を中心とした生活習慣の改善が必須となります。しかし、具体的にどのような生活習慣が良いのかご存知でしょうか。はとがや緑内科クリニックの藪剛爾先生に詳しく伺いました。
監修医師:
藪 剛爾(はとがや緑内科クリニック)
編集部
NAFLD/NASHは、どのように治療するのですか?
藪先生
まずは食生活の見直しです。食事はPFCバランス(糖質57.5%、蛋白17.5%、脂質25%)を考え、食事摂取量、特に飽和脂肪酸の多い動物性脂肪を制限し、インスリン分泌量の低い糖質を摂取することが必要です。糖質は、白パンや白米、うどんなどの精製された糖類や果糖ではなく、五穀米、玄米、ブロッコリー、ほうれん草や食物繊維の多いものを摂るようにし、脂肪が付きやすい「油ものと糖質の同時摂取」は控える必要があります。手軽な物、美味しい物を好きなように食べることや、満腹になるまで食べて「あとで運動すれば良いや」という発想は改め、食生活のコントロールを続けることが治療の基本です。カロリー摂取量が多いのは問題外ですし、アルコールももちろん制限した方が良いでしょう。
編集部
ほかには何かありますか?
藪先生
やはり運動です。脂肪を落とす運動療法ですが、中性脂肪の分解には体内に酸素を多く取り込む必要があるため、有酸素運動を取り入れることが重要です。心拍数を上げるジョギングなどはとても良いです。「内臓脂肪のみで脂肪肝のない人」と比べると、「内臓脂肪が少なくNAFLDのみの人」は、特に筋肉でのインスリン抵抗性が強いといわれています。一般的に、インスリン抵抗性は筋肉に強く表れるので、逆に言えば、インスリン抵抗性改善のためには、筋肉を有酸素運動でよく使用することが重要なのです。大きく体重を落とし体質を改善した結果、NASHの線維化が改善したというケースも報告されていますので、NAFLD/NASHを問わず、食事療法・減量・運動療法による代謝改善は、治療の基本と言えます。
編集部
NAFLDからNASHへの進展についてはどのように診断するのですか?
藪先生
NAFLDがNASHに進展しているかどうかは、日本では病理組織での炎症や線維化を確定するのが必須です。海外ではフィブロスキャンやエラストグラフィなど線維化のみで判定する方法も提唱されています。日本でも、日常的にはFib4 Indexやエラストグラフィで見てから、確定診断の際に肝生検による病理診断を行います。NASHまで進行すると、効果的な治療は困難ですので、線維化の傾向がある患者をいかに早期に発見し、医療介入できるかが重要です。
編集部
治療薬や予防薬はあるのですか?
藪先生
肝臓の脂肪を抑えるには、ビタミンE、ω-3(オメガスリー)脂肪酸、PPAR-α作動薬のペマフィブラート、ウルソなどが知られています。さらに、糖尿病があれば、メトホルミンやピオグリタゾンなどのインスリン抵抗性改善薬やGLP-1作動薬、SGLT2阻害薬も検討されます。高コレステロール血症や高血圧もNASHへの悪化要因ですので、スタチンやエゼチミブ、アンジオテンシンII受容体拮抗薬も使われます。
編集部
たくさん種類があるのですね。
藪先生
はい。また、注目すべきトピックとして、最近「肥満症治療薬」として認可された「GLP1」アナログ製剤のセマグルチド注射薬がありますが、体重を落とす効果が強く、肝臓の脂肪を落とすのにも有用な候補薬と考えられます。脂肪肝の治療は、単に肝臓の脂肪を落とすというだけではなく、肝硬変・肝がんへの発症リスク(NASHへの進展)を減らし、さらには「心血管疾患の発症」や「悪性疾患の併発」を減らすという意味があります。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあればお願いします。
藪先生
「NASHの疑いが出てきたら治療する」のではなく、NAFLDが判明した時点で治療を考えることが必要です。思い当たることがある方、健康診断などで指摘を受けたことのある方は、まずはお近くの肝臓専門外来を受診することをお勧めします。
※この記事はMedical DOCにて【「非アルコール性脂肪肝炎」(NASH)の症状・原因を医師が解説 肝臓の治療法も説明】と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。