「脂肪肝を治すために必要なこと」をご存知ですか? 有効な食べ物・運動を医師が解説
「脂肪肝」は、文字通り肝臓に中性脂肪が蓄積することで起こる病気です。この脂肪肝ですが、肝臓についた脂肪を落とすにはどうすればいいのでしょうか。“脂肪を落とす”というと、ダイエットを思い浮かべますが、同じようなことをすればいいのか気になるところです。おつじ内科クリニックの尾辻先生を取材しました。
※この記事はMedical DOCにて【脂肪肝はアルコールを飲まない人・痩せている人にも発病リスク! 原因や妊娠中に起こる特殊な脂肪肝も医師が解説】と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。
監修医師:
尾辻 健太郎(おつじ内科クリニック)
編集部
脂肪肝は治りますか?
尾辻先生
原因がはっきりしている脂肪肝は、原因を取り除くことで改善が期待できます。アルコール性脂肪肝の場合は、断酒のみで治癒できる可能性が高いとされています。食べ過ぎや運動不足による肥満(いわゆるメタボリックシンドローム)が原因の場合は、食事療法や適度な運動で体重を減らすことが重要になります。最近は具体的な減量目標も明らかになっており、5%の体重減少でQOL(生活の質)が改善し、7%以上の体重減少によって肝脂肪化が軽減するとのデータがあります。
編集部
肝臓に溜まった脂肪を減らすために、どのような運動が効果的ですか?
尾辻先生
脂肪肝の患者さんの肝機能、肝脂肪化を改善するために運動を行うことが推奨されています。具体的には、30~60分程度の有酸素運動を週3~4回、1~3ヶ月ほど行うことで、体重が減少しなくても、肝臓の脂肪化が改善するというデータや、週250分以上、中程度から強度の有酸素運動を12週間行うと効果的に肝臓の脂肪化が改善するという報告があります。また、有酸素運動とレジスタンス運動(いわゆる筋トレ)を比較した分析では、レジスタンス運動はエネルギー消費量が有酸素運動より低いものの、同様に肝臓の脂肪化を改善することが報告されています。更に、運動療法の効果は肥満度がより高い人で肝臓の脂肪化、肝障害の改善が得られやすいとのデータもあるようです。
編集部
では、脂肪肝に良い食べ物は何ですか?
尾辻先生
「何を食べたら良いか」とのご質問は患者さんからもよく受けますが、まず重要なことは「何を食べる?」ではなく、摂取する総カロリー量を適正な量まで減らすこと、つまり「食べる量を減らす」ことです。次に、その内容を見直すことになりますが、その際には炭水化物もしくは脂質が制限された食事が推奨されています。私が診てきた経験上も、いきなり極端な食事制限はうまくいかないことが多く、まずは1品減らす、主食の米を1~2割減らす、揚げ物を食べる日は「金・土曜日だけ」などに決めておくといった具体的な目標を長期的に達成していくほうが、上手くいくことが多い印象があります。
編集部
脂肪肝に有効なお薬はあるのでしょうか?
尾辻先生
現在のところ、脂肪肝に対しての治療薬として、保険診療にて使用できる有効なお薬はありません。治療の原則は、食事内容の見直し、運動習慣の改善です。しかし、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの合併症がある場合、それぞれの治療薬を投与することが検討されます。また、最新の話題として、令和5年1月に厚生労働省の専門部会において、GLP-1アナログ製剤のセマグルチドが肥満症の治療薬として「承認されることが了承」されました。投与にはいくつかの条件があり、全ての脂肪肝患者さんに使用できるわけではありませんが、将来的に、治療の選択肢に入ってくる可能性はあるでしょう。
編集部
様々な可能性はありつつ、食事と運動はやはり大切ということですね。
尾辻先生
はい。ですが、仕事からの帰宅時間がバラバラ、そもそも食べる時間が不規則など、一般的な食事療法ができない場合もありますし、運動に関してもまず運動できるための基礎体力を取り戻す必要があるなど、様々な実行困難なケースがあります。病院で「食事、運動を頑張りましょう」などの説明を受けた場合、できるだけご自身の生活スタイルに合わせた具体的な目標を設定してもらうことが重要だと思います。さらに、1ヶ月程度では改善しないことが多いため、数ヶ月~数年単位で続けられる生活習慣も大切です。モチベーションが高かった最初の1ヶ月で10kg痩せても、その後半年で15kgリバウンドしてしまうと結果的に悪化してしまいます。それよりは、1ヶ月で1kg弱の減量効果でも半年間継続できる習慣のほうが脂肪肝の改善が期待できます。無理のない範囲の適正な食事内容、負担のない強度の運動を長く続けることを意識しましょう。
編集部
最後に、Medical DOC読者へのメッセージがあればお願いします。
尾辻先生
一部の特殊なものを除き、基本的に脂肪肝はすぐに症状が出たり、命を脅かしたりすることがないため、軽く考えられがちです。しかしながら、脂肪肝によって糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病が見つかるきっかけになることもあるため、健康診断で肝機能障害を指摘された場合は必ず病院での再検査を受けるようにしてください。