【認知症の方との接し方①】否定から入るのはNG 妄想症状への対応法とは
現在、65歳以上の約16%が“認知症”であると言われています。「家族が認知症になり、どう接すればいいのかわからない……」という経験をされた方も多いと思います。認知症の家族との接し方について「里村医院」の里村先生に学ぶ特集の第1回。
今回は「認知症による妄想への向き合い方」について解説していただきました。
監修医師:
里村 元(里村医院)
編集部
認知症の人に対して、「否定から入らない」ということをよく聞きます。
里村先生
そうですね。認知症の症状で代表的なのは、“妄想”だと考えています。妄想の定義は「一貫してブレない考え」です。例えば、いったん「まだ朝食を食べていない」という妄想を抱えていたとしたら、他人が何を言ってもブレません。
編集部
それなのに、「さっき、食べたじゃない」という否定はダメということですね?
里村先生
そうですね。認知症患者さんの心理からすると、「食べていないのに、この人は『食べた』と言っている。もしかして、嘘つきなのでは?」と捉えます。誤解の多いところですが、認知症患者さんの“感情”は正常です。とくに、物事に対する「好き・嫌い」や「良い・悪い」という感情は最後まで残ります。嘘つきは「嫌い」ですし、嘘つきが身近にいることも「悪い」ことなので、ご家族であっても遠ざけようとしますよね。
編集部
なるほど。家族を自分の子どもだと理解していない場合もそうなのでしょうか?
里村先生
はい。そして、認知症患者さんは、「どうしてこの人は、嘘をついてまで自分を責めるの?」と考えはじめます。やがて、ご家族と敵対して自分の殻に閉じこもり、周囲からの刺激が少なくなり、ますます認知症を悪化させていくでしょう。この悪循環が、比較的多くみられるパターンですね。
編集部
認知症は「認知」にズレがあるだけで、生理反応は正常なのですか?
里村先生
そうなんです。ですから、ご家族には、上記のような妄想のメカニズムがあることをご理解いただきたいです。認知症患者さんにとっての「自分を責めてくる存在」にはならないようにしてください。悪い言い方かもしれませんが、「認知症の方の訴えを上手に受け流す」形で、ご本人の尊厳を守ってあげましょう。正面からぶつかり合うのはNGです。