「噛む力」がパフォーマンスを左右する? “お口の健康とスポーツ”の意外な関係【歯科医師解説】

アスリートにとって体のメンテナンスと同じぐらい大切なのが、歯の健康管理です。競技中の転倒・接触によるケガ、スポーツドリンクや補食によるむし歯リスクの上昇など、スポーツ選手は一般の患者さんとは異なる悩みを抱えています。そこで着目したいのが、「スポーツ歯科」という診療科。今回はスポーツパフォーマンスとお口の健康の深い関係について、おおしか歯科医院の大鹿先生に解説してもらいました。

監修歯科医師:
大鹿 明完(おおしか歯科医院)
編集部
お口の健康とスポーツにはどのような関係があるのでしょうか?
大鹿先生
お口の健康は、スポーツパフォーマンスに大きく影響します。例えば、むし歯や歯周病の痛みは選手の集中力を著しく低下させますし、抜けた歯をそのままにしておくと体全体のバランスにも影響がでてしまう可能性があります。また、噛み合わせが悪いと姿勢が乱れる可能性があり、それがケガのリスクを高める要因にもなります。
編集部
噛む力がスポーツのパフォーマンスに影響するという話もよく聞くのですが、本当なのでしょうか?
大鹿先生
確かに、噛み合わせが良好でしっかり噛めることは、スポーツにおいてとても重要です。ただ、実際に選手の様子を見ると、踏ん張る瞬間に歯を噛みしめる選手と、口を開けている選手がいることに気づくと思います。これは、人には集中したり力を出したりする時に、下あごを固定しようとする特性があるからです。その固定方法として、噛みしめる選手もいれば、口を開けて顎周りの筋肉を使って固定する選手もいるわけです。
編集部
そうすると、強く噛むことが必ずしもパフォーマンスの向上につながるわけではないのでしょうか?
大鹿先生
噛みしめることで筋力が瞬間的に高まるのは確かです。ただ、すべての選手が力を入れるときに歯を噛みしめているわけではありません。下あごを固定する方法は人それぞれで、口を開けた状態でも十分に力を発揮できる選手もいます。その点において、マウスガードは噛みしめる選手でも噛みしめない選手でも、あごの筋肉や骨格筋の動きをスムーズにすることが研究で明らかになっています。
編集部
プロ野球選手がプレー中にガムを噛んでいるのも、パフォーマンスと何か関係があるのでしょうか?
大鹿先生
これについては様々な文献がありますが、ガムを噛むと緊張状態が和らぎ、心拍数も下がることがわかっています。試合中の過度な緊張はパフォーマンスを低下させる原因になりますが、ガムを噛んで適度に注意をそらすことで結果的に精神的なリラックス効果を生み出しています。また、噛む行為には脳を活性化させる効果もあり、これらの効果が組み合わさることでパフォーマンスの向上につながっているようです。
※この記事はMedical DOCにて<スポーツ歯科の存在をご存じですか? お口の健康がパフォーマンスに与える影響を解説>と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。