「小腸がんのステージ別の症状」はご存知ですか?【医師監修】
公開日:2025/12/06

※この記事はメディカルドックにて『「お腹がギュルギュル鳴る」原因はご存知ですか?医師が徹底解説!』と題して公開した記事を再編集して配信している記事となります。

監修医師:
和田 蔵人(わだ内科・胃と腸クリニック)
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佐賀大学医学部卒業。南海医療センター消化器内科部長、大分市医師会立アルメイダ病院内視鏡センター長兼消化器内科部長などを歴任後の2023年、大分県大分市に「わだ内科・胃と腸クリニック」開業。地域医療に従事しながら、医療関連の記事の執筆や監修などを行なっている。医学博士。日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本肝臓学会肝臓専門医、日本医師会認定産業医の資格を有する。
目次 -INDEX-
小腸がんの概要
小腸がんは発生する細胞の種類によっていくつかのタイプに分類されます。主なものとして、神経内分泌腫瘍(カルチノイド)、腺がん、悪性リンパ腫、肉腫の4つが挙げられます。それぞれの特徴を見てみましょう。
神経内分泌腫瘍(カルチノイド)
神経内分泌腫瘍はホルモンを分泌する細胞から発生する腫瘍で、カルチノイドとも呼ばれます。ゆっくり進行する傾向があり、進行するとホルモン過剰による顔のほてりや下痢などを引き起こすこともありますが、多くは症状が乏しく進行するまで気付かれにくいがんです。小腸がん全体のなかで最も発生頻度が高いタイプとされています。腺がん
腺がんは腸の内側の腺上皮から発生するがんで、小腸がんのなかでは2番目に多いタイプです。特に、小腸の前半部分(十二指腸〜空腸)に多く発生することが知られています。明確な原因はわかっていませんが、クローン病や潰瘍性大腸炎などの慢性的な腸の炎症疾患、家族性大腸腺腫症(FAP)やポイツ・イエガース症候群、リンチ症候群といった遺伝性の体質がリスク要因として挙げられます。悪性リンパ腫
悪性リンパ腫はリンパ球(白血球の一種)の腫瘍で、消化管に発生するリンパ腫の一つとして小腸にも生じる場合があります。ほかの小腸がんとは性質が異なり、血液のがんですが、腫瘍が腸管内にできて潰瘍や腸の肥厚を引き起こし、腹痛や下痢、体重減少などの症状を起こすことがあります。セリアック病に伴って小腸に発生する特殊なリンパ腫(腸管型T細胞リンパ腫)が知られています。肉腫
肉腫は小腸の筋肉や結合組織など、上皮以外の組織から発生する腫瘍です。代表的なものに消化管間質腫瘍(GIST)があり、消化管の壁に存在する間葉系細胞から発生する腫瘍で小腸にも生じることがあります。多くは粘膜下のしこり(粘膜下腫瘍)として発見され、腫瘍からの出血により黒色便が見られることもあります。また、小腸の筋肉に発生する平滑筋肉腫が生じる場合もあります。肉腫はほかのタイプに比べ発生頻度は低いものの、小腸がんの一種として挙げられます。ステージ別|小腸がんの症状
小腸がんの初期症状は上記に述べたとおりですが、がんはそのステージによって現れる症状が変わります。本章では、小腸がんで現れる症状をステージ別に解説します。
ステージI(I期)
ステージⅠ(I期)は、がんが粘膜内または腸壁内にとどまる極めて早期の段階です。自覚症状はほとんどありません。ステージII(II期)
ステージII(II期)は、腫瘍が小腸の壁の深くまで達した段階ですが、リンパ節への転移はありません。症状はこの段階でも軽いことが多く、人によっては腹部の違和感や軽い腹痛を感じる程度です。ステージIII(III期)
ステージIII(III期)は、腫瘍が周囲組織に浸潤したり、所属リンパ節に転移した状態です。多くの患者さんはこの段階で初めて明らかな症状に気付きます。腸管が狭くなることで起こる持続的な腹痛や腹部膨満感、吐き気・嘔吐、腫瘍からの出血による黒色便や貧血による全身のだるさなどが見られることがあります。腫瘍の位置によっては胆汁の通り道(胆管)が塞がれ、皮膚や白目が黄色くなる黄疸の症状が現れることもあります。ステージIV(IV期)
ステージIV(IV期)は、がんが小腸以外の遠隔臓器に転移した状態です。ステージIIIまでに挙げた症状に加えて、転移先の臓器に応じたさまざまな症状が現れます。例えば、肝臓に転移した場合は黄疸や腹水を生じることがあります。腹膜に広がった場合は腸閉塞が生じやすくなり、肺に転移した場合は咳や呼吸困難を引き起こすことがあります。また、全身状態として食欲不振や著しい体重減少、倦怠感など進行がんに共通する症状が見られることもあります。小腸がんについてよくある質問
ここまで小腸がんを紹介しました。ここでは「小腸がん」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
小腸がんは珍しい病気ですか?
和田 蔵人 医師
はい。小腸がんは全体のがんのなかでも発生がとてもまれながんです。年間の発症率は人口10万人あたり数人程度で、日本人のがん全体の0.5%未満とごく少数にとどまります。そのため希少がんに分類され、診断や治療の経験を積んだ専門施設が限られているという課題もあります。
小腸がんの原因やリスク要因は何ですか?
和田 蔵人 医師
小腸がんの明確な原因はわかっていません。しかし、いくつかの疾患が発症リスクを高める要因として知られています。代表的なものに、クローン病があります。また、遺伝的な要因では家族性大腸腺腫症(FAP)、ポイツ・イエガース症候群、リンチ症候群などが小腸がんのリスク因子として挙げられます。これらの病気がある方は、小腸がんを含む消化管のがんを早期発見するため定期検査が推奨される場合があります。
まとめ
小腸がんは発生頻度の低い希少ながんであり、初期には目立った症状が出にくく発見が遅れがちです。とはいえ、本記事で解説したような症状に気付いた場合や、リスク因子となる病気がある場合には、できるだけ早めに医療機関を受診し必要な検査を受けることが大切です。近年ではカプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡といった技術の進歩により、小腸がんの診断精度は向上しつつあります。
小腸がんは希少とはいえ、早期に発見して適切に治療することで予後の改善が期待できます。気になる症状が続く場合は医療機関に相談し、適切な検査・治療につなげましょう。
関連する病気
- クローン病(Crohn病)
- 小腸ポリープ
- メッケル憩室炎
- 小腸悪性リンパ腫
- 潰瘍性大腸炎
関連する症状
- 持続的な腹痛・不快感
- 悪心・嘔吐
- 体重減少・食欲不振
- 腹部膨満感
- 便通異常