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気象予報士・森田正光さん「肺腺がん疑い」で手術 初期症状やなりやすい人の特徴を医師が解説

 公開日:2024/04/22
「肺腺がん」を発症すると現れる症状・発症しやすい人の特徴はご存知ですか?

TBSテレビなどのJNN系列各局で放送されている「Nスタ」でもお馴染みの気象予報士・森田正光さん(74)が、自身のXにて肺腺がんの疑いのために、4月18日に胸腔鏡手術を受けたことを報告しました。また、術後の回復は順調で、「肺機能の10%くらいに影響が出そうですが、リハビリで軽減させられる」と現在の状況と今後の見通しも説明しました。

そんな肺腺がんですが、これは肺がんの一種です。初期症状はほとんどなく、女性やたばこを吸っていない方、比較的若い方に発症するケースも多くみられます。ここでは肺腺がんとはどのような病気なのか、その症状・原因・治療方法から生存率まで詳しく解説します

※この記事はMedical DOCにて【「肺腺がん」を発症すると現れる症状・発症しやすい人の特徴はご存知ですか?】と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

プロフィールをもっと見る
大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

肺腺がんとは

レントゲンの説明をする医師

肺腺がんとはどのような病気でしょうか?

肺腺がんとは肺がんの一種で、肺の腺組織から生じるがんです。肺がんには、非小細胞肺がん・小細胞肺がんがあり、非小細胞肺がんはさらに腺がん(肺腺がん)・扁平上皮がん・大細胞がんの3タイプに分けられます。
肺腺がんは、肺がんの中でも最も多いタイプです。そのステージ(病期)は、Ⅰ期・Ⅱ期・Ⅲ期・Ⅳ期にわかれており、ステージが進むにつれてよりがんがより進行していることを表します。
肺腺がんは初期には症状がない場合も多く、進行して症状が出て気づいたり、健康診断で初めてわかったりすることが多い病気です。

症状を教えてください。

肺腺がんは、初期にはほとんど症状がありません。肺腺がんが進行するとみられる症状は、長引く咳・痰・息切れ・息苦しさです。
そして、胸の痛み・圧迫感なども出現し、徐々に疲れやすさ・食欲不振・体重減少をきたすようになります。手足・顔がむくんだり、血痰が出たりする場合もあるので注意が必要です。
肺腺がんができやすい肺野は、肺の中心部から遠い場所に位置しているため、症状はゆっくりと進行します。検診で初めて気づく場合も多く、症状が出たときには進行しているケースも少なくありません。
これらの症状の中でも、最も多いのは痰・咳です。「原因がわからない咳・痰が2週間以上続く」・「血痰が出る」などの症状が現れた場合は、早めに専門医を受診することが重要です。

肺腺がんの発症の原因を教えてください。

肺がんの原因として最も重大なのは「喫煙」です。肺腺がんは、他のタイプのがんに比べると喫煙とがん発症の関係性は比較的低いことがわかっていますが、喫煙が肺腺がんの原因の1つであることに違いはありません。
また、喫煙以外では、アスベスト(石綿)・大気汚染・慢性閉塞性肺疾患(COPD)・間質性肺炎なども原因として挙げられます。加えて、家族歴などの遺伝的要因なども肺腺がんのリスクを高めるため、注意が必要です。

どのような方がなりやすいのでしょうか?

肺腺がんは、アスベスト(石綿)・大気汚染などの影響を長期間受けていたり、喫煙の習慣があったりする方により多く発症する傾向があります。一方で、喫煙の習慣がなくても特定の遺伝子変異を持っていたり、肺結核・慢性閉塞性肺疾患(COPD)・間質性肺炎などの肺疾患の既往があったりすると発症リスクが高くなります。
そして、一般的に年齢が上がるにつれて肺がんの発症率が高まりますが、肺腺がんに関しては20代位の若い方の発症も増えているのが現状です。これらに当てはまる場合は、定期的な検診・適切な検査・生活習慣の改善が必要となります。

肺腺がんは喫煙習慣とは関係がないのですね。

肺腺がんは、非喫煙者の発症も多い疾患です。しかし、肺腺がんは肺がんの1つのため、その発症に喫煙習慣が関係ないとはいえません
国立がん研究センターの調べによると、肺腺がんは他のタイプの肺がんと比べて、喫煙の影響が比較的少ないと報告されています。扁平上皮がん・小細胞がんを合わせて検討すると、たばこを吸う方は吸わない方に比べて、男性12.7倍・女性17.5倍ががんに罹りやすい結果です。それに対して肺腺がんでは、たばこを吸う方は吸わない方に比べて、男性2.8倍・女性2.0倍ががんに罹りやすい結果となっています。
この結果をみると、確かに肺腺がんにおける喫煙の影響は小さいです。しかし、たばこを吸う方と吸わない方で考えた場合、肺腺がん発症の確率が高いことには変わりありません。また、受動喫煙(周囲のたばこの煙を吸うこと)の影響を受けている方も、発症の危険性を高めてしまうので注意が必要です。

肺腺がんの治療方法

看護師と入院患者

受診を検討するべき初期症状はありますか?

先述したように、肺腺がんは初期症状がほとんどありません。咳・痰が最も多い症状で、進行していくと、息切れ・呼吸困難・声のかすれ(嗄声)・胸痛・疲れやすさなどが出てきます。食欲不振・体重減少もみられるようになります。
これらの症状は、他の疾患でも現れる場合があるため、自己判断で症状を放置せずに早期発見のために受診することが大切です。肺腺がんは、肺がんの中でも特になかなか症状が出ないため、検診・人間ドックなどで発見されるケースも多いです。したがって、定期的な検診をおすすめします。

どのような検査を行うのでしょうか?

肺腺がんの検査は肺がんに準じており、がんが疑われる場合にはまず、胸部X線検査・喀痰細胞診(かくたんさいぼうしん)を行います。異常が見つかった場合には胸部CT検査を行い、病変の有無・位置など詳しい状態を確認します。
そして、確定診断を行う場合に重要なのが細胞・組織を採取する病理検査です。病理検査では、がんであるかはもちろん、どのようながんの種類であるかを調べて診断します。最も多く行われるのは気管支鏡検査・生検です。場合によって、経皮的針生検・胸腔鏡検査なども行います。
また、肺腺がんのステージ(病期)・広がりを調べるために、腹胸部造影CT検査・MRI検査・PET検査・骨シンチグラフィなども行われます。これらの検査は、肺腺がんの早期発見・進行度を確認するために大変重要です。各検査の選択・タイミングは医師によって判断されます。

治療方法を教えてください

肺腺がんの治療方法には、手術・放射線療法・薬物療法・免疫療法があります。
手術が選択されるのは、がんが限局していて手術によって取り切ることができる場合です。手術には、肺の一部を切除する肺葉切除術・縮小手術と、がんのある側の肺をすべて切除する片側肺全摘手術とがあります。放射線療法は、がんのある部分に放射線を照射することで、がん細胞を壊す治療方法です。切除できないがん・手術後の補助療法・化学療法との併用などで行われます。
薬物療法は、がんが進行して手術では取り切れない場合に行われたり、手術後の補助療法・がんの進行抑制を目的として行われたりします。免疫療法は、がん細胞を攻撃する免疫細胞の働きを高めるための治療方法です。肺腺がんの治療に効果がみられている薬は、免疫チェックポイント阻害薬です。
治療方法は、がんの種類・ステージ(病期)・患者さんの年齢・健康状態によって異なり、専門医の判断によって行われます。専門医が提案する治療方法を理解・納得した上で、最適な治療法を選択することが重要です。

肺腺がんの治療ではどのような薬を使用しますか?

肺腺がんの治療に用いられる薬は、がん細胞に対する攻撃方法の違いから、細胞障害性抗がん薬・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬の3つにわかれます。細胞障害性抗がん薬は、細胞の増殖を邪魔してがん細胞の増殖を防止する薬です。
しかし、がん以外の正常な細胞の増殖にまで影響を及ぼします。分子標的薬は、がん細胞の増殖に関わるタンパク質などを標的として使用し、がん細胞の増殖を効果的に抑えて攻撃する治療薬です。がん以外の正常に増殖している細胞への影響を抑えられる特徴もあります。
免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫から逃れるためのブレーキ(免疫回避)を解除して、本来の免疫の力を取り戻して保つ薬です。これら治療薬の種類・組み合わせは、患者の病状・がん細胞の種類によって異なりますので、専門医と相談しながら進めていきましょう。

肺腺がんの生存率

家族

肺腺がんは手術をすれば治りますか?

手術をすれば肺腺がんが治るかは、どれだけ初期の段階で手術できたか、がんをすべて取り切れたかで変わってきます。一般的に初期の肺腺がん治療では、手術が第一選択です。手術によって、がん細胞を完全に除去できれば、完治する可能性が高くなります。
しかし、がんが進行して取り除けない場合は、完治する確率が下がってしまうのです。肺腺がんが手術をして治るかは、早期発見・早期治療に左右されます。したがって、初期症状がほとんどない肺腺がんは、定期的な検診が重要となります。気になる症状がある場合にも、早めに専門医を受診しましょう。

ステージごとの生存率を教えてください。

国立がん研究センター公表の肺腺がんを含む非小細胞肺がんのステージ(病期)ごとの5年生存率(相対生存率)は以下の通りです。

  • Ⅰ期:84.1%
  • Ⅱ期:54.4%
  • Ⅲ期:29.9%
  • Ⅳ期:8.1%

これは診断年2013〜2014年の男女・全年齢・手術の有無をすべて含めた数値です。ステージが進行すると生存率も低下していることがわかります。
ただし、これらはあくまでも一般的な数値であり、治療方法・患者さんの健康状態によっても生存率は個々で異なります。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

肺腺がんは初期症状がほとんどなく、気づいたときには進行している場合があります。比較的若い方にも多く、一般的に肺がんの原因となる喫煙をしていない方でも罹ることがわかっています。
初期の肺腺がんは特に、手術による完治率が高いです。早期発見・早期治療が重要となるため、定期的な検診を行うよう心掛けましょう。また、最近では治療法も進歩しており、患者さんにとって希望のある治療法が選択できるようになってきています。
症状がある場合・不安な点がある場合は、早めに専門医を受診しましょう。

編集部まとめ

医師と看護師
肺腺がんについて詳しくお伝えしました。

肺腺がんは喫煙・大気汚染などが主な原因ですが、他のタイプの肺がんと違い、喫煙者でなくても発症することも多い病気です。

初期症状に乏しいですが、早期発見・早期治療で完治も見込めるため、定期的な検診が大切となります。

ほとんどの市区町村において、自己負担額は一部のみで肺がん検診を受けられます。

定期的な検診・症状出現時のすみやかな受診で、肺腺がんを早期に発見できるように努めましょう。

この記事が、肺腺がんについて詳しく知りたかった方の参考となれば幸いです。

この記事の監修医師