知的障害の症状や原因、治療法とは?
知的障害とはどんな病気なのでしょうか?その原因や、主にみられる症状、一般的な治療方法などについて、医療機関や学会が発信している情報と、専門家であるドクターのコメントをまじえつつ、Medical DOC編集部よりお届けします。
監修医師:
村上 友太 医師(東京予防クリニック)
脳神経外科専門医、脳卒中専門医、神経内視鏡技術認定医。日本認知症学会、抗加齢医学会、日本内科学会などの各会員。
目次 -INDEX-
知的障害(精神遅滞)とは
知的障害(精神遅滞)とは、同年代と比べて知的な能力、適応能力に隔たりがあり、社会生活にサポートを必要とする状態のことを指し、知的発達症ともいいます。
村上先生の解説
知的障害についての認知度が上がっていることも影響して、知的障害を持つ方が増えています。症状が軽いと診断が遅くなり、大きくなってから診断されることもあります。
知的障害はどんな症状が現れるの?
知的障害の方は、知的能力と適応機能(日常生活を営む機能)の両方が低下しています。
知的機能というのは読み書きや算数といった学校の学習や論理的な考え、問題の解決などが当てはまります。
適応機能は、自分の欲求を抑えることや人とのコミュニケーション、お金の管理など日常生活に関わるような力です。
村上先生の解説
読み書きがうまく出来ないために授業についていけない、意見を交換することが苦手なので黙ってしまうなどは、学童期によく見られる症状です。
仕事で優先順位をつけることが出来ずにパニックになってしまったり、他人との会話で意図を掴めず孤立してしまったりすることも少なくありません。
重症度別の知的障害の症状の特徴は?
村上先生の解説
以前は、IQ70以下を一律に知的障害と呼び、さらにIQの値で軽度から最重度まで分類していました。しかし、IQ60でも日常生活を営むことが難しい人もいれば、IQ40でも比較的上手に日常生活を営める方もいます。より実生活に密接した形で評価するため、現在は、知的能力だけで分類せず、適応機能の障害と支援の必要レベルに応じて重症度を決定します。
軽度の場合は、同年代と比べてコミュニケーションや言葉遣いが未熟なことがありますが、家事や子育てなどの日常生活は比較的問題なく行うことができます。そのため、知的障害に気がつかれずに、「なんとなく私って空気が読めないな」「何をやってもうまくいかないな」などと悩んだまま大人になることもあります。
中等度の場合は、3歳ごろから言葉の遅れなどを指摘されて受診することがあります。複雑な判断や重要な決断には、周りのサポートが必要です。「暗黙の了解」や言葉の裏を読むことが苦手で、コミュニケーションがうまくいかないかもしれません。適切な支援があれば、身の回りのことや仕事ができるようになる場合もあります。
重度や最重度の場合は、首が座らないなどの症状が幼い頃から目立ち、比較的早期に診断されます。また、ほとんどの方がダウン症などの合併症を持っています。
なぜ知的障害になるの?
知的障害は、精神発達障害という大きな疾患概念の中の1つです。
知的障害の原因は、産まれながらの先天性のものと、出生時以降に生じた後天性のものに分けられます。
先天性の原因として、ダウン症などの染色体異常に伴うものはイメージがつきやすいでしょう。また、妊娠中に風疹や梅毒に感染したり、アルコールや薬物を多量に摂取したりすることも原因になり得ます。
後天性の原因としては、出産の際に赤ちゃんが「新生児仮死」という脳の低酸素状態になることや、細菌性髄膜炎に罹患すること、てんかんなどが挙げられます。
今挙げたようなはっきりした原因のない場合もあります。
村上先生の解説
知的障害を持つ方は、自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)やADHD、学習障害などの他の精神発達障害も合併している可能性が高いといわれています。
知的障害の検査方法・診断方法は?
知的障害を診断するためには、概念領域・社会的領域・実践的領域の3つのうち少なくとも
1つが障害とされ、学校や社会で過ごすために支援が必要であることが条件になります。難しそうな言葉が並んでいますが、ひとつずつ見ていきましょう。
概念領域は、読み書きや計算、判断力などのことです。
社会的領域は、人とのコミュニケーションや共感能力、社会のルールを守ことなどが当てはまります。
実践的領域は、食事や着替えなどの日常生活、お金や時間の管理、仕事をこなすことなどを指します。
こういった領域に障害がなければ、仮にIQが70未満だとしても必ずしも知的障害とは診断されるわけではありません。
村上先生の解説
IQの検査も、知的能力の程度や得意不得意の分野を知る上では重要です。有名なテストとして、WISC-IV知能検査というものがあります。1時間程度の時間をかけていろいろな能力を測るものです。
知的障害の治療方法
知的障害は治るの?
知的障害は、療育やトレーニング、環境調整などによって改善させることができるとされていますが、根本的に完治させることは現段階ではできません。
療育やトレーニングは、早い段階から行うことが理想的です。療育は「医療」と「教育」で子供の個性を活かすケアのことです。出来ないことではなく、出来ること・得意なことを伸ばしていくことがメインになります。また、知的障害を持つ方に多いメンタルヘルスの問題との向き合い方も学ぶことが出来ます。
村上先生の解説
知的障害は治せませんが、より過ごしやすくなるためにも、出来るだけ早いうちから療育やトレーニングなどの手助けを受けましょう。
知的障害のチェック方法
知的障害を自分でチェックするための簡単なツールはありませんが、親御さんから見て「ちょっとおかしいな」と思うことがあれば受診を検討しても良いでしょう。
親御さんが持つ代表的な違和感として、言葉の遅れや落ち着きのなさ、下の兄弟が出来ることがまだ出来ない、すぐにパニックになる、勉強についていけない、などが挙げられます。
成人の場合では、何度説明されても仕事が覚えられない、他の人が話していることが理解できない、など日常生活で苦労が多いようであれば、専門機関に相談してみても良いでしょう。
村上先生の解説
知的障害を診る専門医はどこにでもいるわけではないので、まずは地域の保健センターや子育て支援センター、成人の方は生活支援センターなどがおすすめです。無料で相談でき、専門医のいる医療機関の紹介なども受けられます。
知的障害は遺伝するの?寿命などへの影響は?
知的障害は、基本的には遺伝しません。先天性の場合は、遺伝子の突然変異が原因のことが多く、また、後天性の場合には遺伝は無関係だからです。脆弱X症候群などの稀な疾患の方では遺伝の影響があります。
村上先生の解説
寿命が極端に短いということもありません。ですが、知的障害の方の特性が原因となって、他の病気になりやすい一面があります。
例えば、摂食障害や不眠、うつなど、メンタルヘルスの問題に悩まされやすいことがわかっています。
周りに知的障害者がいる場合に自分ができる支援
100人に1人は知的障害があるといわれています。思い返してみれば、小学校の頃に、読み書きが苦手だったり、人とのコミュニケーションが苦手だったりというような友達がいたかもしれません。
身近な人が知的障害を持っているときに1人1人ができることを紹介します。
知的障害者とのコミュニケーション編
知的障害を持っている方とのコミュニケーションで意識しておきたいポイントを紹介します。
まず、何かを頼むときは1つずつにしましょう。
優先順位をつけたり、スケジュールを立てたりすることが難しいと感じる方が多いです。「この仕事を明日までにお願いね」などのように、1つずつ、期間をはっきり伝えるなどするとスムーズにいくかと思います。
また、質問をするときには選択肢を用意すると良いかもしれません。
自分の考えをまとめたり伝えたりすることが苦手な方が多いので、「どう思う?」ではなく、「AかBか、どっちだと思う?」のように答えやすい状況を作ることが大切です。
村上先生の解説
会話の際、長い文章は理解が難しい場合があるので、短く簡潔に伝えるようにしましょう。
知的障害者の日常生活支援編
知的障害のある方が困りやすいシーンでどのようなサポートが出来るか、紹介します。
お金の支払いの場面では、お金を出したりお釣りをしまうのに時間がかかるかもしれませんが、急かしたりせず見守りましょう。出すお金の種類を間違えているときには、「100円玉を2枚」のように、お金の種類を伝えてください。
また、いつもと違うことが起きると対応が難しいことがあります。電車の遅延や自然災害が起きた場合、「どこに行きたいのですか?」「2番乗り場のバスで目的地に行けますよ」など誘導があると助かるでしょう。
村上先生の解説
どの場合でも、コミュニケーション編でお伝えしたポイントを意識してみてください。
その他のシーン
知的障害のある方の特性の1つとして、予想外のことをされるとパニックになるというのがあります。ですから、連絡先を探そうとして急にカバンや洋服に触ることは避けてください。「カバンを開けるよ」などと一声かけましょう。また、大きな音や匂いなどにびっくりしてパニックになってしまう場合もあります。落ち着くまで少し待ってから対応してください。
まとめ
知的障害は、知的な能力と適応機能の両方が障害されている状態のことを指します。原因には染色体疾患や出生時のアクシデント、感染症などが挙げられ、完全に治すことはできないものです。
知的障害そのものによって寿命が短くなることはありませんが、ダウン症など他の合併症やメンタルヘルスの問題で健康を損なう可能性は否定できません。
村上先生の解説
知的障害の程度によっては、療育やトレーニングによって自立した日常生活を送れるようになります。周りのサポートがとても大切ですので、もし知的障害を疑っていらっしゃる方は専門家へ相談してみましょう。