アルコール依存症の症状や原因、治療法とは?
アルコール依存症とはどんな病気なのでしょうか?その原因や、主にみられる症状、一般的な治療方法などについて、医療機関や学会が発信している情報と、専門家であるドクターのコメントをまじえつつ、Medical DOC編集部よりお届けします。
この記事の監修ドクター:
村上 友太 医師(東京予防クリニック)
目次 -INDEX-
アルコール依存症とは
アルコール依存症とは、薬物依存症の一種です。
飲酒などアルコールの摂取によって得られる精神的、肉体的な薬理作用に強くとらわれて、自分の意思ではお酒の飲む量や飲む時間、飲む状況などをコントロールできなくなります。
どんな症状が現れるの?
飲酒したいという強い欲望・強迫感があり、飲酒の開始と終了、量をコントロールできなくなります。
お酒が手元にないと不安になったり、仕事中でも飲んでしまったりします。
お酒をやめたり控えたりしようとすると離脱症状(イライラ、手の震え、頭痛、不眠など)が出て、離脱症状から逃れるためさらに飲酒をします。
その結果、一日中飲んでいたり、一日中酔いが続いている状態になったりします。
家庭や仕事や趣味などの活動よりお酒を優先させ、社会生活・家庭生活を犠牲にして飲酒を続けてしまいます。
肝臓では、アルコール性肝炎やアルコール肝線維症を発症し、発熱や腹痛が現れます。
膵炎は急激に腹痛を起こし、みぞおちから背中にかけて激しい痛みが続きます。
また、癌や糖尿病のリスクを高めることも知られています。
重症・末期患者のステージ別 症状概要
アルコールを習慣的に飲酒しているうちに進行していきます。
機会があるごとに飲んでいたお酒を、いつしか毎日飲むようになり、記憶をなくし、次第に生活の中で飲むことが優先されるようになります。
初期
初期では身体的に飲酒に依存していきます。
お酒が切れてくると、寝汗・微熱・悪寒・下痢・不眠などの離脱症状が現れはじめます。飲む時間が待ち切れず落ち着かず、イライラします。
お酒が原因の病気や怪我、遅刻や欠勤、不注意や判断ミスなどが起き始めます。
中期
中期ではトラブルが表面化します。
二日酔いの朝の手の震えや恐怖感など、お酒が切れると出る離脱症状を治すため、迎え酒をするようになります。
お酒が原因の病気や怪我、遅刻や欠勤、不注意や判断ミス、飲酒運転での検挙などが繰り返されるようになります。
家庭内や職場でのトラブルが多くなります。
末期
末期では生活が破綻します。
アルコールが切れるとうつ状態や不安に襲われるため飲まざるを得ない状態になります。幻覚症状が現れたり、肝臓やその他の病気が悪化し仕事や日常生活が困難になったりします。
家族や仕事、社会的信用を失い、最後は死に至ります。
アルコール依存症の原因は?
アルコール依存症の危険因子として、
・女性の方が、男性よりも短い期間で発症すること
・未成年から飲酒を始めると、発症しやすいこと
・遺伝や家庭環境が危険性を高めること
・家族や友人のお酒に対する態度や地域の環境が未成年者に影響を及ぼすこと
・うつ病や不安障害などの精神疾患を患っていることは発症因子であること
が知られています。
アルコール依存症は男女関係なくみられ、男性の方が多い傾向にありますが、女性の方が同じ飲酒量でも血中濃度が高くなりやすいこと、女性の方が男性より飲酒による肝障害やうつなどの合併症を起こしやすいためアルコール依存症として問題が表面化することが多いといわれます。
また、生まれる前の段階(胎児期)にお母さんがお酒を飲んでいた場合、成長期や成人後にアルコールの問題が発生する危険を高めます。
アルコール依存症の親を持つ人は、そうでない人と比べ発症確率が4倍高くなります。
発症原因の半数は遺伝といわれていますが、アルコール依存症の親の飲酒に対する態度や家族間の関係が希薄であることなどの環境も関連するようです。
アルコール依存症の検査法は?
アルコール依存症の診断は、WHOによる診断基準を用います。次の6項目のうち3項目が当てはまれば依存症と診断されます。
①強迫的飲酒欲求
飲みたいという強い欲求がわき起こる
②コントロール障害
飲酒の開始や終了、量をコントロールできない
③離脱症状
飲酒を中止したり減量した時にイライラしたり、手が震える
④耐性
かつてと同じ量では酔わなくなる、酔うためにより多く飲む
⑤飲酒中心の生活
飲んでいる時間や酔いを冷ます時間が増え、それ以外の楽しみを無視する
⑥有害な結果が起きてもやめられない
肝機能障害や認知機能障害など有害な結果が起きているのにもかかわらず、飲酒をやめられない
受診の際には、家族も同席することになると思いますが、飲酒歴について事前によく思い返してメモを取っていくと、スムーズに答えられるでしょう。
アルコール依存症の治療方法
アルコール依存症の治療は、お酒を飲みたいという欲求を抑えられない精神依存、お酒をやめるとイライラするなどの身体依存、これらの依存から回復し、身体の健康を取り戻すものです。
まず、この症状が病気であることを本人がしっかりと認識し、断酒を開始、離脱症状やその他の臓器障害や精神障害の治療を行い、飲酒に対する考え方や行動を見直す精神療法を受けます。
多くの場合、入院治療が選択されます。
アルコール依存症の治療は、断酒、つまりお酒を一滴も飲まないことです。
再発しやすく完治が難しい病気ですので、定期的に医療機関を受診する、自助グループに参加し、仲間と一緒に断酒をすることが治療への大きな力になることでしょう。
アルコール依存症の予防方法
アルコール依存症にならないためには、適量の飲酒を心がけ、休肝日を週2日以上作りましょう。アルコール依存症の恐ろしさを知ることや、なぜなってしまうかなどの知識を持つことも大切です。
適正な飲酒量を普段から心がけましょう。「男性では1日20グラム以内、女性で1日に10グラム以内の飲酒」が適正な飲酒量です。
アルコール20グラムは、ビール中瓶500ml、日本酒1合180ml、ワイングラス2杯240ml、焼酎25度100ml、ウイスキー1杯60ml程度に相当します。
アルコール依存の成れの果ては?疾患を放置することの危険性
アルコール依存症が進行すると、脳や肝臓、消化器など身体のいろんな部分が病気になっていきます。放置すると死に至るものもあり、早急に治療を開始することが大切です。
脳の状態
アルコールには脳の神経細胞を壊す作用もあるため、記憶障害などの認知症を起こしていることも有ります。
アルコールを大量摂取すると脳が萎縮します。依存症の人では若年者のうちから萎縮が認められることから、アルコールは脳の老化を促進するといわれています。
また、高い頻度で認知症の症状が現れます。アルコールによってビタミンの吸収が悪くなりビタミン不足に陥ると、ウェルニッケ脳症を発症します。ウェルニッケ脳症は、意識が朦朧としたりまっすぐ歩けなくなったり、記憶障害が出たりします。
アルコールによって血圧が高くなるので、脳卒中のリスクも高まります。
アルコールによる脳障害は、重症になる前であれば早めの治療と断酒により回復が期待できます。
脳の回復する速度はゆっくりなので、焦らず諦めないことが大切です。
脳の回復のためには断酒のほか、運動したり読書したり人と話すなど脳を活性化させ、健康な生活を送ることが大切です。
身体の状態
お酒の飲み過ぎにより、肝臓が悪くなり肝炎になります。
中枢神経、末梢神経、心臓、骨、筋肉、消化管など様々な臓器がお酒によりダメージを受けます。痛風や糖尿病にもかかりやすくなります。
さらに、病気が進行すると肝硬変、不整脈、がん、慢性膵炎などになる可能性が高まります。
肝硬変まで進行すると治療は困難です。そこまで進行する前に断酒する方がいいでしょう。
また、アルコール自体に発がん性があり、飲酒は口腔・咽頭・喉頭・食道・肝臓・乳房などのガンの原因になります。
周りの人がアルコール依存症になったら?
周りの人がアルコール依存症になったら、どうしたらいいのでしょうか。お酒を控えるようにアドバイスしても聞き入れてもらえないこともあるでしょう。そんな時はどうしたらいいかご紹介します。
患者本人に自覚させることは可能?
アルコール依存症は「否認の病気」とも言われ、本人が自分の飲酒問題を自覚せず、周囲に対して頑なに治療を拒む傾向があります。
まず本人をなんとかしなくては、と思う前に、自分で気になることや不安に思っていることを精神保健福祉センターや専門病院での専門相談で話してみることをお勧めします。
専門相談では飲酒の病気に関する知識、患者への接し方や飲酒問題の対処法を学ぶことができます。
嫌がる人に治療を勧めるにはタイミングや準備が必要です。
「かかりつけ医に専門医療機関で治療しましょうという紹介状を書いてもらう」
「本人の飲酒問題に関係する人や、本人に影響力のある人に集まってもらい集団で説得していく」
などの方法が考えられます。
また、断酒会など依存者本人や家族の経験が蓄積されている自助グループというものがあるので、参加を検討してみましょう。
患者本人にとってもアルコール依存症は苦しいもので、実は本人も現状をどうにかしなければと思っているのに、飲酒欲求に負けて飲酒を正当化してしまい、攻撃的になったり、治療に消極的になったりする傾向にあります。
お酒が切れた時の離脱症状は辛いものであるため、この苦しい時にこそ、病院に行こうと背中を押すチャンスにするといいでしょう。
患者へは強制的、高圧的な態度でのぞまないで接するようにしましょう。また、泥酔して嘔吐したりした後片付けをするような尻拭いは、依存症を悪化させる原因になりかねません。患者さん本人に問題を自覚してもらうため、我慢して見守ることも必要です。
簡易チェック!アルコール依存症患者の特徴的な顔つきや行動
アルコール依存症になると、身体的精神的な変化がみられます。
進行すると、職場や家族との関係も悪化し、信用を失い、ストレスを溜めて酒に逃げるようになります。
本人は、いろいろな問題があることを感じていても、自分では飲酒をコントロールできない状態です。
・顔や体が黄色くなっていませんか?
・飲酒のせいで遅刻や欠勤をした、頭が働かず効率が落ちた、朝に酒の匂いを指摘された、などのエピソードはありませんか?
・「自分はアルコール依存症ではない」「やめようと思えばいつでもやめられる」と否認する発言は、多くありませんか?
当てはまった場合には、前述したアルコール依存症の診断基準も参考にしてみましょう。
家族・友人がとるべき対応、サポート
アルコール依存症のご家族や周りの人によくみられるのが、問題を過小評価したり、飲酒の結果生じた問題を家族が処理したり隠そうとしてしまうことです。
家族や周りの人は、アルコール依存症が病気であることを正しく理解し、本人との接し方について専門家や自助グループなどで相談していただくのが良いでしょう。
相談窓口としては、自助グループには全日本断酒連盟、アラノンジャパンなどがあります。専門の機関については、精神保健福祉センターや保健所に問い合わせれば地域の専門医療機関に関する情報を得ることができます。
飲酒・酩酊時は交通事故や転落・転倒、溺水、凍死、吐物吸引などの事故が起きる可能性があります。
飲酒運転は死亡事故につながる危険性が非常に高いので、絶対に止めましょう。
酩酊すると足元がふらつき、注意力が散漫になり転倒や転落が起こりやすくなります。階段や電車のホームからの転落は死亡する事例も多く見られるため注意しましょう。
屋外で眠り込むなど、飲酒後に寒いところに長時間いると低体温になりやすく凍死の可能性があります。
吐いたものを吸引すると窒息するので、横に寝かせることが大切です。
意識障害などが現れた場合は救急車を呼びましょう。命に関わる可能性があります。
アルコール依存症患者からのハラスメント
飲酒による暴言・暴力やセクハラなどの迷惑行為は、アルハラと呼ばれており、家庭内だけでなく社会や職場などでも問題視されています。家庭内暴力や児童虐待、高齢者虐待、暴言、飲酒運転、事故、触法行為、借金、仕事や人間関係のトラブル、経済的暴力、性的暴力などが想定されます。
もし、自身に危害が加えられそうな場合は早急に対処しましょう。保健所や精神保健福祉センター、精神科医療機関などに相談し、緊急性が高い場合は警察を呼びましょう。
アルコール依存症は患者本人も苦しいですが、周りの人も飲酒の結果の問題の対処やアルハラにより疲弊し、心身の健康を損なう可能性もあります。精神的・身体的に健康上の問題が現れそうであれば、対応を考える必要があるでしょう。
周囲の人がアルコール依存症患者による言動に悩んでいる場合は、専門の機関に相談することを勧めましょう。保健所、精神保健福祉センター、自助グループやリハビリ施設などがあります。
まとめ
アルコール依存症は飲酒のコントロールができず、精神・身体的に悪影響を及ぼし死に至ることもあります。周りの人も飲酒の問題の対処に追われ疲弊してしまいます。
アルコール依存症は一人での治療は困難です。専門の機関に相談し、家族や周りの人と協力し治療に取り組むことをお勧めします。