せん妄の症状や原因、治療法とは?
せん妄とはどんな病気なのでしょうか?その原因や、主にみられる症状、一般的な治療方法などについて、医療機関や学会が発信している情報と、専門家であるドクターのコメントをまじえつつ、Medical DOC編集部よりお届けします。
この記事の監修ドクター:
村上 友太 医師(東京予防クリニック)
目次 -INDEX-
せん妄とは
せん妄とは、病気や薬の使用、環境変化などを原因として急に発症する一時的な精神症状のことをいいます。
高齢者や、入院治療患者、特に集中治療室や大手術後など重症疾患の治療中である場合に、多く認められます。
全入院患者の10−30%、入院高齢患者の10−40%、入院癌患者の25%、術後患者の51%、終末期患者の80%にせん妄が現れる、といわれるほど頻度の高い症状です。
数時間〜数日間という短期間に発症し、認知機能障害や妄想、気分の浮き沈みなどの症状がみられます。
どんな症状が現れるの?
高齢の入院患者さんの手術治療後の状況で具体例を挙げます。
・急におかしなことを言う
手術翌日の病室で「ここはお隣さんの家だからもう自宅に帰る」と焦る
・幻覚がある
「病室に誰かいて見張っている、天井にクモがたくさんいる!」と心配している
・興奮して安静が保てない
点滴を自分で抜いてしまう、ベッドから降りてしまう、落ち着きがない
残念ながら、このような状況は、病院内でしばしば遭遇します。
せん妄の本態は意識の障害ですが、注意の障害、睡眠覚醒リズムの障害、思考の障害が中心となる症状です。
注意の障害とは、物事に注意を払うことができなくなることです。
睡眠覚醒リズムの障害とは、不眠や、生活のリズムの昼夜逆転、起きていてもボーッとして寝ぼけている、睡眠中の落ち着きのなさがみられます。
思考の障害とは、考えにまとまりがない、妄想、幻覚などです。
また、日時や自分の居場所が分からなくなり、認知症と似た症状がみられます。記憶を留めておくことが難しくなる、計算できなくなる、昼夜逆転する、など多彩な精神症状が生じます。
上に記載した具体例は、過活動型のせん妄であり、興奮、幻覚、妄想などが主にみられるタイプです。
一方、低活動型は、眠りがち、呼びかけへの反応が乏しい、無気力という症状がみられます。
なお、どちらの症状もみられる混合型もあります。
一般的にいわれているすべての症状が出現するかどうかや、症状の程度は患者さんによって異なります。
せん妄の原因は?
せん妄の原因は、各種の病気、外科手術を受ける、睡眠薬を内服するなどが引き金になりますが、特定の原因があるわけではなく、自宅でも入院中でも起こりえます。
若年者もせん妄になる可能性がありますが、高齢者の場合はより注意が必要です。
なぜなら、高齢者の場合には、一般的な量の睡眠薬を服用することや軽症での入院であっても、せん妄を発症しやすいからです。
せん妄を起こしやすい環境要因として、集中治療室に入院しアラーム音などの機械音が常時なる、個室での入院で人との会話がなく無音が多い、補聴器が合わないために難聴が改善されず外部からの情報が入らない、などがせん妄の発生を助長します。
せん妄の検査法は?
身体診察や病歴、臨床検査所見などから総合的に診断します。
身体診察では、注意や意識の障害があるかどうか、といった精神症状などを含めて評価を行います。
また、病歴・病状の確認、生活環境や既往歴、服薬内容、基礎疾患などの評価を行います。
画像検査や血液検査などの検査を行って評価します。
せん妄の治療方法
せん妄は、せん妄を引き起こしている原因を取り除くことが治療のひとつであり、それが出来れば自然に改善します。
せん妄を引き起こしている原因が、患者の身体的原因(病気など)か、周囲環境か、内服する薬剤やアルコールなどか、十分に検討することが大切です。
せん妄症状により、患者さん自身や周囲に危険が及ぶ場合には、原因除去に加えて、その症状に対しての対症療法を行います。
せん妄に対する保険適応のある薬剤は、1種類(チアプリド)のみですが、入院治療の場合には、経験的にいくつかの抗精神病薬を使用して治療します。
入院の場合は、環境の変化に影響される場合が多いので、早期に退院できるような治療計画を立てることや、できるだけ普段の生活リズムに近づける努力をします。
せん妄の予防方法
せん妄の予防は、せん妄を引き起こす原因を理解し、あらかじめ除去しておくことです。
日々の食事を3食しっかりと摂ることで生活リズムをつけ、お酒の飲みすぎや夜更かしなどを避けて、健康的な生活を心がけましょう。
高齢者では、せん妄を起こす可能性のある薬剤(睡眠薬など)をむやみに内服しないことも重要です。医師とよく相談しましょう。
入院中はせん妄のリスクは高くなります。
治療の過程で避けようのないことも多いですが、患者の不安を取り除く声かけ、不要なモニターを取り外す、部屋移動などを患者に合わせて行う、などせん妄リスクを認知して取り除く努力をしています。
認知症との違いは?
認知症とせん妄は類似する疾患であり、初見では判断が付きにくいことも少なくありません。
特に、認知症患者にせん妄症状が出現した際には、現在の症状がどちらによるものかは医師でも判断に困る場合があります。
認知症は、基本的には慢性経過で、発症初期から日時など時に関する見当識は障害されやすいのですが、場所に関する見当識は保たれます。
認知症と比較して、せん妄は、急性発症であり、初期から場所の見当識も障害されることが多いです。
認知症は、後天的な脳の不可逆性障害による認知機能の低下ですが、せん妄は、一時的な精神症状であり回復が見込めるため、大きな違いがあります。
せん妄による意識障害や見当識障害は、原因を取り除けば自然軽快が見込め、その間の興奮などの症状に対しては、対症療法をします。
せん妄と癌(がん)との関係は?
がん患者がせん妄を発症しやすいということは、よく知られています。
がん患者のせん妄は、がん特有の症候が関係していることが多く、また、がんという疾患の特性から原因を取り除くことは容易ではありません。
そのため、がん患者に発症するせん妄に対しては、一般的なせん妄と比較し、がんの特性をよく理解したうえでの対応が必要です。
周りの人がせん妄になったら?
がん患者がせん妄になった場合は、がんの特性をよく理解して対応しましょう。
がんによる高カルシウム血症が原因である場合、がん性疼痛のために使用するオピオイドが原因と考えられる場合、などが考えられますが、取り除くことが困難な原因も多くあります。
また、終末期患者のせん妄症状は改善しないまま亡くなる可能性もあるということは、サポートする家族として認識すべきことだと考えます。
家族がとるべき対応、サポート
また、その際に一番つらいのは患者本人ですが、周囲で支える家族にも大きな負担がかかります。
その中でも家族や周囲の人にできるサポートとして以下のようなものがありますので参考にしてください。
・会話を工夫
せん妄には症状の変動があり、時に会話がちぐはぐになることもあります。その際、否定や指摘をせず、患者が穏やかでいられるような会話を心がけてください。
・環境を工夫
周囲環境が変わるとせん妄になりやすいため、自宅やベッドにいる時間が長くなればなるほど、スムーズに活動できる動線を確保し、家具の配置などは変えないようにしてください。
・できるだけ付き添う
がんの終末期では意識混濁、せん妄が出現し落ち着かなくなることもあります。
しかし、家族が付き添うことで、家族の顔や声が患者を安心させ落ち着かせることが出来ます。
これは、医療者や薬には期待できず、家族のみに期待できることです。
せん妄患者の看護について
患者が抱える直接的な原因は取り除けないとしても、認知症・高齢などのハイリスク患者をピックアップし、せん妄を助長させるような要因に注意を払いましょう。
便秘や過度な安静が続いていないか、ベッド周囲の環境(モニター音、無音)は今の病状にふさわしい状態かを確認しましょう。
また、食事提供などで生活リズムをつけることや、時間をコミュニケーションに取り入れるなど見当識を意識させるような声かけも大切です。
不眠に対してむやみにベンゾジアゼピン系睡眠薬を使用することはさけ、適切な照明環境を整える、日中の離床を促進するなど、睡眠覚醒サイクルを保つ工夫も必要になります。
まとめ
せん妄は、誰しもなる可能性がある病気ですが、適切な対応をすれば、早期の改善が望めます。
身近な方がせん妄になると、その症状によっては驚くことも少なくありませんが、しっかりと知識をつけて適切に対応していきましょう。