「歯が抜け落ちて困っている」「入れ歯の使用感があまりよくない」このような悩みをもっている方は、一度はインプラント治療を考えたことがあるのではないでしょうか。
インプラント治療は、歯を失った顎の骨にチタン製の人工歯根を埋め込み、それを土台としてセラミックの人工歯を取り付ける治療法です。
入れ歯と異なる点として、まるで自分の歯のような感覚で物を食べられ、自然な見た目と高い耐久性が特徴です。
一見聞こえの良いインプラント治療ですが、メリットの裏にリスクや副作用の危険性が隠れています。そこで本記事では以下について詳しく解説していきます。
- インプラント治療のリスクや副作用
- インプラント治療のリスクを高める要因
- 安心してインプラント治療を受けるためのポイント
これからインプラント治療を受けるか悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
目次 -INDEX-
インプラント治療のリスク
インプラント治療は、日本に導入されてからまだ40年ほどしか経っておらず、数多くある歯科治療の中では比較的新しい治療法になります。そのため、手術に伴うリスクがゼロではありません。
また、手術中だけでなく手術後にも問題が起こる可能性があるため注意が必要です。
インプラント治療には以下の4つのリスクがあります。
- 上顎に穴が開く
- 神経や血管を傷つける恐れがある
- 金属アレルギー反応
- 見た目が悪くなる
それぞれ詳しくみていきましょう。
上顎の臼歯部分にインプラントを埋め込む際に、歯周病や加齢が原因で顎の骨が不足していると、上顎洞に穴が開くリスクがあります。
開いた穴にインプラントや手術器具が落ちることがあり、回収が不可能な場合は上顎洞前壁を開いて回収しなければいけません。
上顎に穴が開くリスクは、骨造成とよばれる骨の量や厚みを増やす手術で回避できます。
しかし、骨造成には高い技術が必要になるため、信頼できる歯科医師を選ぶことが大切です。
インプラント治療では、神経や血管を傷つけるリスクもあります。下顎には下顎管とよばれる神経が通っており、下顎臼歯の周辺に手術をする際に下顎管を傷つけやすいといわれています。
神経や血管は一度損傷すると、回復に長期の期間が必要です。場合によっては、唇・舌・歯ぐきなどの感覚が麻痺してしまうケースもあります。
そのため、手術前の検査でCTスキャンを使い神経の位置を確認したうえで、インプラントを埋め込む場所や角度に注意しなければいけません。
インプラント治療に使われる人工歯根の多くは、チタン製の物が使われています。
チタンは人体と相性がよくイオン化しにくいため、金属アレルギーのリスクは低いといわれていますが、完全に症状が出ないわけではありません。
金属製のアクセサリーを身につけた際にかゆみや赤みなどの症状が現れる方は、事前に金属アレルギーのパッチテストを受けましょう。
インプラント治療を行った際に、見た目が悪くなるケースが多いといわれています。特に前歯のインプラント治療で起こりやすいようです。
治療前に長期間治療をしていない、または入れ歯をしていた期間が長い場合、外的刺激を受けなかった顎の骨は徐々に痩せて下がっていきます。
その結果、インプラント後の歯が長く見えてしまったり、金属の歯根部分が透けてしまったりといった見た目の問題が発生してしまいます。
一度痩せて下がってしまった顎の骨は、骨造成によって補強できる可能性があるため、確かな実績のある歯科医師に治療をしてもらいましょう。
インプラント周囲炎を起こすリスク
インプラント周囲炎とは、歯周病と同じく細菌感染症の一種です。主な原因は歯垢(プラーク)であり、インプラント周囲に食べカスやみがき残しが溜まることで、炎症が起こってしまいます。
インプラント周囲炎は、症状が進行すると歯ぐきが腫れ、出血しやすくなります。また、天然歯に比べインプラントは炎症への抵抗力が低いため、細菌感染症の進行速度が早いです。
インプラントを支える歯槽骨が炎症によって破壊されるとインプラントがグラつき、最終的には抜け落ちてしまう事態になりかねません。
さらに、自覚症状が少ないため気づいたときには重症化しているケースもあります。
軽度のインプラント歯周炎の治療方法としては、PMTCとよばれる専用の機器とフッ化物入り研磨剤を使って歯の表面を研磨して歯石を取る治療法があります。
重度のインプラント歯周炎の場合は、表面だけでなく歯周組織の内部にまで炎症が広がっているため、歯ぐきを切開して炎症組織の除去する外科的処置が必要です。
せっかく埋め込んだインプラントを無駄にしないためにも、毎日の歯みがきや歯科医院での定期メンテナンスは欠かさず行うようにしましょう。
インプラント治療で考えられる副作用
ここからは、インプラント治療で考えられる以下の2つの副作用について解説します。
- 感染症
- 副鼻腔炎・蓄膿症
手術時に起こる症状と手術後の対処によって引き起こされる症状があるため、それぞれの特徴と予防法をしっかりと確認しておきましょう。
インプラント治療が適切であっても、手術後のケアや定期メインテナンスを怠ってしまうと、歯垢が溜まり口内環境の悪化につながります。
その結果、インプラント周囲炎などの感染症を引き起こすリスクが高まるでしょう。
具体的には、手術の患部を舌や指で触るといった行為は傷口から細菌が入ってしまい、感染症につながる恐れがあります。
歯みがきの際のみがき残しや患部に強い刺激を与えることも細菌感染のリスクを高める要因となります。
中には、長期間同じ歯ブラシを使用している方もいるのではないでしょうか。歯ブラシは消耗品のため、使うごとに毛先が広がり汚れの除去力が落ちていきます。
そのため、歯をみがいたつもりでも、実際は歯の間の食べカスなどの汚れが取り切れていないケースがあるのです。
歯みがきは毎日行う重要なセルフケアの一つです。歯ブラシは、1ヵ月に1回の交換を目安に古い歯ブラシを使わないようにしましょう。
また、感染症を引き起こすリスクは患者側だけでなく、歯科医院側にもある可能性があります。その理由として、器具の正しい消毒・殺菌による感染対策が挙げられます。
しっかりと感染対策が行われていない場合、他の患者さんの感染症を移されてしまうからです。
そのため、インプラント治療を受ける際は医師の技量だけでなく、歯科医院の感染対策にも気を配って選ぶようにしましょう。
上顎周辺にインプラントを埋め込む際に、副鼻腔炎や蓄膿症といった副作用が出ることがあります。
上顎骨には上顎洞とよばれる空洞があり、埋め込んだインプラントが上顎骨を貫通して上顎洞に達することで細菌が入り込んでしまい、炎症を引き起こしてしまいます。
その結果、副鼻腔炎や蓄膿症になるリスクが高まるというわけです。
インプラント治療の中には、骨の量を補うために意図的に上顎洞を持ち上げて補填材料を入れる「ソケットリフト」とよばれる骨造成法があります。
この手術も上顎洞を貫通する恐れがあるため、手術を受ける際は注意してください。
インプラント治療のリスクを高める要因は?
インプラント治療のリスクを高める要因は、患者側の普段の生活に起因するものが多いです。
その代表的な例は以下の2つです。
- 喫煙
- 顎の骨の厚み不足
以下で詳しくご紹介します。
喫煙が日々の習慣になっている方も多いのではないでしょうか。喫煙は、インプラント治療のリスクを高める要因となります。
タバコに含まれるニコチンは、毛細血管を縮小させ、身体の血液循環の流れを低下させます。
加えて、血液循環の悪化はインプラント治療後の骨の再生力の低下にもつながるでしょう。
また、血流の減少は唾液の分泌量を低下させます。その結果、口内が乾燥し細菌が繁殖しやすい環境となるため、インプラント周囲炎のリスクも同時に高まってしまいます。
喫煙は骨の結合力の低下だけでなく、感染症のリスクにもつながっていることは覚えておきましょう。
インプラント治療を行った際に、埋め込んだインプラントが顎の骨とうまく結合せずに抜け落ちてしまうケースがあります。この要因として挙げられるのが、顎の骨の厚み不足です。
顎の骨の厚みが不足する原因の多くは、口内の感染症によって顎の骨が溶けてしまっている状態です。
しかし、顎の骨密度は手術前のCTスキャンによる検査で確認できます。
手術後にインプラントが抜け落ちてしまうことや、噛み合わせが悪いといった事態を避けるためにも、事前に顎の骨密度は正確に把握しておきましょう。
持病もインプラント治療のリスクに関わる
インプラント治療を受ける際には、全身疾患などの持病をもっている方もインプラント治療のリスクに関わってきます。
特にインプラント治療のリスクが大きい2つの持病をご紹介します。
- 心臓病
- 糖尿病
心臓病を含む心疾患をもっている方は、インプラント治療を受ける際には注意が必要です。
過去に心筋梗塞を発症した場合、血行の流れを改善する薬を服用しますが、血行をよくする薬の効果により手術時の出血が止まらなくなるケースがあります。
そのため、インプラント治療の前後は薬の服用を中断しなければいけません。しかし、薬の服用を止めたことで心筋梗塞のリスクが上がってしまうため、治療には慎重な判断と治療計画が求められます。
また、手術により心臓病が発症するリスクを上げてしまう可能性もあります。
したがって、心筋梗塞などの心臓病の発症から6ヵ月以上経過後、かかりつけの医師から了承を得られた場合のみインプラント治療を受けられます。
糖尿病は、手術中と手術後の骨結合に対する2種類のリスクが考えられます。
糖尿病の方には、手術前に血糖値を下げる薬が投与されますが、治療のストレスや治療後の食事制限により血糖値が規定値より急激に低下してしまう場合があるため、注意が必要です。
対して、高血糖が続くと身体の組織や細胞に酸素が行き渡りにくくなり、術後の感染症のリスクが高まってしまうのです。
また、高血糖の状態は軟骨細胞の機能が低下してしまうため、インプラントと顎の骨がうまく結合されないといったリスクもあります。
上記の他にも、骨粗しょう症や貧血などの方はインプラント治療にリスクがあるため注意が必要です。
骨粗しょう症は骨密度が低く、骨の質が劣化していることからインプラントを埋め込む際に、顎の骨との結合がうまくいかないといったリスクが考えられます。
また、骨粗しょう症の治療薬としてビスフォスフォネート系の薬剤を服用している場合は、骸骨壊死のリスクも伴うため、事前にかかりつけの歯科医師に伝えるようにしてください。
貧血は、細胞内の酸素が不足するため骨結合に加え、治癒速度にも影響が出ます。免疫力の低下から手術後のインプラント周囲炎のリスクがも高まるでしょう。
また、血液中のヘモグロビンの数値が10g/dl未満の場合は、貧血の改善を待ってからの治療となるため注意してください。
安心してインプラント治療を受けるためのポイント
インプラント治療で失敗しないためにも、どの歯科医院を選ぶかが重要です。しかし、数多くある歯科医院の中から自分に合った場所を見つけるのは困難です。
そこで、安心してインプラント治療を受けられる歯科医院を選ぶポイントを2つご紹介します。
- CTを使った治療計画を立てる
- インプラントの実績が多い歯科医院を選ぶ
ご自身の症状に合った歯科医院をみつけるための参考にしてください。
安心してインプラント治療を受けるためには、CTスキャンを使って骨の状態を適切に把握して治療計画を立ててくれる歯科医院を選びましょう。
CTスキャンを使用せずに治療を行ってしまうと、顎の骨密度が足りずにインプラントとうまく結合しないといったケースや、上顎骨を貫通してしまうといったトラブルを事前に回避できます。
また撮影したCTスキャンのデータをコンピューターに取り込み、手術のシミュレーションを行う歯科医院もあり、より安全なインプラント治療を受けられるでしょう。
歯科医院選びで重要視する点としては、手術前に安全にインプラント治療が受けられるかをCTを使って判断してくれる歯科医院を選んでください。
インプラント治療を受ける歯科医院を選ぶうえで、インプラントの実績が豊富かどうかも重要なポイントです。
インプラント治療の中には高度な技術が要求されるものもあり、リスクが伴う治療です。成功実績が豊富で、技術力も高ければ安心して治療を任せられます。
また、上記の他にも衛生管理やアフターケアなどについても確認しておきたいポイントです。
治療器具が清潔に保たれていない状態では、他の患者から感染症を移されるリスクがあります。そのため、感染対策がしっかりとされているか確認しておきましょう。
インプラント治療は、埋め込んで終わりではなく、治療後のメインテナンスによって術後の経過を観察することが大切です。
万が一、嚙み合わせが悪いといったトラブルにもすぐに対応してくれるようアフターケアが充実した歯科医院を選ぶようにしましょう。
編集部まとめ
インプラント治療のリスクや副作用について解説しました。インプラント治療のリスクや副作用について改めて確認しておきましょう。
インプラント治療のリスクは以下の4つです。
- 歯周病や加齢が原因で上顎に穴が開く
- 神経や血管を傷つける恐れがある
- 人によっては金属アレルギー反応が出る場合もある
- 骨密度の低下により見た目が悪くなる恐れがある
インプラント治療の副作用は以下になります。
- 術後のメインテナンス不足によるインプラント歯周炎にかかる恐れがある
- 上顎骨を貫通してしまった場合、副鼻腔炎・蓄膿症のリスクがある
また、インプラント治療は心臓病や糖尿病などの疾患をもっている方や手術には部分麻酔を行うため、妊娠している方には適していないため注意してください。
安心してインプラント治療を受けるためには、以下の点を重要視して歯科医院を選びましょう。
- CTスキャンを使用して顎の骨密度を適切に把握し、治療計画を立ててくれる
- インプラント治療の実績が豊富
- 感染対策がしっかりとされている
- 術後のアフターケアが充実している
また、インプラントを含む見た目や物を噛む機能の向上が目的とされる治療は原則、保険適応外の自由治療となります。
しかし、以下に該当する場合は保険が適応されるため、確認しておきましょう。
- 生まれつき3分の1以上の歯が欠損している
- 事故などの外傷により歯が欠損した場合
- 腫瘍や顎骨骨髄炎によって顎の骨が欠損した場合
本記事が、これからインプラント治療を受ける方の参考になれば幸いです。
参考文献
- インプラント 歯を失ったら|歯とお口のことなら何でもわかる テーマパーク8020
- インプラント治療|神戸大学医学部附属病院 歯科口腔外科
- 歯科インプラント治療指針|厚生労働省
- 歯周病患者におけるインプラント治療の指針|特定非営利活動法人 日本歯周病学会
参考URL