差し歯と聞くと、どのようなイメージを思い浮かべますか?読んで字のごとく、歯を歯茎にさすものと思っている方もいらっしゃるかもしれませんね。本記事では、差し歯(クラウン)の正しい知識をお伝えしつつ、近年人気のセラミック素材を用いた差し歯について詳しく解説していきます。これから差し歯を検討している方、セラミック歯について知りたいと思っている方に役立つ情報となっていますので、ぜひチェックしてみてくださいね。
目次 -INDEX-
セラミックの差し歯(クラウン)について
まずはセラミックの差し歯について詳しく解説していきましょう。
差し歯(クラウン)とは
差し歯とは、むし歯などで削った歯を覆う人工の被せ物のことを指し、クラウンとも呼ばれます。なお、差し歯という言葉は俗称であり、歯科医療用語には含まれません。
歯の歯茎からうえの部分をむし歯などで失い、歯茎の中の根の部分だけが残っている状態(一見歯がないように見えます)の歯に、昔は歯冠継続歯という支台とかぶせ物が一体になったものを装着する治療を行っていました。そのため、歯がないところに歯を差し込んでできあがったように見え、差し歯と呼ばれたのでしょう。
現在の治療方法では、歯の根の治療を終えたうえに支台を立て、それからかぶせ物をするという2段階の工程を踏みます。昔でいう差し歯は、現代ではクラウン(冠)にあたります。
セラミックの差し歯の特徴
保険診療で提供される差し歯の素材には、プラスチックや銀歯がありますが、これらは天然歯のような色合いや質感を再現できません。また、耐久性に劣り、使用していると数年後に歯肉との間に黒ずみ(ブラックマージン)が発生することがあります。この黒ずみに悩む患者さんも多く見られます。
一方、自費診療で提供されるセラミックの差し歯は、天然歯のような自然な白さと優れた耐久性を持っています。なかでもオールセラミッククラウンは天然歯に近い色調を再現できます。
差し歯は単に真っ白であればよいというものではありません。患者さんの表情や歯並び、歯の大きさや色、歯肉の状態などを考慮し、その人に合った自然な色を作り出すことが重要です。
セラミックの差し歯の寿命
セラミックは陶器と同じもので、それを使った差し歯は、適切なケアとメンテナンスを行えば、とても長持ちすることが特徴です。一般的には10年から15年程度の耐久性が期待されますが、定期的な歯科検診と適切な口腔ケアを行うことで、20年以上使用できるケースもあります。
陶器のお皿をイメージするとわかるとおり、セラミック素材はとても硬く、摩耗に強いため、日常の食事や噛み合わせにおいても優れた耐久性を発揮します。また、セラミックは変色しにくく、天然歯のような美しい白さを長期間保つことができます。
ただし、セラミックも割れることがあるため、硬い物を噛む際には注意が必要です。
セラミックの差し歯の種類について
このように、差し歯の素材としてとても優れたセラミックにはいくつかの種類があります。それぞれの特徴を紹介します。
オールセラミック
オールセラミッククラウンは、白い陶製の材料であるセラミックのみを使った被せ物で、保険診療で使用される金属は一切含まれていません。そのため、審美性と機能性の両方を兼ね備えた選択肢として広く利用されています。
内側も外側も100%セラミックで作られているため、ほかのセラミッククラウンに比べても特に美しい仕上がりとなり、透明感と艶のある白さは長期間安定しています。
オールセラミッククラウンは特に、金属アレルギーを持つ方におすすめです。金属を一切使用していないため、アレルギーの心配がなく、安心して利用できます。
また、前歯の美しさにこだわりたい方にとっても適切です。オールセラミッククラウンの特徴である、限りなく天然歯に近い美しさは、前歯に使用したときによく感じられます。例えば、人工ダイヤモンドと呼ばれるジルコニアセラミックもオールセラミックの1つです。
ハイブリッドセラミック
ハイブリッドセラミックは、セラミックと歯科用プラスチックを混合した材料で作られています。審美性はオールセラミックに劣りますが、費用を抑えられるのがメリットです。
ただし、オールセラミッククラウン程の透明感や艶を再現することはできず、汚れが付きやすく長期間使用することで変色が起こりやすくなります。
治療の価格を抑えることを優先する場合は、ハイブリッドセラミックを検討するとよいでしょう。
メタルボンド
メタルボンドクラウンは、内側に金属を使用し耐久性を高めた被せ物です。外側にはセラミックを使用しているため高い審美性を維持しますが、内側に金属を使用しているため、金属アレルギーが心配な方にはおすすめできません。また、金属の溶け出しによる歯茎の変色も懸念されます。
さらに、内側の金属が透けてしまわないように、光を透過しにくいセラミックを使用することも注意点です。天然歯やオールセラミッククラウンのような透明感は期待できません。
このように、メタルボンドの強みは、金属フレームによる高い強度です。
セラミックを用いた差し歯の治療の流れ
オールセラミッククラウンは高価な素材を使用し、作製する際には手間や熟練した技術が必要となるため、治療費が多くかかります。また、硬い物を噛むなど強い力が加わると割れることがあるため、正しい診断や接着方法、使い方が重要です。ここでは、セラミック差し歯の治療から装着までの流れを紹介します。
カウンセリングと精密検査
まず、歯科医師とのカウンセリングを行い、患者さんの症状や希望を確認します。そのうえで、治療の内容や費用について詳しく説明します。 次に、レントゲンや口腔内の検査を行い、歯の状態を確認します。必要に応じて、むし歯や歯周病などの治療を行います。
歯の調整と仮歯の装着
オールセラミッククラウンを装着するためには、元の歯を削る必要があります。この際、慎重に削り、削りすぎないように注意します。使用する素材によって削り方が異なるのも特徴です。削った後、その歯の形状に合わせて仮歯を入れます。これにより、歯茎の状態や噛み合わせの問題がないかを確認します。
型取り
仮歯を装着後、経過に問題がなく歯茎の状態が安定していることを確認してから、型取りに移行します。精密な型取りのために、歯と歯茎の間に圧排糸という糸を挿入します。これは、歯茎と歯の外形をより明確にするための作業です。このとき、歯の外形の型取りに失敗すると、精度の悪い被せ物ができあがる可能性があり、将来的なリスクにつながるため、歯科医師の技術が重要です。
セラミックの差し歯の製作と装着
取得した型をもとに、歯科技工士がオールセラミッククラウンを製作します。オールセラミッククラウンは、歯の色や形状を考慮して慎重に作られるため、色調や外形には知識や熟練した技術が必要不可欠です。患者さんの希望や好みを反映させるために、担当の技工士との打ち合わせも重要です。気になることがあれば、事前に納得がいくまで話し合いましょう。オールセラミッククラウンが完成したら、形状や適合が悪くないかを確認し、問題がなければ装着します。噛み合わせの調整を行い、すべての問題がクリアになった場合に適切な接着処理を行い、クラウンを固定します。
セラミックの差し歯のケア方法
セラミッククラウンを少しでも長持ちさせるには、適切なケアが欠かせません。ここでは、その方法を紹介します。
継続した手入れ
セラミックは天然の歯よりも強度があるため、長期間使用していると歯ぎしりや食いしばりによって噛み合わせの歯に負担がかかり、割れたり欠けたりすることがあります。これを防ぐための一つの方法として、マウスピースの装着が挙げられます。マウスピースを装着することで、歯ぎしりや食いしばりを改善し、歯のダメージを防ぐことができます。
歯科医院での定期メンテナンス
セラミック治療後も、定期的に歯科医院で診察を受けることが重要です。定期的な診察では、噛み合わせの改善や歯の状態のチェックを行います。また、規則正しい生活を心がけ、睡眠の質を上げることも、セラミック歯の負担軽減につながります。さらに、歯科医師の技術力や治療方法によって見た目や持ちの良さが変わるため、信頼できる歯科医師の診断力と歯科技工士の技術力も重要なポイントです。適切なメンテナンスを続けることで、セラミッククラウンの美しさと機能性を長期間保つことができます。
セラミックの差し歯の費用について
セラミック差し歯を入れる場合、気になるのが費用です。ここでは、費用がどの程度必要かを解説します。
セラミックの差し歯の費用相場
セラミッククラウンは自由診療のため、治療費は歯科医院によって異なります。ここでは一般的な相場をご紹介します。
- ジルコニア:100,000円前後(審美性にこだわった製法の場合、1本150,000円程かかることもあります)
- オールセラミック:120,000円前後
- メタルボンド:70,000〜90,000円
セラミッククラウンを用いた治療は、むし歯や歯周病の治療に必ず用いるものではなく、あくまで見た目を良くするための治療です。そのため保険適用外となり、治療費は歯科医院によって異なります。
保険適用範囲と適用条件とは
2016年4月から、一部の条件を満たした場合に限り、ハイブリッドセラミックが保険適用となりました。特徴については上述したとおりで、セラミッククラウンと比べると劣る面もありますが、安価な費用で白い歯にすることが可能です。
また、2022年よりCAD/CAMインレーが保険で使用可能になりました。残存歯の状態によっては保険適用できないケースもありますが、現在では比較的多くの方に保険適用できるハイブリッドセラミックの詰め物があります。
セラミックの差し歯で治療する歯科医院選びのポイント
いざセラミックの差し歯にしたいと思ったら、どのような歯科医院を受診したらよいでしょうか。ここでは、よい歯科医院を選ぶためのポイントを紹介します。
わかりやすく丁寧に説明してくれるか
自費治療のセラミック治療は保険適用の治療と比較すると高額です。高額な料金には、材料の違いや検査、技術、人件費、工程の多さなど、さまざまな要因が含まれています。治療費が高すぎる、あるいは安すぎると感じた場合、不安や疑問を抱くことがあるでしょう。
その際には早い段階で相談してみましょう。誠実で真摯に向き合ってくれる歯科医院であれば、費用のことも含めて丁寧に説明してくれるはずです。
保証制度があるか
保証制度の有無は、歯科医院が患者さんの立場に立った医療を提供できているかを判断する指針となります。保証制度を設けられるということは、不具合が生じない自信があるともいえますね。逆に知識や技術、経験が不足している歯科医院では、保証制度を設けることが難しいケースがあると考えられるでしょう。また、治療費が安いからといって安心はできません。安すぎる治療費は質の低下を招く可能性が高く、適正な料金設定でないと品質が保証されない場合があるため、料金だけで判断するのは避けましょう。
治療経験が豊富かどうか
治療経験が豊富な歯科医院を選ぶこともポイントです。症例数があるということは、それだけ熟練の度合いが違うことを示します。数多の症例を経験している歯科医師は、さまざまな状況に対応できる技術と知識を持っています。さらに、高度な技術や知識があっても、それを発揮できる設備が整っていなければ提供できません。院内の衛生管理が徹底されており、設備が充実しているかもチェックポイントになるでしょう。
お口全体を診ることができるか
セラミック治療前や治療後に、むし歯や歯周病の治療が必要になることはあり、定期的なメンテナンスも欠かせません。口腔内全体の健康を考慮した治療ができる歯科医院を選ぶことが大切です。セラミック治療のみが優れている歯科医院よりも、口腔内全体の治療に精通している歯科医師を選ぶようにしましょう。
編集部まとめ
セラミックの差し歯は、見た目の美しさと高い耐久性を兼ね備えた優れた選択肢です。適切なケアを行えば、長期間にわたってその美しさを保つことができます。とはいえ長く美しい見た目をキープするには、よい歯科医院を選ぶこと、技術力のある技士としっかり打合せをし、術後のケア方法を確認することなども必要です。せっかく高いお金を出してセラミック差し歯を選ぶなら、事前にしっかりと知識を身に着けておき、納得したうえで新しい歯を手に入れたいですね。
参考文献