何らかの理由で歯がなくなったときに、その部分をひとまずは入れ歯で補うという選択をする方は多いと思います。
入れ歯の利用にはメリットだけではなくデメリットもあるため、治療の際にはその両方を理解して適切な方法を選ぶことが大切です。
この記事では入れ歯のデメリットやほかの治療法との違いなどについて詳しく解説いたします。
目次 -INDEX-
入れ歯とは?ブリッジやインプラントとの違いについて
入れ歯とは、簡単にいえば歯がなくなってしまったときに人工的な歯として利用する器具を指すものですが、なくなった歯を補うための方法としては、入れ歯を使用する以外にブリッジやインプラントという選択肢もあります。
まずは入れ歯やそれぞれの違いについて解説します。
部分入れ歯と総入れ歯
入れ歯と呼ばれるものは、大きくわけて部分入れ歯と総入れ歯にわかれます。
部分入れ歯というのはすべての歯ではなく一部の歯が欠損している際に使用するもので、一般的な入れ歯であれば、残っている歯にクラスプと呼ばれるバネをかける形で固定します。
一方の総入れ歯はすべての歯がない場合に使用するもので、残っている歯がないため、歯茎にのせて固定する形となっていますが、しっかりとした支えがないため安定させにくく、噛む力が部分入れ歯よりも弱くなります。
部分入れ歯を使用した場合の噛む力は天然歯の30~40%であるのに対し、総入れ歯の場合は10~20%になってしまうため、健康的な歯が少しでも残っている場合は部分入れ歯が推奨されることが多くなります。
部分入れ歯と総入れ歯では材質なども異なるため、洗浄方法など取り扱い方も変わります。
入れ歯とブリッジの違い
入れ歯と似た方法としてイメージしやすいものがブリッジです。
ブリッジも入れ歯と同じように、歯が欠損している所に差し込むものですが、入れ歯との違いは固定の方法で、ブリッジは歯が欠けている場所の両隣の歯を少し削り、その歯にかぶせるような形で使用する義歯です。
入れ歯は自分で簡単に取り外しができるようになっていて洗浄が容易に行えますが、ブリッジは簡単に取り外すことができず、健康な歯と同じように歯磨きでのケアを行います。
削った歯を支柱としてその形にあわせて固定するため部分入れ歯より安定感がある点や、金具などがない作りのため見た目にも優れているというメリットがありますが、一方で健康な歯を削る必要があり、削ってしまった歯は元の状態には戻らないため歯の寿命が短くなってしまう可能性がある点や、隙間に食べかすなどが入り込んでしまうとむし歯などのリスクが高くなるといった点がデメリットとなります。
また、歯が欠損している部分の両隣が健康な状態の歯でなければブリッジによる治療が行なえず、その場合は入れ歯やインプラントでの対応となります。
入れ歯とインプラントとの違い
インプラントとは、歯がなくなった場所の歯茎に人工歯根(インプラント)を埋め込み、その上にセラミックなどで作った人工歯をかぶせる方法です。
歯根まで再現されているため元々の自分の歯と同じ感覚で噛むことが可能で、見た目も自然な状態にしやすい治療方法です。
一方でインプラントは入れ歯と違い保険適用での治療が行なえず、手術による方法であるため費用負担が大きい点がデメリットといえます。
また、入れ歯は健康的な歯を支えとするため、言い換えれば健康な歯に負担をかけてしまう形となりますが、インプラントは独立した歯となるため、健康な歯をしっかり維持したいという場合にもインプラントの方が優れているといえるでしょう。
入れ歯の種類と特徴
入れ歯にはその素材などによってさまざまな種類があります。
主なものをご紹介します。
一般的な入れ歯
一般的によく利用される入れ歯は、保険適用での作成が可能なもので、プラスチック(レジン)で作られた歯と、ほかの歯にひっかける金属でできたバネによるものとなっています。
少ない費用負担で作ることができるというメリットがある一方で、プラスチックの歯は熱を感じにくいため食事の温度がわかりにくくなる点や、見た目に違和感が出やすい点、着色やすり減るスピードが早いため1~2年程度で作り替える必要がある点などがデメリットとなります。
また、保険適用での治療の場合は通院回数も制限されるため、しっかりとした調整が行いにくく、最初に入れ歯をはめたときの違和感や不快感が出やすいというデメリットもあります。
保険診療で入れ歯を作る場合の費用は保険の負担割合や欠損している本数にもよりますが数千円から一万数千円程度です。
ノンクラスプデンチャー
入れ歯を固定するバネをクラスプと呼びますが、ノンクラスプデンチャーはその名前のとおり、バネがない入れ歯です。
歯茎にかぶせるような形の土台に人工歯がついているような形状の入れ歯で、バネがないため見た目が自然で、土台に柔軟性があり、バネによる締め付けの痛みや不快感がないといった点がメリットの入れ歯となります。
一方で、強度がそこまで強くないため噛み合わせなどによっては壊れやすい点や、土台がやわらかいため安定感が弱く、健康なほかの歯や歯茎などへの負担が大きくなりやすいというデメリットがあります。
自費診療で作成する入れ歯のなかでは低価格な方となりますが、十数万円程度はかかるため、見た目をとにかく自然にしたいという方向けの入れ歯といえるでしょう。
マグネット義歯
マグネット義歯(マグネットデンチャー)とは、残っている歯の根に磁石を埋め込む手術を行い、入れ歯にも磁石を埋め込むことで、磁力によってぴったりと固定させる入れ歯です。
バネが不要なため見た目が自然になりやすく、安定感があって噛みやすい点や、取り外しなどのケアも簡単に行えるというメリットがあります。
一方のデメリットとしては歯根に金属が食い込んで割れてしまう可能性があることや修理が難しいこと、MRI検査の際などに注意が必要となることなどがあげられます。
なお、マグネット義歯は2022年に保険適用での利用が可能になった入れ歯で、神経を取り除いて根の治療を行い、根っこだけの歯がある場合に保険適用で治療を受けることができます。保険適用での治療が可能かどうかは歯科医師の診断が必要になるため、興味がある方はまず一度信頼できる歯科医院に相談してみるとよいでしょう。
保険適用の場合は一本あたり数千円程度で治療が受けられるため、安価で審美性にも優れた入れ歯として利用が可能といえます。
テレスコープ義歯
テレスコープ義歯はドイツ式義歯とも呼ばれるもので、ドイツでは特に盛んに使用されている方法の入れ歯といわれています。
テレスコープ義歯は入れ歯とブリッジの中間のようなイメージの方法で、入れ歯を固定するための歯を削って内冠と呼ばれるものをかぶせた状態にしておき、そこにぴったりはまる外冠と呼ばれる入れ歯をかぶせるというものです。
入れ歯をかぶせる際にはロックができるようになっていて、しっかりと安定感がありながら取り外しも簡単であり、見た目も自然というメリットが得られる入れ歯となっています。
一方で健康な歯を削る必要がある点や、日本国内でしっかりと対応している歯科医院が少ない点、自費診療のため高額になりやすく、数十万から百万を超えるような金額になるという点がデメリットといえるでしょう。
保険と自費はどちらの方がおすすめ?
入れ歯の作成において、一概に保険適用の方法と自費診療のどちらがよいかと言い切ることは困難ですが、しっかりと健康的な噛み合わせを維持しつつ費用を抑えたいという方であれば保険適用での治療が適しているといえるでしょう。
保険適用の治療はその効果やリスクの低さが十分に検証された方法であることは間違いないため、機能的な面のみで考えれば自費診療にこだわる必要はあまりないといえます。
しかし、一方でやはり保険適用の治療では見た目や食事の際の満足感、丈夫さといった点では不十分な点も多く、特に歯の材質がプラスチックのみが利用可能となるため、食事の温度を感じにくかったり、壊れやすく定期的な作り直しが必要であったりという点が気になる場合は自費診療の治療を検討した方がよいといえます。
見た目については2022年から保険適用となったマグネット義歯の利用が可能であれば自然なものを作りやすくなりますが、歯の根が残っていることなど適用となる条件が限定されるものであり、やはり自然な見た目を目指すのであればほとんどの場合で自費診療の入れ歯となるでしょう。
ここで紹介したもの以外にも入れ歯の種類はさまざまであり、それぞれにメリットやデメリットがあるため、最終的には信頼できる歯科医師とよく相談しながら、中長期的な視点で一番よい方法を選択することが大切です。
入れ歯のデメリット
入れ歯治療にはさまざまなデメリットもあります。
治療を受ける際にはこうしたデメリットも十分に理解し、ブリッジやインプラントなどほかの方法も含めてよりよい方法を選択するようにしましょう。
嚙む力が低下する
上述のとおり、部分入れ歯を使用した場合は本来の噛む力の30~40%、総入れ歯を使用した場合は10~20%程度しか発揮できないため、入れ歯を使用するようになると噛む力の低下により硬いものを食べることが困難になります。
これにより普段から噛み応えのある食事をとらなくなる場合が多く、やわらかいものを中心に食べる食習慣によって筋力も低下していくため、より噛む力が低下していってしまうという可能性が考えられます。
入れ歯はどの方法でも噛む力の低下を避けることができないため、自然の歯と同程度の咬合力を維持するのであればインプラントなどの治療を検討する必要があります。
周囲の歯に負担がかかる
入れ歯は周囲の歯に固定させて使用するため、ものを噛んだ際の負担が周囲の歯に分散してかかるようになります。
また、着用している間は固定するための器具による負担がかかり続けたり、器具の接触による刺激となるため、歯肉炎などのトラブルもできやすくなります。
マグネット義歯など入れ歯の種類によっては周囲の歯への負担がかかりにくい選択肢もあるので、欠損した歯のケアだけではなく、噛み合わせ全体のことを考えた治療を相談するとよいでしょう。
周囲からの見た目が気になる
一般的な入れ歯は金属製のバネを周囲の歯にかけて固定するため、見た目が不自然となり気になってしまう可能性が高く、1つのデメリットといえます。
また、保険診療での入れ歯については材質がプラスチックとなるため、質感がほかの歯と異なってしまいやすいでしょう。
ノンクラスプデンチャーのように審美性の高い入れ歯もありますが、自費診療のため高額になりやすい点や、噛み合わせという点では通常の入れ歯よりも低くなってしまう場合などがあるため、機能面と審美面の両方を加味して歯科医師と相談するようにしましょう。
食事の味や食感の変化
食事の際に味を感じる味覚(味蕾)は主に舌にあるため、食事の質は変化しないように思うかもしれませんが、実は味蕾は舌だけではなく上顎や頬といった箇所にもあるため、総入れ歯の使用によってこの部分が覆われてしまうと、味を薄く感じたり、いつもと違う味に感じてしまう状態になる可能性があります。
それ以外にも、噛む力の低下による咀嚼の変化によって食事を十分に細かくできなくなるため、これが味の違いにつながることも考えられます。
また、保険診療で作成が可能なプラスチックの歯の場合は天然の歯と比べて熱伝導性が低いため、熱さや冷たさを感じにくくなり、違和感が生じやすくなるといえます。
口臭の原因になる
入れ歯に食べかすなどが付着した状態を放置していると、細菌の繁殖などにより臭いの原因になることが考えられます。
人によっては入れ歯の形が複雑になり洗浄しにくい場合があるため、この場合は特に注意が必要となるでしょう。
入れ歯のパーツが口腔内の刺激となって炎症を引き起こしてしまうような場合にも、口臭が生じやすくなります。
また、入れ歯の素材によっては内部に水が入り込むなどして細菌が繁殖してしまう可能性があり、プラスチック製の場合などはこれに該当するため、しっかりとした日頃のケアが大切となります。
歯茎が痩せると作り直す必要がある
入れ歯は一度作れば必ず生涯使い続けられるというものではなく、加齢によって歯茎が痩せた場合など、口腔内の状況変化にあわせて作り直す必要があるというデメリットがあります。
入れ歯の種類によって調整が可能なものとそうでないものなどもありますので、入れ歯作成の際にはこうした長期的な視点を含めて適切な方法を検討するようにしましょう。
まとめ
入れ歯を含め、歯が欠損した際の治療法にはさまざまな種類があり、それぞれにメリットやデメリットがあります。
治療後に後悔しないために大切なのは、短期的な視点だけではなく中長期的な視点で治療法を選択することで、そのためにも継続してしっかりと治療の相談を行える、信頼できる歯科医院を見つけることが重要です。
入れ歯治療のデメリットもしっかりと理解して、適切な治療法を選択してくださいね。
参考文献