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インプラント上部構造の固定方法、スクリュー固定とは?メリット・デメリットや固定方法を選ぶポイントを解説

 公開日:2025/01/25

インプラントは、天然歯に近い見た目や噛み心地を再現できる補綴装置です。顎の骨にチタン製の人工歯根を埋め込み、セラミック製の上部構造を装着するため、一見すると本物の歯と思えるくらい審美性に優れています。

インプラントの上部構造には、スクリュー固定とセメント合着という2つの固定方法がありますが、2つの方法のうちどちらを選択するかによって、インプラント治療後のメンテナンスのしやすさやトラブルの起こりやすさが異なります。本記事では、スクリュー固定に焦点を当てて解説しますので、インプラントの固定方法で迷っている方は参考にしてみてください。

インプラント治療の基本構造

インプラント治療の基本構造 はじめに、インプラント治療の基本構造を確認しておきましょう。標準的なインプラントは、人工歯根に当たるインプラント体、人工歯である上部構造、それらを連結するアバットメントの3つで構成されています。

インプラント体(人工歯根)

人工歯根であるインプラント体は、チタンやチタン合金で作られているのが一般的です。チタンアレルギーがある人向けに、ジルコニア製のインプラント体も開発されています。

インプラント体はネジとほぼ同じ見た目で、顎の骨に埋入する際にもドライバーを使って回転させながら埋め込みます。標準的なインプラント体は、太さが3~5mm程度、長さは1.0mm程度の小さな装置です。

アバットメント(連結部)

アバットメントは、インプラント体と上部構造をつなぐ連結装置です。チタンやジルコニアで作られるのが一般的です。インプラント手術においては、2回目の手術に当たる2次手術でアバットメントを装着します。アバットメントは、インプラント体よりもさらに小さなネジのようなパーツです。

上部構造(人工歯)

一般的な被せ物、あるいは人工歯に当たるのが上部構造です。通常はセラミックで作られます。上部構造は口腔内に露出しているものであり、高い審美性が求められます。上部構造をどのような方法でアバットメントに固定するかを解説します。

上部構造の固定方法

上部構造の固定方法 上部構造の固定方法は、スクリュー固定とセメント合着の2つに大きく分けられます。ここではそれぞれの特徴と違いを解説します。

スクリュー固定

スクリュー固定とは、ネジ(スクリュー)を使って上部構造を固定する方法です。そのため、上部構造にはネジを通すための穴が開いています。アクセスホールと呼ばれるもので、専用のドライバーを使ってネジを回しながら固定します。着脱可能であるのがスクリュー固定の特徴となります。ただし、固定した後はレジンなどの材料でアクセスを塞ぐため、入れ歯のように患者さんが自由に取り外すことはできません。

セメント合着

セメント合着とは、歯科用セメントを使って上部構造を固定する方法です。銀歯を装着するときに行う方法と同じで、一度合着すると簡単には取り外せません。

取り外しが必要なときは、上部構造を壊さなければならないこともあるため、装着は慎重に行う必要があります。合着というのは、機械的な嵌合によって補綴物を装着する方法で、接着よりも固定する力が弱いとされています。

スクリュー固定とセメント合着の違い

インプラント治療のスクリュー固定とセメント合着には、以下の違いがあります。

◎見た目の違い

審美面では、スクリュー固定よりもセメント合着が優れています。セメント合着は、上部構造にアクセスホールがないことから見た目が自然で美しいです。

◎着脱の仕方の違い

スクリュー固定は、上部構造の着脱を前提とした固定様式です。一方で、セメント合着は、上部構造の着脱を前提としていません。そのため、セメント合着ではアバットメント、インプラント体に何らかのトラブルが起こって処置を施さなければならなくなったときは、上部構造を壊す必要があります。

◎インプラント体への負担の違い

セメント合着では、上部構造にかかった力が直接的にインプラント体へと伝わります。硬い食べ物を噛んだり、外傷で力が加わったりする際のダメージがインプラント体へと伝わりやすいため、破損のリスクが高まります。

スクリュー固定は、インプラント体と上部構造を連結する部分にネジが介在することから、外からの衝撃をある程度、緩和することができます。

スクリュー固定のメリット

スクリュー固定のメリット 次に、スクリュー固定のメリットを解説します。

上部構造の取り外しとメンテナンス性

スクリュー固定のメリットとしては、上部構造を取り外せる点が挙げられます。一般的な詰め物や被せ物、ブリッジなどは、土台となるものが天然歯なので、治療後に装置を取り外す必要はありません。適切な方法でケアをしていれば、装置を長く使うことができます。

インプラントは、歯根から歯冠までが人工物で構成されていることから、定期的なメンテナンスが必要です。天然歯よりもトラブルが起こりやすいため、細かなメンテナンスが望ましいです。

そのときに、上部構造を取り外してアバットメントやインプラント体の状態を肉眼で確認し、丁寧に清掃できるのが、スクリュー固定のメリットです。

インプラント周囲炎への対応

インプラントの寿命を縮める主な原因は、インプラント周囲炎です。インプラント周囲炎は、インプラント特有の歯周疾患で、インプラントの周りの歯茎や顎の骨に炎症反応をもたらします。歯周組織の破壊が起こり、インプラント体を支えきれなくなって装置の脱落を招くのです。

インプラント周囲炎は、アバットメントやインプラント体の周りに歯垢や歯石がたまることで発症リスクが高まります。スクリュー固定の場合は、上部構造やアバットメントを取り外してクリーニングできるため、インプラント周囲炎のリスクを下げられます。

過度な力が加わった際の緩衝作用

スクリュー固定におけるネジは、上部構造に過度な力が加わったときの緩衝作用もあります。過度な力によって、固定用のネジが緩んだり、破損したりする可能性はありますが、インプラント体や顎の骨へのダメージを緩衝してくれます。

スクリュー固定のデメリット

スクリュー固定のデメリット このように、スクリュー固定にはたくさんのメリットがありますが、いくつかのデメリットも伴います。スクリュー固定も決して万能ではないので、デメリットまで正しく理解しておきましょう。

アクセスホールの審美的影響

スクリュー固定では、上部構造にアクセスホールがついています。固定用のネジを直接、挿入できる構造となっており、丸い穴がぽっかりと開いています。そのままの状態だと目立つため、基本的には歯と似ている色のレジンで穴を埋めます。レジンで埋めても至近距離で観察すると、上部構造の見た目に違和感が出てしまうことは少なくありません。

スクリューの緩みや破損のリスク

日常的に使用している器具や家具なども、ネジで固定されているものは徐々に緩みが生じます。特にインプラントは、噛む度に大きな力が加わるため、スクリューの緩みや破損のリスクは避けられません。

ただし、この点はデメリットであると同時にメリットにもなりえます。固定用のスクリューであれば代替することも可能ですし、大切な上部構造やインプラント体の破損を免れることができるのなら、スクリューの緩みや破損は、デメリットよりもメリットの方が上回ると考えられます。ただし、インプラントにトラブルが生じる頻度は、セメント合着よりも高くなる可能性も理解しておきましょう。

詰め物の変色や摩耗

一般的にアクセスホールを埋めるために用いられるのはコンポジットレジンです。コンポジットレジンは歯の修復にも用いられる材料で、経年的な変色や摩耗が起こります。

変色や摩耗が起こるとアクセスホールが目立ちやすくなり、インプラントの審美性も低下してしまいます。ただし、コンポジットレジンは安価な材料なので、変色や摩耗が起こったらその都度、新しいものに交換ができます。

上部構造の固定方法を選ぶポイント

上部構造の固定方法を選ぶポイント ここまではインプラントの上部構造の固定方法について、スクリュー固定を中心に解説してきました。スクリュー固定とセメント合着で検討する場合、スクリュー固定の方が優れた点があるため、近年ではスクリュー固定を選択するケースが増えています。 ただし、治療する部位や治療する歯の本数によっては、適した固定方法は異なってきます。そこで、前歯部、臼歯部、多数歯欠損という3つのパターンに分けて、上部構造の固定方法を選ぶポイントを解説します。

前歯部での審美性重視の場合

前歯部は、もともと高い審美性が求められる部位なので、上部構造も審美性に優れた方法が適しています。前歯部のインプラント治療では、上部構造をセメント合着で固定した方が審美的な問題が現れにくいでしょう。

ただし、前歯部のインプラント治療でも、患者さんが審美性ではなく機能性を重視する場合は、スクリュー固定を選択しても問題ありません。前歯は上下左右で合計12本あり、部位によってはスクリュー固定のアクセスホールがあっても見立ちにくいケースもあります。目立ちにくい歯においては、機能性がやや劣るセメント合着を選択するメリットはあまり大きくありません。

臼歯部での機能性重視の場合

臼歯部のインプラント治療で機能性を重視する場合は、セメント合着ではなくスクリュー固定が推奨されます。上部構造をスクリュー固定すると、取り外しが行えてメンテナンス性が向上します。歯科医院でのインプラントクリーニングを徹底することで、インプラント周囲炎のリスクも低減できることでしょう。

また、奥歯というのは前歯より強い力がかかりやすく、インプラント体や顎の骨に大きな負担が発生します。スクリュー固定ならネジの部分が緩衝作用を発揮して、そうした負担を減らすことができます。同時に、奥歯のスクリュー固定では、ネジの緩みや破損と詰め物の変色や摩耗が起こりやすくなるため、定期的なメンテナンスの重要性も自ずと高まる点に注意が必要です。

多数歯欠損時の対応

たくさんの歯を失った多数歯欠損症例では、複数のインプラントを埋め込まなければなりません。インプラント治療も複雑になるため、治療の難易度が高まり成功率にも影響が及ぶ点に注意が必要です。

多数歯欠損症例のインプラント治療では、上部構造をセメント合着で固定した方が望ましいケースが少なくありません。なぜならセメント合着は、上部構造がシンプルな形をしており、型取りがしやすく、治療の精度も高めやすいからです。つまり、複数の欠損をインプラントで同時に回復させる場合でも、全体のバランスが取りやすく治療の成功率も高くなります。とはいえ患者さんの口腔内の状態によっては、セメント合着に伴うデメリットの方がメリットを勝る場合もあるため、多数歯欠損症例はあくまでケースバイケースで検討した方がよいといえるでしょう。

編集部まとめ

今回は、インプラントの上部構造の固定方法であるスクリュー固定の特徴やメリット・デメリット、セメント合着との違いについて解説しました。上部構造のスクリュー固定は、人工歯とアバットメントをネジでとめる方法で、取り外しが可能となることからインプラントのメンテナンスがしやすいです。噛んだときの力を和らげるクッションとしての機能も発揮するため、現状はセメント合着ではなく、スクリュー固定を選ぶケースが増えています。同時に、スクリュー固定にはアクセスホールが目立つ、スクリューが緩む、詰め物が劣化するなどのデメリットも伴うことから、ケースに合わせて適切な固定方法を選ぶことが大切です。

参考文献

この記事の監修歯科医師
箕浦 千佳歯科医師(長谷川亨歯科クリニック 歯科医師 / 名古屋デンタルオフィス)

箕浦 千佳歯科医師(長谷川亨歯科クリニック 歯科医師 / 名古屋デンタルオフィス)

朝日大学歯学部卒業 / 現在は長谷川亨歯科クリニック非常勤勤務

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