インプラント治療はリウマチでも受けられる?インプラント治療の適応条件や治療を受ける際の注意点とは
インビザラインは、基本的に誰でも受けられる治療法ですが、いくつか例外があります。例えば、顎の骨が著しく少なくなっていたり、重篤な全身疾患を患ったりしている場合は、インプラントが適応外となります。そこで気になるのが、リウマチを患っている場合です。
関節リウマチは、日本人の0.5〜1.0%に発症するといわれている病気で、進行すると骨や免疫機構に深刻な症状が現れます。リウマチを患っているとインプラント治療できないのではないかと不安に感じている方もいることでしょう。ここではリウマチとインプラント治療の関連や注意点などを詳しく解説します。
インプラント治療はリウマチでも受けられる?
リウマチを患っていてもインプラント治療を受けられるケースはあります。
リウマチの患者さんは進行度や症状、使用している薬剤の種類が異なるため、一概に適応の可否を論ずることはできません。リウマチを患っていることでインプラント治療が受けられない場合もありますが、これは、インプラント治療で相対的禁忌症となっている2型糖尿病や骨粗鬆症、高血圧症と同じです。
いずれも軽症から重症まで個人差が見られることから、まずは内科医と歯科医の両方にインプラント治療について相談しましょう。
リウマチの患者さんがインプラント治療を受ける際の注意点
リウマチを患っている方がインプラント治療を受ける場合は、以下の3点に注意しましょう。
免疫抑制と感染リスク
リウマチの治療は、第一選択として抗リウマチ薬が用いられます。抗リウマチ薬は、免疫調整薬と免疫抑制薬の2つに分けられます。特に、後者は免疫機能を抑制するため、細菌やウイルスに感染しやすい状態となります。そこで注意しておきたいのがインプラント治療における細菌感染のリスクです。
インプラント治療には外科手術が伴います。顎の骨にチタン製の人工歯根を埋める手術で、歯茎をメスで大きく切り開いたり、顎骨にドリルで穴を開けたりするため、術中術後は感染リスクが高まります。
抗リウマチ薬によって免疫が抑制されていると、通常のケース以上に重篤な感染を引き起こす可能性があるため注意しましょう。
また、インプラント治療では人工歯根が顎の骨と結合し、上部構造を装着した後も細菌感染に注意しなければなりません。インプラント周囲炎と呼ばれる、インプラント特有の歯周疾患で、天然歯の歯周病よりも発症リスクが高く重症化もしやすい病気です。
インプラント周囲炎は、インプラント治療が失敗する主な原因であることから、できるだけ予防しなければなりません。しかし、抗リウマチ薬によって感染しやすい状態が続くと、インプラント周囲炎の予防が難しくなるのも事実です。
骨粗鬆症と骨密度の低下
抗リウマチ薬のなかには、骨髄抑制の副作用を伴うものもあります。骨髄抑制とは、白血球や赤血球、血小板などが減少するもので、免疫力が低下するだけでなく、骨の代謝にも異常が現れることがあります。その結果、骨粗鬆症を発症して骨密度が低下するなどの症状が現れます。骨密度の低下は、顎の骨に人工歯根を埋め込むインプラント治療において、致命的な症状ともなりうるため注意が必要です。
服用中の薬剤の影響
抗リウマチ薬は、服用から2〜3ヵ月経過してから効果が発現される遅効性の薬剤であるため、強い炎症反応が起こっている患者さんに対しては、ステロイド薬が併用されることも少なくありません。
ステロイドは即効性の薬剤であり、強く現れている炎症反応をコントロールするのに有用ですが、感染症を起こしやすい状態になったり、高血糖や高血圧、胃腸障害などの副作用も現れることがあります。ステロイド薬によっても骨粗鬆症のリスクは増大するため、インプラント治療においては注意が必要です。
インプラント治療の適応条件
続いては、インプラント治療が可能な症例について解説します。リウマチなどの全身疾患を患っている場合は、インプラント治療が難しいケースと可能なケースにわかれることを知っておきましょう。
治療が難しいケース
リウマチで全身の免疫が顕著に抑制されていたり、重度の骨粗鬆症を発症していたりする場合は、インプラント治療が適応されにくくなります。薬物療法によって全身の状態を許容範囲内でコントロールできる場合は、内科医と連携を取りながらインプラント治療を検討することもあります。その他、以下に挙げる症状が認められる場合は、インプラント治療の適応外となります。
- 1型糖尿病
- 免疫不全
- 白血病などの血液疾患
- 心筋梗塞や脳梗塞を発症してから6ヵ月以内
- 放射線治療を受けている
- チタンアレルギー
治療が可能なケース
リウマチを患っていても、免疫機能や顎骨に異常が見られない場合は、問題なくインプラント治療ができることが少なくありません。以下に挙げる症状がある場合でも、薬剤によって病状を適切にコントロールができて、一定の処置により症状を改善できる場合は、インプラント治療が可能となります。
2型糖尿病
- 骨粗鬆症
- 高血圧症
- 骨の不足
- 重度の歯周病
リウマチの患者さんがインプラント治療を受ける際の流れ
リウマチを患っている方がインプラント治療を受ける場合は、次のような流れで診療を進めて行くことになります。
事前検査と評価
リウマチの患者さんのインプラント治療の事前検査と評価は、一般的な症例よりも注意して行わなければなりません。歯科医院では以下の検査を行います。
- 口腔内診査
- レントゲン撮影
- 血液検査
- 歯科用CT撮影
リウマチの患者さんでは、特に血液検査と歯科用CT撮影が重要です。血液検査では、抗CCP抗体やリウマチ因子(RF)、CRPの値が大切です。抗CCP抗体は、値が高い程関節の破壊が進みやすいことを意味しており、リウマチ因子は、関節リウマチの病態を見るうえで有用です。CRPは今現在、炎症反応がどのくらい起こっているかを確認します。
歯科用CT撮影では、顎の骨の状態を正確に把握します。顎の骨の幅や奥行き、深さを3次元的に描出して骨密度も調べます。このような精密検査の結果を総合的に評価して、インプラント治療が可能か診断します。
診断結果をもとに治療計画を立てるため、骨を再生する骨造成などの追加の手術が必要になるかもこの時点で計画します。
医科主治医との連携
リウマチ患者さんのインプラント治療は、歯科医院の検査診断だけで治療の可否は決められません。患者さんが受診している内科の主治医と連携し、医科主治医の意見も参考にしなければならないからです。基本的に、医科主治医がNGを出した場合は、インプラント治療を行うことは難しいと考えておきましょう。
医科主治医がNGを出した時点で、歯科医師はインプラント以外の治療法を提案することになります。医科の主治医からGOサインが出た場合でも、歯科側の受け入れ体制が整っていない場合は、インプラント治療がNGとなることもあります。いずれにしても早い段階から医科との連携は始めておいた方がよいでしょう。
手術前後のケアとフォローアップ
リウマチ患者さんのインプラント治療では、手術前後のケアとフォローアップが極めて重要となります。まず、手術前には内科医と密に連携を取りながらリウマチの治療を継続し、体調の管理を徹底します。このときに薬剤の種類や服薬の仕方を変える場合は、主治医の指示に従うようにしてください。インプラント治療までに体調を適切な状態まで改善できない場合は、手術自体が延期もしくは中止となる可能性もあります。
手術後のケアも通常以上に細心の注意が払われるでしょう。リウマチ患者さんは免疫機能が抑制されやすいため、顎骨の代謝も悪くなっていることが少なくありません。感染予防や患部への刺激を防止するなどの対応が必要です。また、インプラント手術終了後は、適切なタイミングを見計らって医科の主治医に経過を見てもらうことも重要です。
インプラント治療後の注意点
リウマチ患者さんのインプラント治療後で注意すべき点を解説します。
口腔衛生の徹底
インプラント治療後は、感染リスクを抑えるために口腔衛生を清潔に保たなければなりません。標準的な症例では、2回法と呼ばれる術式で行われます。人工歯根を埋め込む1回目の手術では、傷口を縫合糸でしっかり縫い合わせますが、手術から1週間程度は感染リスクが顕著に増加します。術後の腫れや痛みが強いからといって口腔ケアを怠ると、傷口から細菌が侵入して感染症を引き起こしてしまいます。
インプラント手術後の口腔ケアは、患部を刺激しないよう丁寧に行ってください。人工歯根を埋入した部位の両隣の歯は、歯ブラシで磨くのが怖いですが、やわらかめの歯ブラシで時間をかけ、丁寧に磨けば汚れをきれいに落とせます。その他の歯は普段どおりにしっかり磨きましょう。インプラント手術直後にうがいをしすぎたり、アルコールが配合されているマウスウォッシュを使用すると、傷口に悪影響があるため2〜3日程度は軽めのケアにとどめてください。
インプラント手術からしばらく経過し上部構造も装着した後は、傷口からの感染リスクは減少していますが、リウマチ患者さんの場合は依然としてインプラント周囲炎にかかりやすくなっているため、口腔ケアの徹底は継続するようにしてください。
定期的な歯科検診
インプラント治療後は、歯科検診を定期的に受けてください。3〜4ヵ月に1回くらいの頻度で歯科の定期検診を受けていれば、セルフケアでは落としきれない汚れを一掃できます。正しい歯磨き方法も身に付くため、口腔衛生状態を良好に保ちやすくなります。
通常の歯科検診と併せて、インプラントのメンテナンスも必要です。インプラントのメンテナンスは、上部構造やアバットメントのクリーニング、インプラント装置の異常の有無の確認、噛み合わせの調整などを行います。インプラントやその周囲に異常があると、細菌感染のリスクが高くなるだけでなく、装置の寿命も短くなるため定期的なメンテナンスは大切です。
ちなみに、インプラントに付いている保証は定期的なメンテナンスを受けていることが条件となっています。メンテナンスは適切な間隔で受診しましょう。
生活習慣の改善
生活習慣の改善が、インプラントに伴う感染症リスクの低減につながります。まず、改善すべき生活習慣は喫煙です。タバコの煙に含まれるニコチンは歯周組織の血流を悪くし、一酸化炭素は酸素の供給を滞らせるため、お口の健康およびインプラントにとっては百害あって一利なしです。リウマチによって免疫機能が低下している患者さんの場合はなおさらなので、インプラント治療前、治療後の禁煙は徹底するようにしてください。
その他、ストレスや疲れがたまりやすかったり、睡眠時間が不足したりする生活を送っている場合もその習慣を早急に改善するよう努めましょう。栄養バランスのよい食事を摂ることでも、お口の健康は維持して増進もしやすくなります。
編集部まとめ
今回は、リウマチを患っている場合のインプラント治療で注意すべき点について解説しました。リウマチは、治療薬によって免疫機能が抑制され、感染リスクが上昇するため、外科手術を伴うインプラント治療では十分な注意が必要です。患者さんの体の状態によっては、インプラント治療の適応が難しい場合もあるため、医科の主治医の意見を聴きながら、検討を進めていくことが必須です。無事にインプラント治療が終わっても、リウマチの治療は継続していくことから、定期的なメンテナンスやアフターフォローはしっかり受けるようにしましょう。
参考文献