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透析治療中でもインプラントは可能?リスクやできないケース、対処法も解説

 公開日:2025/12/24

「透析をしているけど、インプラントってできるのかな?」そんな疑問をお持ちではありませんか。慢性腎不全による透析治療を受けている方にとって、インプラント治療は慎重な判断が求められる医療行為です。 本記事では、透析治療中でもインプラントは可能なのか、以下の点を中心に紹介します。

  • インプラント治療とは
  • 透析治療中の患者さんはインプラント治療を受けられるのか
  • インプラント治療が難しい場合の選択肢

透析治療中でもインプラントは可能なのか理解するためにも、ご参考いただけますと幸いです。
ぜひ最後までお読みください。

見インプラントの基礎知識

インプラントの基礎知識

インプラントとはどのような歯科治療ですか?
インプラント治療とは、歯を失った部分に人工の歯根を埋め込み、それを土台に上部構造を取り付け、噛む機能や見た目を回復させる補綴(ほてつ)治療の一つです。
治療に用いられる歯科用インプラントは、主に以下の3つのパーツで構成されています。
  • インプラント体
  • アバットメント
  • 上部構造

インプラント体は、顎骨の中に埋め込まれる、歯の根の代わりとなる部分です。主にチタンなど、顎骨と結合しやすい金属で作られています。インプラント体が顎骨としっかり結びつくことで、噛む力を支える強い土台となり、天然歯に近い安定感が得られます。

アバットメントは、インプラント体と上部構造をつなぐパーツです。歯茎から少し出る位置に取り付けられ、上に装着する上部構造を固定する役割があります。

上部構造は、お口の中から見える歯としての部分です。セラミックなどの材料で作られ、天然の歯に近い色や形に仕上げられます。
噛んだり話したりする機能に直接関わるため、見た目だけでなく噛み合わせの調整も行いながら製作されます。

インプラントのメリットとデメリットを教えてください
インプラント治療には、メリットと注意しておきたいデメリットがあります。【インプラントのメリット】
1.しっかり噛める
顎骨にインプラント体を固定するため、噛む力が直接骨に伝わり、自然な噛み心地が得られます。2.自然な見た目に仕上がる
セラミックなどの素材を使用でき、周囲の歯と馴染みやすい自然な色調や形に整えられます。3.周囲の歯に負担をかけにくい
健康な歯を削る必要がないため、ほかの歯の寿命を縮めるリスクが軽減します。

4.顎骨が痩せるのを抑えられる
顎骨に力が伝わることで、歯を失った後の骨吸収を軽減できる可能性があります。

【インプラントのデメリット】
1.外科手術が必要になる
顎骨にインプラント体を埋め込む処置を行うため、術後に腫れや痛みが出る場合があります。

2.治療完了まで時間がかかる
インプラントが顎骨と結合するまで、数ヶ月の治癒期間が必要です。

3.費用が高額
保険適用外となることが多いとされ、1本あたり数十万円かかることがあります。

4.治療後のメンテナンスが必須
清掃が不十分だとインプラント周囲炎を引き起こす可能性があるため、定期的な通院が欠かせません。

このように、インプラントにはメリットがある一方で、治療期間や費用、術後のケアなども含めて総合的に検討することが大切です。

インプラント治療の流れを教えてください
インプラント治療は、いくつかの段階を踏んで進めていきます。まずはカウンセリングでお口の状態を確認し、むし歯や歯周病などがある場合には先に治療を行います。
その後、歯科用CT撮影や口腔内スキャンを用いて顎骨の量や形を精密に検査し、インプラントをどの位置や角度で埋め込むかなどの治療計画を立案します。手術では、麻酔をしたうえで顎骨にインプラント体を埋入します。
インプラント体の埋入後は、インプラント体が顎骨としっかり結合するまで数週間〜数ヶ月ほど待機し、安定を確認してから上部構造と連結するアバットメントを取り付けます。
その後、歯型を取り、周囲の歯と馴染むように調整した上部構造を装着します。治療が完了した後も、インプラントを長く使い続けるためには定期的なメンテナンスが欠かせません。
噛み合わせや清掃状態のチェック、プロによるクリーニングを継続し、よい状態を保てるようメンテナンスを行います。

透析とインプラント

透析とインプラント

透析を受けていてもインプラント治療を受けられますか?
透析を受けている方は、基本的にインプラント治療は推奨されません
インプラント治療は外科的な手術を伴うため、腎機能が低下している方は術後の合併症リスクが高くなるため、インプラント治療は慎重な判断が求められます。ただし、すべてのケースで不可能というわけではなく、主治医や歯科医師が連携して全身状態を慎重に評価したうえで、限られた条件下で検討されることもあります。
治療を希望する場合は、まず主治医に相談し、リスクと安全性を十分に確認することが大切です。
透析治療中のインプラント治療にはどのようなリスクがありますか?
透析治療中のインプラント治療には、以下のようなリスクがあります。
  • 感染リスクの増加
  • 全身への影響
  • 骨のもろさ
  • 出血のリスク
  • 治癒の遅れ

透析治療中の患者さんは免疫力が低下していることが多い傾向にあり、感染症を起こしやすいため、手術によって歯茎や顎骨に傷ができると、細菌感染が重症化するおそれがあります。細菌感染が進行すると、全身の臓器に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、透析による骨量の減少やステロイド薬の影響で骨がもろくなり、インプラントが安定しにくい場合もあります。

さらに、血液をサラサラにする薬を使用しているケースでは、手術中や術後に出血が止まりにくくなるリスクもあります。

インプラントが受けられないケース

インプラントが受けられないケース

インプラント治療を受けられないケースを教えてください
インプラント治療は外科手術を伴うため、すべての方が受けられるわけではありません。以下のようなケースでは治療が難しいとされています。1.未成年(18歳未満)の方
顎骨が発達途中のため、インプラントが成長に悪影響を与えるおそれがあります。2.骨密度が低い方(骨粗しょう症など)
骨がもろく、インプラントが十分に固定されず結合しにくい場合があります。3.歯周病やむし歯が進行している方
歯茎や顎骨に炎症があると、治療の成功率が低下します。

4.持病がある方
糖尿病や高血圧、腎疾患(透析中)などの患者さんは、感染や出血、傷の治りにくさなどのリスクが高まります。

5.妊娠中の方
身体への負担を避けるため、手術は推奨されません。

6.喫煙習慣がある方
血流が悪くなり、インプラント周囲炎などの炎症を起こしやすくなります。

7.定期的なメンテナンスが難しい方
術後のケアが不十分になると、長期的な維持が難しいとされています。

8.麻酔や手術に強い不安がある方
精神的にも身体的にも負担が大きく、手術が安全に行えないことがあります。

インプラント治療が難しい場合、ほかにどのような選択肢がありますか?
インプラント治療が難しい場合には、歯の欠損を補うために入れ歯やブリッジなど、ほかの治療法を検討します。入れ歯には、すべての歯を補う総入れ歯と、一部の歯を補う部分入れ歯があります。
部分入れ歯は金属の留め具で残っている歯に固定する仕組みで、保険診療で費用を抑えられます。
ただし、金具をかける歯に負担がかかり、汚れが溜まりやすいといったデメリットもあります。一方ブリッジは、欠損部の両側にある健康な歯を削って支えにし、連結した被せ物で欠損部を補う方法です。見た目が自然で固定式のため違和感が少ない一方、支えとなる歯に負担がかかります。このように、患者さんのお口の状態や希望に応じた方法を歯科医師と相談しながら選択することが大切です。

編集部まとめ

編集部まとめ

ここまで、透析治療中でもインプラントは可能なのかについてお伝えしてきました。
透析治療中でもインプラントは可能なのか、要点をまとめると以下のとおりです。

  • インプラント治療とは、歯を失った部分に人工の歯根を埋め込み、それを土台に上部構造を取り付け、噛む機能や見た目を回復させる補綴(ほてつ)治療の一つ
  • 透析治療を受けている方は、基本的にはインプラント治療は推奨されないが、ごく限られた条件下で検討されることもある
  • インプラント治療が難しい場合には、歯の欠損を補う入れ歯やブリッジなどの治療法を検討することになる

透析患者さんのインプラント治療には、感染や治癒遅延などのリスクが伴います。ほかの治療法も含めて、前向きに治療法を検討するためにも、正しい知識と歯科医師との相談を大切にしましょう。

これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この記事の監修歯科医師
松浦 明歯科医師(医療法人 松栄会 まつうら歯科クリニック)

松浦 明歯科医師(医療法人 松栄会 まつうら歯科クリニック)

出身大学:福岡歯科大学 / 経歴:1989年福岡歯科大学 卒業 1991年松浦明歯科医院 開院 2020年医療法人松栄会まつうら歯科 理事長就任 / 資格:厚生労働省認定研修指導医 日本口腔インプラント学会認定医 ICOI (国際インプラント学会)Fellowship認定医 / 所属学会:ICOI(国際口腔インプラント学会) 日本口腔インプラント学会 日本臨床歯科学会(SJCD) 福岡支部 理事 日本顎咬合学会 会員 日本臨床歯科CAD/CAM学会(JSCAD)会員

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