むし歯は自然治癒する?自然治癒に必要な再石灰化やむし歯の進行などを解説します!

歯が痛くてむし歯かな?と感じても、歯医者さんに行くのはちょっと怖いし、そのまま自然治癒してくれないかなと考えてしまう方も多いのではないでしょうか。
歯医者さんに行く時間もなかなか取れないなどで、できることなら自宅でのケアで治したいという方もいると思います。
この記事では、むし歯が自然治癒するものなのかどうかや、治すために必要な方法、そしてむし歯にならないためのポイントなどを解説します。
むし歯は自然治癒する?
結論からいえば、むし歯はごく初期の状態であれば自然治癒する可能性があります。
具体的には、むし歯はその症状の進行度合いに応じてCO(シーオー)とC1からC4という5つの段階に分類されますが、COと呼ばれる初期症状の段階であれば、自然治癒が可能です。
COはむし歯の原因菌が作り出す酸によって歯の表面が少し溶けだしてしまった状態で、歯の色が濁ったりするという変化が生じる段階です。
歯は再石灰化という機能である程度溶かされた組織を修復することができるため、COの段階であれば、適切なケアを行えば自然治癒が可能となります。
一方で、C1以降は歯が溶かされて穴が空いてしまっている状態です。
再石灰化は歯から溶けだした成分を補強することで歯を修復する機能であり、穴が空いてしまうとそこを回復させるという機能はありません。
そのため、C1以降の状態まで進行すると自然治癒が望めなくなり、歯科医院での治療が必要となります。
むし歯の自然治癒に必要な再石灰化とは
歯は、主にカルシウムとリンを主成分とする、ハイドロキシアパタイトという物質で構成されています。
歯の構造は表面側からエナメル質(またはセメント質)、象牙質、歯髄という3層構造になっています。エナメル質の95%、セメント質では65%、象牙質では70%程度がハイドロキシアパタイトで、それ以外は水分や有機質で構成されています。
ハイドロキシアパタイトは鉄よりも硬いといわれているほど頑丈で、それだけにこれを主成分とする歯は人体のなかで最も硬い部位ですが、酸性の物質に触れると溶けだしてしまうという性質があります。
そのため、酸性のものを食べたり、食べ残しに含まれる糖分を口腔内の細菌が分解する過程で作られる酸が付着したりすると、その酸によって溶かされてしまい、これを脱灰と呼びます。
一方で、歯には唾液中に含まれるリンやカルシウムを吸着して取り込むことで、歯を修復する再石灰化という働きがあります。
つまり、歯は酸によってカルシウムやリンが溶けだす脱灰が生じて脆くなってしまいますが、唾液中に流出した成分を再度歯に戻す働きによって、元の頑丈な状態に戻すことができます。
むし歯の初期状態というのは脱灰によって歯が脆くなった状態で、これよりも症状が進行すると歯に穴が空いてしまうという段階であるため、脱灰の防止や再石灰化の促進を行うことで、自然治癒が可能となります。
むし歯の進行度
前述のとおり、むし歯はその症状の程度によってCOおよびC1からC4という5つの段階に分けられています。
それぞれの状態について解説します。
自然治癒の可能性がある初期むし歯(CO)
COは、シーゼロではなくシーオーと読むもので、Caries Observationの頭文字を取ったものです。
Caries(カリエス)はむし歯、Observation(オブザベーション)は観察を意味する言葉で、むし歯の初期段階であるため、観察が必要であるという段階です。
COの段階ではむし歯を削るといった治療は必要なく、脱灰を防止して再石灰化を促すため、歯のクリーニングやフッ素塗布といった対応が行われます。
この段階のむし歯は痛みなどの自覚症状はなく、歯に穴も開いていません。歯がやや白く濁るなどの変化を起こしている程度であるため自分自身で気付くことはほとんどないため、歯科検診などで指摘されて初めて認識するような状態といえます。
つまり、この段階であれば自然治癒が可能である一方、そもそも歯科医院で指摘されて気が付くため、その場で適切な処置を受けることになるので、歯科医院に通わずにむし歯を治すというイメージとは異なるといえるでしょう。
エナメル質のむし歯(C1)
再石灰化による修復のスピードよりも、脱灰の方が上回っていると、そのうちに歯の表面であるエナメル質が溶かされ始めます。
このエナメル質が溶かされている状態が、C1段階のむし歯です。
エナメル質には神経がとおっていないため、溶かされて穴があいたとしても痛みを感じることはありません。また、エナメル質はとても丈夫な性質であるため、むし歯の進行も緩やかです。
歯が溶かされて穴があく状態ではありますが、この段階ではまだ小さい穴であることや、そもそもむし歯は、歯と歯の間など見えにくい(=ケアしにくい)場所でできやすいため、セルフチェックでも気付きにくいケースが多いといえます。
象牙質のむし歯(C2)
むし歯菌の感染がエナメル質を貫通して、歯の内部にある象牙質という層に到達するとC2と呼ばれる段階になります。
象牙質にもエナメル質と同様に神経はとおっていないことから、直接的な歯の痛みはまだ現われません。しかし、象牙質には細い管が無数にあり、この管をとおって刺激が神経に伝わる場合があることから、冷たいものや甘いものなどをお口に含んだときに刺激と感じる、知覚過敏状態になる場合があります。
また、象牙質は有機物を多く含んでいることから変色を起こしやすく、ここまでむし歯が到達すると歯が黒くなったりといった見た目での変化が出ることがあります。
象牙質はエナメル質よりもやわらかく酸に溶かされやすいため、C2以降になるとむし歯の進行速度は早くなります。
歯髄のむし歯(C3)
歯髄より内側、歯の神経や血管が集まった歯髄部分に到達したむし歯が、C3段階です。
神経に直接刺激が加わるため、ズキズキと継続的な痛みが現われる段階で、むし歯の痛みがあるという場合、C3段階に到達している可能性が高いといえます。
重症化したむし歯(C4)
むし歯の最終段階がC4と呼ばれる段階で、歯の根元である歯根部分にまで感染が拡大している状態です。
場合によっては歯の大部分が溶けてなくなってしまっていることもあります。
なお、この段階までむし歯が進行すると、神経が壊死することで痛みを感じなくなることがあります。
ただし、これはむし歯が自然治癒したのではなく、痛みを感じる機能が失われているだけであり、感染自体はまだ残っています。そのため、細菌が作り出した膿によって歯茎が腫れたり、膿によって歯茎の神経が圧迫されてより強い痛みが生じるということもあります。
むし歯の自然治癒を促進する方法
CO段階のむし歯を自然治癒させるためには、下記のようなケアを意識するとよいでしょう。
なお、C1以降のむし歯では完全な自然治癒は難しいですが、同様のケアによってむし歯の進行を抑えることは可能となります。もちろん、むし歯がない状態を維持するためにも有効ですので、日常的なケアとして取り入れるようにしましょう。
歯磨きを正しく行う
むし歯の予防、そしてケアのためには、やはり正しい歯磨きがとても大切です。
しっかりとした歯磨きで歯に付着した汚れやプラークを除去できれば、むし歯によって歯が溶かされる心配は少なくなります。
歯磨きは力のかけ方や歯ブラシの選び方なども大切ですが、磨き方の部分でも、歯と歯茎の間にブラシを差し込むようなイメージでケアするなど、磨き残しが出やすい部分を意識するとよいでしょう。
また、通常の歯ブラシだけではどうしても歯と歯の間に汚れが残りやすく、むし歯はこの部分から生じるケースが多いため、歯間ブラシやフロスによるケアはしっかりと取り入れましょう。
歯並びなど口腔内の状態は人それぞれで異なり、適切な歯磨き方法も一人ひとりで違いますので、歯科医院で自分にあった歯磨き方法の指導を受け、しっかりと磨けるようにすると、適切な歯磨き方法を身につけやすいのでおすすめです。
フッ素を利用する
フッ素には脱灰を予防し、再石灰化を促進する作用があるため、むし歯予防にとても有効です。
フッ素配合の歯磨き粉を利用したり、歯科医院でのフッ素塗布のケアを受けると、再石灰化が促進されてむし歯の自然治癒につながりやすくなります。
なお、フッ素は過剰摂取による問題などもありますので、フッ素入り歯磨き粉を選ぶ場合は、歯科医院で相談するとよいでしょう。
うがいを工夫する
うがいは手軽に行える口腔ケア方法の一つです。
殺菌作用のあるうがい薬などを使用することで、お口のなかの細菌を減らすことができるため、脱灰を防いでむし歯の自然治癒を促進することができます。
また、食後すぐに歯磨きが難しいような場合は、うがいだけでもしておくと口腔内の酸性状態を中和できるため、むし歯の進行予防につながります。
フッ素入り歯磨き粉を使用している場合は、歯磨き後のうがいを少量の水1回ですませることで、フッ素を流しすぎずに口腔内にとどめ、再石灰化を促しやすくなります。
キシリトールを利用する
口腔内の菌は、糖を分解して酸を作り出します。
キシリトールは糖アルコールというものの一種で、甘い味はしますが、菌が代謝に利用できず、酸を作ることができません。
また、キシリトールには酸を中和するアンモニア濃度を上げる働きや、むし歯菌によるリスクを低減する効果、歯の再石灰化を促進する効果などがあり、むし歯の自然治癒や予防に有効です。
唾液の分泌を促す
歯の再石灰化は、唾液に含まれるカルシウムやリンによって行われるため、しっかりと唾液が分泌されていることが重要です。
また、十分に唾液量があると酸が薄まるため、脱灰の予防にもつながります。
食事をよく噛んで食べるといった習慣をはじめ、唾液の分泌を促すようにすることで、むし歯の自然治癒も促進されます。
【進行度別】歯科医院でのむし歯治療
むし歯の治療方法は、症状の進行度によっても異なります。
それぞれの進行度に応じて一般的に行われる治療法を紹介します。
CO(初期むし歯)の場合
CO段階では、歯の再石灰化を促進すれば歯の健康を回復させることが可能であるため、歯を削るといった治療は行われません。
口腔内の細菌を減らして脱灰を予防するための専門的なクリーニングや、再石灰化を予防するためのフッ素塗布、そしてホームケアを適切に行うための歯磨き指導などが行われます。
C1以降は歯を削る治療が必要
C1以降、歯が少しでも溶かされてしまっている場合は、原因となる菌を徹底的に除去するため、一般的に歯を削る治療が行われます。
また、削った部分をそのままにしておくと、その部分に再度菌が付着してむし歯が再発しやすくなるため、歯科用レジンによる詰め物や、インレー、クラウンといった人工で蓋をする治療を行います。
歯髄まで到達している場合
むし歯が神経にまで到達している場合は、痛みを取り除くために神経を除去する治療を行います。
また、歯の根元部分までしっかりと細菌の感染を除去するため、根管と呼ばれる部分を広げ、歯の内部を掃除する治療が行われ、根管治療と呼ばれます。
根管治療を行うことでむし歯による痛みがなくなり、歯を残したまま治療を行うことが可能となりますが、神経が除去されることで痛みを感じなくなるため、再発してしまったときに症状がより進行しやすくなるなどのリスクもあります。
抜歯が必要な場合
むし歯が周囲の歯に悪い影響を与えてしまう可能性が高い場合や、高齢などによって適切なセルフケアが難しいと判断されるような場合は、抜歯が選択されることがあります。
抜歯によって歯が欠損した部位については、入れ歯やブリッジ、インプラントといった治療を行うことで噛み合わせを回復させることが可能です。
むし歯にならないためのポイント
むし歯は、なってから治療をするよりも、ならないようにすること、進行を防止することが大切です。
適切なケアにより、C1以降の本格的なむし歯にならなければ、自然治癒も可能です。
むし歯にならないためのポイントを紹介します。
食事内容や食事方法に気を付ける
むし歯は、食事に含まれる糖分から細菌が作り出す酸が原因となります。そのため、糖分が多い食事や、酸性の食事はむし歯のリスクを高めやすく、控えた方がよいといえます。
また、食事をするとお口のなかが酸性に傾きますので、食事に時間をかけすぎていると、それだけむし歯のリスクも上がります。
よく噛んで食べることは大切ですが、お酒を飲みながらなどダラダラと食べるなどの食事はむし歯のリスクを引き上げますので、控えるようにしましょう。
むし歯のセルフチェックを行う
むし歯はある程度進行しないと痛みなどの自覚症状が出ないため、しっかりとセルフチェックを行って、症状が出る前に見つけることも大切です。
歯磨きの際に目視でしっかりと確認するような習慣をつけたり、舌先や歯ブラシでなぞって歯に小さな穴があいてないかなどをチェックする習慣をつけておくと、むし歯を早めに見つけて削る量を抑えた治療ですますことが可能となります。
定期的に歯科検診を受ける
セルフチェックでしっかり確認しておくことも大切ですが、やはり初期のむし歯は自分では判断しにくく、歯科医師による専門的な診察を受けることが有効です。
3ヶ月に1回程度は歯科医院に通院して、定期健診と歯のクリーニングを受けておくようにすると、むし歯による大きなトラブルを未然に防ぐことができるので、ぜひ定期的な歯科検診を受けるようにしましょう。
編集部まとめ
むし歯は初期段階であれば自然治癒も可能ですが、歯に穴があく状態になってしまうと、歯科医院での治療が必須となります。
毎日の歯磨きをしっかりと行ったり、フッ素配合の歯磨き粉やキシリトールなどの使用によって歯の再石灰化を促進したりすることで、初期むし歯からの自然治癒が促進され、本格的なむし歯への進行を予防することが可能となりますので、まずはこうしたセルフケアを取り入れるようにしましょう。
そのうえで、定期的な歯科検診を受けて早期にむし歯を発見すれば、大きく削るような治療も必要ありませんので、まずはかかりつけの歯科医院に通うことをおすすめします。
参考文献