歯周炎は人にうつるのか?
こんにちは。日本歯周病学会専門医の飯島佑斗と申します。
歯周病にはどうしてなってしまうのでしょうか。その理由はご存知でしょうか。歯周病の原因は歯周病を引き起こす細菌の感染と言われています。では歯周病の細菌はどこからくるのでしょうか。
今回のテーマは歯周炎は人にうつるのかについてお話しさせていただきたいと思います。
監修歯科医師:
飯島 佑斗(飯島歯科医院・院長)
目次 -INDEX-
歯周病の原因
まず歯周病の原因についてです。
歯周病とは一部を除きほとんどが歯周病を起こす細菌による感染症と言われています。
歯周病の原因菌と言われている細菌は1種類ではなく複数の細菌が関係しています。
その中でも特に悪さをする細菌が3種類いて重度の歯周病の方はこの細菌の数が歯周病を発症していない方よりも多い傾向にあります。
そして歯周病は虫歯と違い、歯の周囲の歯茎や骨などの歯周組織と言われる部分に問題が起こります。歯周病は歯茎にのみに症状が起こる歯肉炎と歯肉炎が進行して起こる歯周炎に大別されます。
歯周病細菌とヒトとの関係
どんな人でも体の中にはたくさんの細菌が住み着いて、その細菌の集団は常在菌といわれています。常在菌の種類は体の場所によって大きく異なっていて、個人間でも大きな差がみられます。ほとんどの細菌は体に対してプラスに働くものが多いと言われています。
しかしひとたび細菌との共生関係が破綻すると細菌が悪さをしてしまいます。
15〜40歳の口の中が健康な成人からの歯周病の原因細菌で最も重要なポルフィロモナスジンジバリスという細菌の検出率は20〜50%程度と言われています。つまり歯周病の原因菌は口の中の常在菌であると考えられるようになってきています。
それは誰しもが歯周病発症の危険性があるということです。一方、ポルフィロモナスジンジバリスに感染していても歯周病になっていない人がいるということは歯周病は予防できるということです。
虫歯の原因菌であるミュータンスレンサ球菌は乳幼児期に感染すると言われています。しかし歯周病の原因菌であるポルフィロモナスジンジバリスは18歳以降の若者の口の中から見つかり、一方小中高生の口の中からは見つからなかったという報告がありました。つまり18歳以降に歯周病細菌の細菌集団が完成すると考えられています。
ただ完成したとしてもすぐに症状は現れません。感染を受けた年齢が若いこともあって、長期にわたって口の中の健康状態は維持されることが多いです。しかし、口の中の清掃不良や加齢などにより口の中の組織と歯周病の細菌集団とのバランスが一旦破綻してしまうと歯周病は発生してしまいます。このバランスが生涯維持されていれば歯周病が発症しない人もいます。
歯周病細菌の感染経路
ミュータンスレンサ球菌は母親の唾液を介して子供に感染します。歯周病の原因菌であるポルフィロモナスジンジバリスも唾液感染によってうつると言われています。
しかし感染経路ははっきりとわかっていません。ポルフィロモナスジンジバリスが家族から感染したと推測される食べ物についた唾液を介した日常的な間接感染は50%にも満たないと言われています。他に考えられる感染経路は、キスなどによる直接感染か、他人との食物を介した偶発的唾液感染が挙げられます。
歯周病を予防するためには
歯周病の発症を防ぐためには身体の抵抗力を下げることなく歯周病の細菌集団との拮抗関係を保ち続ける必要があります。
歯周病で最も悪さをする菌の集団(通称:レッドコンプレックス)は栄養素として鉄分が必要ということがわかっています。その鉄分はヒトの血液中のヘモグロビンからへミン鉄として手に入れています。しかし健康な歯肉の場合は歯と歯茎の間の歯肉溝には血液がないので歯周病の細菌はへミン鉄を摂取できません。
この栄養不足の状況下では口の中に定着していても増殖はできず、増殖できても栄養不足のため病原性は低いため歯周炎は起こりません。
しかし歯に汚れがたまるなどして歯肉に炎症が起こり、歯周ポケットの内面に潰瘍が形成されると潰瘍面に露出した毛細血管から歯周ポケット内に血液が供給されるようになり、歯周病の検査時やブラッシング時の出血として観察されます。そしてこの出血した血液から歯周病の細菌は栄養であるへミン鉄を獲得しどんどんと増殖して病原性を増していきます。
つまり歯周病を予防するためには歯肉からの出血を起こさないことで歯周病の細菌に栄養を与えなければ良いということがわかります。
まとめ
歯周病の原因細菌は口移しなどの唾液感染によって移るといわれています。しかし成人の半分近くには歯周病の原因細菌が存在していますが発症している人いない人がいるということがわかっています。
しかしひとたびそのような歯周病の細菌との共生関係が破綻してしまうと歯周病が発症してしまいます。単純に歯をしっかり磨いていないというだけでなく全身的な病気が潜んでいることもありますので少しでもお口の中で変だなと思った時には専門機関への受診をお勧めします。
参考文献:歯科衛生士のための21世紀のペリオドントロジーダイジェスト