歯周病と糖尿病
こんにちは、千葉県市川市の水野デンタルクリニック、歯周病専門医の水野剛志です。
今回は糖尿病と歯周病というテーマでお話させていただきます。
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はじめに
厚生労働省がおこなった平成19年国民健康・栄養調査によれば、日本において糖尿病が強く疑われる人は約890万人、糖尿病の可能性が否定できない人は約1320万人、合わせて約2210万人と推定されています。旧来から糖尿病患者は歯周病を高頻度に発症することが知られており、糖尿病は歯周病の危険因子と捉えられてきました。現在歯周病は網膜症、腎症、神経障害、抹消血管・大血管障害に続く糖尿病の6番目の合併症と提唱されています。さらに最近では、慢性炎症性疾患である歯周病が糖尿病自体の血糖コントロールに及ぼす影響について検討がなされ、二者の双方向性の関係がより重要視されるようになっています。
A:1型糖尿病、2型糖尿病とその疫学
1型糖尿病は、膵臓のインスリンを分泌するβ細胞が破壊されインスリン分泌が著しく低下し、最終的に枯渇するタイプの糖尿病です。新規発症のほとんどは小児期や若年期ですが、全糖尿病に占める頻度は低く5%以下であります。家族歴はほとんど見られず自己免疫疾患の一種と考えれています。
2型糖尿病はインスリン分泌の低下、もしくはインスリン抵抗性を主な発症基盤とする型の糖尿病です。多くは中年期以降に発症し、全糖尿病の患者の90%を占めます。家族歴が見られることが多いため何らかの遺伝要因がその発症に関与することが示唆される一方、それに加え食生活や運動などの環境因子がその要因に強く関連することは疑いがなく、いわゆる生活習慣病としての糖尿病がこの2型糖尿病と言えます。
元々日本人のインスリン分泌能は欧米人に比較して1/2と低いため、日本人における2型糖尿病はインスリン分泌低下に起因するといわれてきました。しかし、この50年間で日本において2型糖尿病が増えてきた最大の原因は、生活習慣すなわち環境要因の変化によってインスリン抵抗性が強まったためと考えられています。
その背景には、この50年間で脂肪摂取量が4倍に増加したこと、交通手段の発達に伴う運動不足によって肥満がとりわけ男性において急増していることが挙げられます。
B:1型糖尿病と歯周病
1型糖尿病の多くは若年期に発症します。したがって、加齢、喫煙といった要因を排除した上で糖尿病と歯周病の関連性を考察しやすいです。我が国における調査によれば、全身的に健康な20歳前後の若年者群における歯周病の罹患率は約1%程度であるのに対し、同年代の若年性1型糖尿病患者ではおよそ10%以上が歯周病に罹患していました。海外においても1型糖尿病に罹患している小児・若年者は全身的に健康な対照群と比較して、歯周病の罹患率や重傷度が高いことが示されています。
C:2型糖尿病と歯周病
2型糖尿病と歯周病の関連性を調べた研究では、2型糖尿病を高頻度に発症するアリゾナ州のピマ・インディアンを対象とした研究が最も有名です。1990年Nelsonらは2型糖尿病患者は同年代の非糖尿病患者に比べ歯周病の新規発症率が約2.6倍高いと報告しました。その後2型糖尿病の罹患期間や血糖コントロールに注目して多くの研究がなされ2型糖尿病とアタッチメントロスや歯槽骨の吸収度との関連性が明らかとなっています。
D:歯周治療が2型糖尿病に及ぼす影響
1997年Grossiらは歯周治療が2型糖尿病の血糖コントロールに及ぼす影響を見るために、歯周病を合併したピマ・インディアン族の2型糖尿病患者を被験者として2つの無作為化比較試験を行いました。その結果、ドキシサイクリンを投与し歯周治療をおこなった群においてのみ、HbA1c値が1%減少することを示しました。またわが国では、重度の歯周病を有する2型糖尿病患者に、局所抗菌薬投与を併用した歯周治療を行うことでTNF-αの血中濃度が減少し、インスリン抵抗性が改善することが示されています。すなわち慢性歯周炎を放置すると、インスリン抵抗性を介して2型糖尿病の病態へ影響を及ぼすことになるのです。
E:歯周病があると、どうして血糖値が高くなるのでしょうか?
なぜ、歯肉の炎症である歯周病が糖尿病に関わってくるのでしょうか。出血や膿を出しているような歯周ポケットからは、炎症に関連した化学物質が血管を経由して体中に放出されています。
ポケットから出て血流にのった炎症関連の化学物質は、体のなかで血糖値を下げるインスリンを効きにくくします(インスリン抵抗性)。そのため、糖尿病が発症・進行しやすくなるのです。
F:まとめ
糖尿病と歯周病の相関関係でわかっていること
糖尿病は、インスリンという血糖値を下げる働きを持つホルモンの作用が不十分なために、血液中のブトウ糖濃度が高い状態になってしまう病気のことです。血糖値というのは、ケーキやチョコレートなどの甘いお菓子を食べると上がります。糖尿病にかかっている方は歯周病を発症するリスクが高くなり、歯周病に感染すると糖尿病が悪化(重症化)するリスクが高くなることが明らかになっています。では、糖尿病と歯周病の相関関係について以下に示します。
・糖尿病の人はそうでない人に比べて歯周病を招きやすい
・糖尿病の人はそうでない人よりも歯周病が重症化しやすい
・糖尿病にかかっている期間が長い人ほど歯周病の罹患率が高い
・血糖コントロールがうまくいかない(高血糖状態)人ほど歯周病が重症化しやすい
・歯周病が重症化した人ほど血糖コントロールがうまくいかない
・歯周病の人はそうでない人に比べて糖尿病の指標であるHbA1Cの値が高い
・糖尿病の人が歯周病を治療すると、HbA1Cの値が最大1%改善する
このように歯周病の発症リスクと糖尿病の悪化のリスク、どちらも少なくするためには適切な歯周病治療をお薦め致します。